take8 家族からの電話
十二月二十九日——
心に重たいものをぶら下げたまま、家に着くなりベッドに倒れこんだ。そこまでは覚えている。あのとき、なぜ嫌な気持ちにさせてしまったのか、自分でもよく分からない。
(参ったな…どうしよう…)
悩むものの、理由も分からないし、名案もでない。そして、年末年始をこちらで過ごすので、完全に一人である。
(とりあえず、お風呂に入ってから考えるか)
と思って、お風呂にお湯を貯めようとしたとき、電話が鳴った。慌てて電話の主を確認すると、父親だった。
(最悪なタイミングだな…)
とはいえ、出るしかない。僕は応答のボタンを押した。
「はい、もしもし」
「泰典、元気か」
「あぁ、元気だよ」
「こっちへは帰らないのか」
「あぁ、そのことね。バイトと集中講義があってさ」
「集中講義などないって書いてあったぞ。それと…飲食店じゃないなら、アルバイトも休みだろ。その程度で騙せると思ったのか。」
「……」
「返事はなしか、泰典。何もないなら、帰ってこい。」
完全に見抜かれていた。僕は何も反論できなかった。
「それでも、帰ってこないと言うなら、生活費の仕送りを無しにするぞ。」
「わかりました…帰ります…」
「チケットは自分で用意できるな?」
「はい…」
「明日、夜までに帰ってくるように。いいな。」
「わかりました…」
僕は通話が切れたのを確認して、ふぅ…とため息をついた。この問い詰めるような父親の話し方は未だに慣れないし、対応できない。完全に気が重くなってしまって、その場にしゃがみ込んだとき。電話が鳴った。姉からの着信だった。
「もしもし」
「おー、泰典。元気かー」
「元気だよ、姉さん」
「元気なら、よかったー。前の話はうまくいった?」
(恐らく、前に服のことを相談したことだな。)
「あ、あぁ、あれね。うまくはいったよ。」
「よかったー。私がプロデュースした甲斐があったわね」
「あのときはありがとう。助かったよ」
「ふっふっふっ、弟の願いとあれば、お姉ちゃん頑張っちゃうからな」
姉のこの軽いやり取りは、今の自分にとって、とてもありがたかった。
「さて、弟よ。本題がある」
「何、姉さん?」
「先ほど、お父さんから『年末年始は帰ってこい』って連絡が来なかった?」
「あぁ、ついさっきね、来たよ」
「その件でね、あんたに言わないといけないことがあってね」
「うん、なぁに?」
「会わせたい人がいるのよ、ご挨拶ってやつ」
「あぁ、姉さん、ついに…」
姉さんにはお付き合いをしている人がいるのは知っていた。付き合いも長く、『そろそろ籍を入れるかも』という話は受けていたので、納得の展開だ。
「そそっ。それで、年始にご挨拶に行こうって話になってるのよ」
「あぁ、それでお父さんは帰ってこいって言ってたのか」
「お父さんからこの話は聞いてなかった?」
「いいや、全く。帰ってこいしか言われてない」
「あぁ、お父さん、いつもの言葉足らずか…」
電話の先で姉がため息をつくようにつぶやいたのが聞こえた。
「ごめんね、私のせいで強引に実家に帰らせて…」
「いや、別に大丈夫だよ。姉さんがそういう事情なら」
「会ってくれたら、すぐ帰りな。あんまり居ても、しんどいだけだろうから」
「うん、わかった」
「あんたはいつ帰ってくるの?」
「明日の夜までには着くように今からチケットをとるつもり」
「わかった、途中で拾っていこうか?」
「いいの、姉さん?」
「いいよ、私も明日の夜に着く予定でいたから」
「じゃあ、お願いします」
「おっけー、じゃあチケットが取れたら、メールしてね」
「うん、わかった」
「じゃあ、またね」
ばいばいと言ったところで、通話は切れた。
(そういう理由があるんなら、まだ気は楽かな…)
僕は少しだけ晴れた気持ちで、お風呂に向かった。
(さて…あいつらにも言っておくか。)
お風呂から出た後、僕はSNSのアプリを起動した。大学のサークル仲間で、今年の夏にサークル内で起こったある事件を一緒に解決したメンツでもある。
『やす:俺も実家に帰ることになった』
『ミノ:おおっ、楽しんで』
『Shun:ということは、ぼっちじゃなくなるのか』
『Massa:新年を一人で迎えるのは辛いからな。よかったやん』
『ミノ:実家は最高だぜぇ』
『やす:実家に帰ると、ご飯の準備をしなくて済むのは楽だよな』
『Massa:普段から実家住まいだから、たまには一人でいたい』
『Shun:それな』
『ミノ:そういや、やすの実家ってどこだっけ?』
『やす:香川』
『Massa:おっ、讃岐うどん食べれるやん』
『Shun:お土産に讃岐うどんをよろしく笑』
『やす:色々なうどん店があるから、旅行しに来い笑』
『ミノ:一度くらいは行ってみたいよな、四国』
『Shun:卒業旅行で行くのはありかもな』
『Massa:いや、そこは海外だろ』
『やす:卒業旅行は海外がいいと思うよ』
『Shun:えー、国内のほうが安心感があるやん』
『Massa:海外も海外で楽しいぞ』
『ミノ:さすが、Massa…』
『やす:ゲームの聖地巡りのために海外旅行に行っただけある…』
『Massa:ドイツはいいぞぉ』
『Shun:でた、ドイツ笑』
『ミノ:その行動力と経済力がうらやましいわ』
『Massa:実家暮らしの強みです笑』
僕はしばらく友人たちとのやり取りを楽しんでいた。真典のドイツ話が一通り終わり、区切りがついたところでお開きになった。
(さて、準備をしていきましょうかね…)
僕はスーツケースに衣服を詰め込んで、実家に帰る準備を整えたのだった。