12:29 Q.E.D.
ナミダは自らの顔を手で覆って、目を閉じる。
立ち上がるとふらふらして、慌てたハツミが肩を貸して支えてあげると、大丈夫とだけ言った。
とても正気じゃいられそうにないナミダに代わって、ハツミが質疑を続けた。
「ジンさんは、どうしてそれの後に後追いをする形になったんですか?」
「――ヒヨリは死んだ、それも――彼女が望む結果にはならず」
「なるほど」
ハツミが気を利かせて、椅子の上にナミダを座らせる。
ヒヨリは、すべての原因が姉にあると言っていたが――それは違う。そもそもジンにヒヨリが出会うことさえなければ誰も死ななかった。そう考えればヒヨリの自己責任ともとれるが、
「ジンさん……あなたにカエナのことを責める義理ない。そこだけは勘違いしないで」
「……」
気分が悪くて喋れないナミダの代弁者として、ハツミが発言する。ずっと眉間に皺が寄ってるけど、少し性欲が強いだけで常識人なんだな、と実感する。
「邪な感情が芽生えたのも愛だと聞こえの良い言葉で騙るなんて荒唐無稽。本当に好きだと思ったなら、未来のことを見据えなければ承認欲求と変わらない」
「ワタシは本当に愛していました。ヒヨリのことを――」
ジンは今すぐにでも馬に乗り出してこの場から逃れたかった。すぐに追いつかれてハツミという女に殺されかねないから実行はできないけど。
「カエナには迷惑を掛けたと思っている。だから許してほしい。もう一度彼女に会えたのなら、謝りたいとも思っている」
「……残念だけど、絶対に会わせるわけにはいかない。それは最初に僕と約束した通りだ」
肩を落としてだいぶ落ち込んでいるジンを横目に、ナミダとハツミは少し離れた位置で内緒話を始める。
「カエナのことは、僕に任せてほしい」
「大丈夫? ショッキングな内容だったからだいぶ具合悪そうだけど――」
「ああ、問題ない。僕にはルルゥもいるからね……。ありがとう、まさか本当に協力してくれるとは思わなかった」
ハツミは目を丸くして、嬉しそうに頷いた。
動物に例えるなら見えないしっぽをぶんぶん振っているようにも見えるが、彼女のおとなしさ的には猫のようだ。猫がしっぽを振る合図は「うっとうしい」という意味が込められている。
「今日はあと一回、手伝ってもらうことがある。最後まで協力してほしい、ハツミの力が必要なんだ」
「まかせて、絶対にうまくいくようにがんばる」
ふんすふんすと鼻息荒くして、だいぶ気合が入っているようだ。
ハツミと出会って数時間。こんなにも従順に手懐くとは思わなくて、ルルゥに引き続き第二の人間セラピストとして特許を取ろうか考えるレベルである。その場合、風営法違反に引っかからないか心配だ。ってかその逆版がキャバクラとかガールズバーなのか? ということはナミダがこれから取ろうとしている特許とはホストのことなのだろうか。
「なあハツミ、僕の言うことをどうしてそんなに素直に聞いてくれるんだ?」
「だんなさまは、私の未来のだんなさまだから。およめさんはだんなさまの言うことは絶対服従だから」
「ハツミにとっては亭主関白が理想の結婚生活なのか」
飯は上手く作れ、いつもきれいでいろと言ったら一生そうしてくれそうなハツミであるが、ナミダはなぜここまで自分が気に入られているのかの原因を結局は知ることはなかった。
⌛
それからは2人はカエナの元まで戻り、何事もなかったかのように振る舞った。
テーブルに着くと見たことのないコース料理みたいなものを勝手に注文されており、ぼこって腹が出るレベルまで大量の昼飯をたいらげるカエナ。当然銅貨9枚では全然足りないな、と3人は日が暮れるまで皿洗いを手伝った。




