武士の子
日野山城。
ここで俺の新しい生活が幕を開けた。
漢詩や書、兵法などの勉学。今まで助六に教わっていた武術も吉川家の若侍たちにバシバシ鍛えられた。
勉強に関しては元の世界でコツコツやってきた。これだけは自身を持って言える。
武術も、助六の稽古よりも厳しくなっているような気がするが耐えられるものだ。
俺が最もきついと感じたのは武士の作法とかいうものである。
今まで作法とは程遠い山間の村で育った俺にとってそっち方面の耐性は皆無であった。
作法なしでやっていけないか若侍にも聞いたがこればかりはしっかりしなければいけないらしい。
武士の子というのはこれほど厳しいのかと俺は身にしみて感じていた。
しかし、母が居ない俺に武士とは何ぞやを教えてくれる家中の人たちのために、俺は立派な武士の子にならなければいけない。
俺はここでやっていく決意をした。
俺の住む日野山城には俺と親しくしてくれる兄貴分のような男がいる。
“吉川元資”
この城の主である吉川元春の息子。俺の従兄にあたる人物である。
元服したてで戦場に出たことはないらしいが、俺に武士の何たるかを教えてくれる人物である。
俺はそんな彼に敬愛の意を込めて“兄”と呼んでいる。
「興丸、少し手合わせせぬか。」
いつもの通り元資兄からの手合わせの誘いである。
この城に来てから俺はいつも元資兄から剣術の手合わせをしている。
しかし6歳も年上である元資兄に剣術でかなうはずもない。
だが俺はこの勝負をいつも楽しみにしているのである。
手合わせの誘いを承諾し、城の中庭に出る。
「どれだけ強くなったか、この兄に見せてみろ。」
元資兄はそういうとこちらににじり寄ってくる。
「とくとご覧あれ。」
俺も見栄を張り、向こうににじり寄る。
ここからはいつもの展開が巻き起こる。
しばらく打ち合いになり、きりが良いころに元資兄が本気を出して俺を打ち負かす。
途中までは手を抜いてくれるが、剣術で勝ちきるにはまだまだだろう。
実力ではまだまだの俺を元資兄はどうにか褒めてくれる。
年甲斐もなく素直にうれしい。
これが俺の城内での楽しみであった。
俺が日野山城に来てから1年程経った頃、びっくりするニュースが飛び込んできた。
“父、毛利隆元の死”
備後の家臣の城で応対を受けた後に急死したらしい。
俺にとっての父は母の死後に郡山城で一度会っただけの存在である。
だが俺が武士の子としてここ日野山城に来るきっかけとなった存在でもある。
俺が元資兄や吉川元春、吉川家の若侍たちを出会うきっかけとなった存在である。
俺は父・毛利隆元のことはほとんど知らない。
しかし母を失った俺に居場所を与えてくれた。このことに関しては感謝している。
俺は郡山城の方角に黙祷をささげた。




