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「おう、まあ座れや」
「はい・・・・・」
何が何だか訳も解らず、連れて来られた部屋で椅子に座らされた。エミリーさんの怯えようから察するにギルドマスター辺りなんじゃないかとは思う。でも俺に何の用だろうと首を傾げていると、俺の正面に座った彼はにやりと笑い話し始めた。
「まあ、そう固くなるな。俺はここのギルドマスターをやってるザイツェンってもんだ。この間職員連中に焼き菓子見てぇな保存食を渡したのはお前で間違いないか?」
「え~っと、多分俺だと思います。アルバさんに依頼された物なんですけど、言伝を頼んだのでそのお礼に五十個程置いて行きましたので」
「そうか・・・で、そいつはお前が作ったと言う認識で間違い無いんだな?」
「はい、そうですけど・・・あ、何なら出しましょうか?少しですけど持って来てますし」
俺は肩掛け鞄に手を入れて乾パンを十個程出してテーブルの上に置いた。ザイツェンさんはテーブルの上に置いた乾パンには目もくれず、睨むような目付きで俺を見据えた。
「おい・・・てめぇ何者んだ?こいつはその鞄に入ってたもんじゃねぇだろ?今、その右手から出したもんだ、違うとは言わせねぇぞ」
え?・・・何だこいつ・・・・・どうして?俺は鞄の奥まで手を入れていた筈だ。見える筈が―――
「図星みてぇだな・・・・・忠告してやる。ある程度の実力が有ればその程度の誤魔化しなんざ利きゃしねぇ。魔力の動きなら初級の魔術師でも感知出来るんだよ」
「・・・・・ハァ・・・そうですか。ご忠告感謝します。で、俺を如何しようって言うんです?場合によっては全力で抗わせて貰いますけど?」
この世界の事で知らない事が多過ぎる。冒険者が居るから魔力とか魔法は有るんじゃないかとは思ってたけど、まさか自分が使ってるなんて思いもしなかった。
ザイツェンさんの目を見据え、返答次第では直ぐにでも逃げられるように身構えた。何が何でも逃げ切ってほとぼりが冷めるまで家に閉じ籠ろう。アルバさんとは・・・連絡、取らない方が良いんだろうなぁ・・・・・
悪い事は続くと言うが、正にその通りで・・・この最悪のタイミングで俺の身体が光を放った。
「何っ!」
ザイツェンさんが驚きの声を上げ、右手で顔を隠した。お、チャンスか?つーか逃げよう。聞かれても説明出来ないし。
俺は椅子を後ろに倒しながら飛び退き、背後の扉へと駆け出した。
「残念だったな。まだ話は終わっちゃいねぇぞ。席に戻るんだな」
「クソッ!離せえええぇぇぇ!!」
が、流石ギルドマスターと言うべきか、俺が扉に手を掛ける直前にザイツェンさんに両肩を掴まれ、そのまま部屋の奥まで引き摺られてしまった。なんて力だ!引き剝がせねぇ!チクショウ!こうなったら奥の手で―――
「勘違いすんな。お前を如何こうする気はねぇよ。少なくとも魔族じゃねぇみたいだしな。まぁ、取り合えず落ち着け」
「へ?」
ザイツェンさんは右手で俺の首根っこを掴んだまま、左手で倒れた椅子を起こして俺を座らせた。何だ?魔族?訳が解らん。
「如何言う絡繰りかは解らねぇが・・・お前、今‶祝福〟受けたろ。魔族なら祝福は受けねぇから、少なくともお前は‶敵〟じゃねぇって事だ。こいつを出したのは差し詰めお前の能力、収納魔法ないしユニークスキルって所か」
何だか次から次へと知らない言葉が出て来る。いっその事ザイツェンさんに聞くか?でもなぁ・・・墓穴掘りそうな気もするし、止めといた方が無難かな。
「深く詮索はしねぇよ。自分の能力、特に特殊な物は他言しないのは普通の事だしな。でだ、こいつはどれ位出せる?総量によってはここで売ってやるぞ」
ザイツェンさんの用は俺に取って願っても無い申し出だった。どれだけ出せるかなんて俺にも解らないが、少なくとも千個単位で出せるだろう事は感覚で理解していたからだ。でも・・・この話に乗っても良いのだろうか?この人を信用しても良いのだろうか?万が一にも俺の秘密が口外されれば俺はもう―――
「俺を信用出来ない・・・んだろ?警戒するのは悪い事じゃない。考える時間をやる、俺と・・・いや、ギルドと取引する気になったら何時でも来い。言い値で買い取ってやるからよ」
俺は「はい」とだけ返事をしてギルドを出て家に帰った。はぁ・・・どうしたもんかね・・・・・
ここまで読んで頂き有難う御座います。