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日向の君と日陰の僕  作者: からむますたー
11/11

take10 僕が父を苦手とする理由

一月二日——

『今日は彼に会ってくれて、ありがとうね。私は彼を送っていくから、送れないけど。居心地が悪いなら、できるだけ早く家を出るのよ。』

無事に姉の彼氏さんのご挨拶も終わり、姉は彼氏さんを送るために一足先にお別れした。


(用もなくなったわけだし、早いとこ自分の家に戻るか。)


家に帰るべく、荷物をそそくさとまとめていると


「泰典~、ちょっと話があるんだけど。」


と母の呼ぶ声がした。軽く「はぁい」と答えながら、リビングへと向かう。そこには笑顔の母とむすっとした顔の父がいた。


(一体、何を話すつもりだ……)

この光景を何度も見たことがある。姉がいないタイミングでの親子三人での会話。僕はこの会話に嫌な思い出しかない。そして、この嫌な会話の始まりはいつもこのセリフから始まる。


「泰典、大学はうまくいっているのか?」


僕は父が発したこの言葉の真意を早く掴まねばならない。なぜなら、反論できなくなるまでメンタルを追い込められてしまうからだ。早く掴むことができれば、うまく話題をずらして、自分のメンタルを守ることができる。だが、この一言で真意はまだつかめない。だから、僕は当たり障りのない言葉を返すしかなかった。


「うん、うまくいってるほうだと思うよ。」


僕は内心ひやひやしながら返答した。さぁ、どう出てくるか……


「そうらしいな。成績も上位をキープしているみたいだし、落としている単位もないな。」

「何とかね。お父さんに言われた通り、勉強はちゃんとしているよ。」

「そうでなければ困る。我が家の汚点となってもらっては恥だからな。」

「そうだね……。そうならないようにするよ。」


僕が父親を苦手としている理由はここにある。まず、世間体を非常に大切にしているということだ。お堅い職業柄とそれなりの役職に就いているためか、自分を厳しく律している。それは自分だけでなく、子である私たちも厳しく律されている。姉はそれが嫌になり、家を早めに出て、一人暮らしを始めたのである。


「泰典、お前は亜実のようにはなるなよ。」

(…………)


僕は無言になるしかなかった。ここで反論をしては、すぐさま父親の反論がくる。この反論は2倍、3倍以上になって返ってくるので、下手に返答すると厄介なことになるのだ。


「ふむ、沈黙ということは肯定ということか……。まぁ、いいだろう……。」


そして、自分の都合の良い解釈をするのだ。沈黙が示すことは全て肯定ではないが、このように言うことで、肯定と捉えて問題はないか?という圧力をかけているのである。僕はこのやり取りをうまくかわすのが苦手で、このように外堀を埋められていくのである。


「そういえば、気になる人がいるとか、お母さんから聞いたんだが。それは本当か?」


(これが、聞きたいことの最初のジャブだろう)


「うん、まぁ、そうだね……」

「学生の本業は、何かわかっているか?」

「学業だね……」

「そうだ、学業だ。成績を落とすことになったらもっての外だ。言いたいことはわかるな?」

「うん……」

「なら、言ってみろ」

「成績を落とさないよう、気になる人に近づきすぎるな。また、家柄の分からない人と関係を深めるな。」

「そうだ。大学を優秀な成績で卒業する条件として、一人暮らしを許している。そして、家柄の分かっているものと付き合いをしろ。大学生の成績が落ち込む要因を聞いていると、家柄の分からないものとつるんでいるのが大半らしいからな。」

「あぁ、そうらしいね……」

「くれぐれも、成績を落としたり、問題を起こしたりするなよ。」

「わかった……」


僕は俯きながら答えるしかなかった。

父の言うこといつもこれだ。成績を落とすな。問題を起こすな。家柄の分からないものとつるむな。

もう大学生なんだ。ある程度、人付き合いも分かっているし、一人暮らしだってできている。なぜこうも子ども扱いをするのだろうか。

そんな気持ちを察したように

「まぁまぁ、泰典。お父さんも心配なのよ。何せ、遠くに行って、初めての一人暮らしでもあるから。」

と母がフォローを入れた。


「ふん……」

感情の読めない息遣いだった。こういった父の動作一つ一つに気を張らなければならない。油断は禁物だ……

「そういえば、そろそろ帰るのかしら?」

母が話題を変える。


「うん、午後の便で帰ろうかと。」

「そう?もうちょっとゆっくりしてもいいのに。」

母の残念がる気持ちに、今は応える余裕はない。


「早いところ帰って、年明けに提出する実験レポートの続きをやらなきゃいけないんだ。」

「そっかぁ……。理系の大学生って、大変なのね。」

「毎週のように実験をやるからね。大変だよ。」

「実験は楽しい?」

「楽しいかな。一度やり始めると長いし、調べることは沢山あるけど……。高校生の時よりも、充実はしてる。」

「それならよかった。しっかり、頑張るのよ。」

「うん」

何とかこのまま誤魔化して、荷物をまとめに戻れれば……。そう思った矢先に


「ほんとにレポートなのか?」

その父の一言に、僕は固まってしまった。


「それだけにしては、早く帰りすぎだろう。何か他の理由があるんじゃないか?」

「いや、ほんとだよ。レポートの中の課題が難しくて、調べるのに時間がかかりそうで……」

「年末年始は大学の図書館だって閉まっているだろう。どうやって調べるんだ?」


痛いところをついてきた。次の言葉を紡がないと


「年末に本を借りていたんだ。それを読んで理解するのに、どうしても時間がかかってさ。」

「年始も早々に取り組まないといけないほど、重い課題なのか?そこまでも先生はしないだろう?」

「いくら専門科目を習っていても、難しいし、重いよ。」

「三が日くらい、こっちでゆっくりはできないのか?」

「ゆっくりしたいけど……。ほら、成績落とすわけにはいけないし……」

「そうか、それなら気を付けて帰るんだぞ」


何とか誤魔化しきれたようだ。何とか、今日のうちに家に帰ることができそうだ。僕はリビングを離れ、自分の部屋で荷物をまとめた。


(このやり取りを耐えなきゃいけないのがしんどいな……)


そう思いながら、荷物をまとめた僕は実家を出て、空港へと向かった。


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