13
運が良かった。とは言え、俺が特殊な能力を持っているとザイツェンさんに知られている事には変わらない。この人の事だ、状況によっては俺が不利になるような行動を起こす可能性もあるから気を付けねば。
「ん~・・・そうだな、一つ一ゴーンで最小購入単位は十個か五十個でどうかな?親父さん」
「そうすると、売値は十個で二十・・・いや、日持ちする事を考えたら十五って所か。ザイツェン、それで構わねぇか?」
「あ~・・・ちと安いが、気軽に消費出来る方が継続的に購入する奴も増えるか・・・・・」
「決まりだね。ブレッド君この木箱に何個位入ってるんだい?」
「えっと・・・い、一万個程・・・・・」
「はい、最初に言ってあった通りこの分は僕が買い取るよ」
そう言ってアルバさんは何て事無いかのように金貨を渡してくれた。この人は本当に凄い冒険者なんだろう。これ位なら簡単に稼いでしまうような気軽さだ。
「おい、坊主。明日までにうちに二万用意出来るか?」
「うちには一万だ、ブレッド」
「あ・・・はい!出来る限り頑張ります!!アルバさん!貴方のお陰で助かりました!本当に有難う御座います!!」
「ははは・・・良いって。ああ、当分は大丈夫だけど、補充分は親父さんの所から買うからさ。勿論仕入れ値でね」
「はぁ・・・仕方ねぇな。他の奴に言うんじゃねぇぞ」
「解ってるって。それじゃブレッド君、頑張ってね」
「はい!それじゃ、明日の準備が有るので俺も帰ります。皆さん本当に有難う御座います!」
これで何とか借金返済の目途が立ったと意気揚々と家に帰った。今日だけで一万以上、明日には三万以上手に入る。毎日この金額が手に入る訳じゃないけど何とかなりそうだ。
家に帰ると用意してあった木箱に乾パンを出して行った。木箱二つに入れ終わる頃に気を失ったが、昼には目を覚まし、子供達の昼食を出してから残り一箱分の乾パンを出した。
翌日にベンゾさんとギルドに配達。最初の内は余り売れ行きは良くなかったけど、口コミで徐々に売り上げは伸びて行った。五日に一度の補充が四日になり、三日になり・・・販売開始から五十日で二日に一度の補充になった。
「本当に有難う御座います。貴方のお陰で冬を越せそうです・・・本当になんとお礼を言ってよいのか・・・・・」
返済を終え、冬支度も終えた終期を目前に控えたある日の夜。ライザにもう何度目になるのか解らない礼を言われた・・・何時もの寂し気な笑顔で。
「・・・最初はさ、皆に食われて消えるんだって覚悟してた・・・・・でも、元に戻って・・・皆に笑顔でいて欲しくてさ・・・・・だから良いんだ、ライザが気にする事は無いんだよ。俺がやりたくてやった事なんだから」
借金の返済をして行く上で俺にもメリットが有った。町中に散らばった‶俺〟が見聞きした情報が俺の知らない常識を埋めてくれた。そして、町中で犯罪が起こった事を知ればザイツェンさんに協力して貰い、町の衛兵に犯人を捕まえて貰ったりもした。勿論ザイツェンさんに俺が‶人〟でない事は話していないが、俺が何某かの能力で情報を集める事が出来るのを知っているので利用させて貰った。
尤も、そのお陰でザイツェンさんの町での株も上がり、有力者との繋がりも増えたみたいなのでお互い様だろう。
俺がこの町で暮らしていく基盤が整った。後は子供達が大人になり、巣立って行くまで見守って行こう・・・彼女と二人で―――
「あ、あのさ・・・俺、ライザに言いたい事って言うか、聞いて欲しい事が有るんだけど・・・・・」
「はい?何でしょうか」
「あ~、その・・・お、俺と!・・・え?・・・嘘・・・だろ・・・・・」
「ど、どうしました?」
話の途中で突然立ち上がった俺を困惑した顔で見上げるライザに俺は―――
「・・・こ、鉱山都市が・・・陥落した・・・・・」
と、悲痛な表情で告げた。
ここまで読んで頂き有難う御座います。