take11 話し上手と話し下手
一月二日夜———
(ふぅ……ようやく着いた)
飛行機と電車を乗り継いだ僕は、早々にお風呂に入って、家のベッドに倒れこんだ。
(やはり、実家で過ごすのはかなりのストレスだな……)
早く帰らないといけない理由を咄嗟に創ったはいいものの、あの様子では納得していないだろう。丁度いい“嘘”をつくのは慣れない。そもそも、どうやって丁度いい “嘘”を創るのか。
『人には優しく。困っていれば助けよ。そして、嘘をつくな。』というのが、我が家の家訓である。
(その家訓は父さんの職業柄のせいでもあるんだろうけどね……)
この家訓を守ったことで、人に嫌われたことはない。けれども、本当のことを話すことだけでは、だんだんと人と話を合わせるのが難しくなってきた。人には嫌われないが、人気者にはなりにくくなる。クラスでも大学でも、人気者は丁度いい“嘘”を創るのが上手だった。
(完全な間違いでもなく、完全な真実でもない。非常に曖昧なバランスで成り立つ“嘘”というものはどうやって生み出せるのだろう……)
自分の専門とする化学は正直だ。間違った薬品や手順の組み合わせでは、反応は進まないし、狙ったものが創れない。自分が進もうと思った道は、家訓の考えとは非常に相性がいい。計量可能なものを相手にするというのは非常に楽だ。それに比べて、人の気持ちというのは、すごく難しい。薬品以上に扱いの繊細さが求められるし、計量不可能だ。
(悩んだところで、どうにもならないのだけどなぁ……)
僕は、気晴らしのためにパソコンを開いて、動画配信サービスで動画を見ることにした。
(白石さんの出ているアニメでも見てみようかな……)
検索欄に白石さんの名前を入れてみたところ、トーク番組が出てきた。
(ちょっと見てみるか……)
どうやら、アニメ関連イベントとして、トーク番組が毎週のように実施されていて、白石さんがたまたま出演する回があったようだ。
(へぇ……今の声優さんは、バラエティにも強くないといけないのか……大変だな……)
芸能界という世界は自分には縁が遠いものだなとつくづく思う。人を楽しませるという仕事は、やりがいはあれど、やはり大変だ。
(やっぱり、トークが上手いなぁ……)
司会進行を務めている別の声優さんからのフリにもスラスラ答え、その答えにもファンが笑うようなネタを交えているようで、大盛り上がりの様子だった。終盤に差し掛かり、リスナーからの投稿に答える時間になっているようだ。
『ええーと、最後に白石ちゃんに聴きたいことは……好きな人はどういうタイプですか?ですね!定番の質問ですね~。これは白石ちゃんのファンは必見かな~』
『好きな人……。そうですね……。とにかく優しい人がいいですね!』
『ちょっと~、当たり障りない回答をしないでよ~。ゲームの有償ガチャをどれだけ回しても、何も言わない人とかは?』
『そうですね、ガチャは回しすぎてしまう時があるので、それを優しく止めてくれる人だといいですね。』
『白石ちゃんも結構ガチャ回しちゃう人なんだね。分かるわぁ……。ついつい自分の声のキャラが出るまで回しちゃうもんね……』
『そうなんですねぇ……。出るまで、回すとあっという間に貯金が減ってしまうので……。それを止めてくれる人は必要ですね』
『そうだねぇ……。私もそういう人がいてくれると助かるし、優しく止めてくれたら好きになるかも~。他に、好きなタイプはないの?』
『そうですね……。ピンチの時にちゃんと助けてくれる人ですね。仕事以外で。』
『仕事以外で?』
少しドキッとした。あの夜のことでも話すのだろうか?少し期待もありつつ、集中して聞いていると
『はい。仕事で起きるピンチは自分で切り抜けないといけないのですが、仕事以外でピンチになった時に頼れる人がいると心強いですし、好きになりますね。』
『例えば、どんなピンチのときに助けてくれると嬉しい?』
『ええっと、忙しいときにご飯を作ってくれるとか。特に栄養バランスを考えてくれるとかがいいですね。』
『かなり家庭的な話だねぇ。確かに、忙しいとご飯食べるとか、栄養バランスに気を遣う余裕とかなくなっちゃうよね。』
『そうなんですよね。お仕事に穴をあけないようにするために、ご飯を食べて健康でいることは大事ですから!』
『ねー。ちなみに、結婚するなら、やっぱり料理できる人がいい?』
『それは、そうですねー。おいしいご飯は仕事を頑張る源ですし!私、食べるのも好きなので!』
『白石ちゃん、料理つくるのもうまいもんねー。これは、結婚相手もなかなか大変だー。』
あの夜のことはなく、健康と料理という話にオチをもってきたようだ。話すのかと、ドキドキしていたものの、正直に話すことによるダメージを考慮してのことだろう。
(ファンの心を掴むためとはいえ、なかなか、踏み込んだこと聞いているなぁ。白石さん、料理つくるのうまいんだ……)
自分との共通点があって、少しドキッとした。料理は化学実験と似ているところがあり、得意なことの一つだ。友人たちと集まるときも、自分が料理担当で振舞うことはよくある。
(人が美味しいって言って食べてるところを見るのはいいものだからな……)
そのあとの続くトークを聴き終わり、時計を見ると、ちょうど短針が一二時を指していた。
(そろそろ寝よう……)
明日は何しようかと思案しながら、布団にくるまりながら、夢の中へ意識を飛ばした。




