第壱話 接近するモノ ①
僕は、何かを忘れている気がする。何か大切なもの。いや、厳密に言えば、どこかに置いてきてしまった気がする。何かは全く思い出せない。足りないのだ。僕には何かが…。
でも何もわからない。ただそんな気がするだけ。
第壱話‐接近するモノ
「おい、起きろよキョウヤ。もうホームルーム始まるぞ。」
誰か僕の肩を揺すっている。
「おっ、起きたか。おはよう。」
隣の席のリュウジだった。
「おはよう…。」
僕は小さく返事を返す。
今日はいつもより早く学校についたが、特にやることもなかったので机に突っ伏していたらいつのまにか寝てしまっていたようだ。
「そうだ、聞いてくれよ!ついに!昨日ウチにアンドロイドが来たんだよ!」
と、リュウジ。
「あぁ、両親の仕事が忙しくて家事が・・とかなんとか言ってたね。」
「そうそう。それでさあ、今人気の最新の女性モデルを買ったんだけど、顔がめちゃくちゃ可愛くてさ!おまけに料理も超うまいんだよ!オートミールとは比べ物になんないくらいだったわ。」
オートミールとは、『オートミールメーカー』という全自動調理システムの家電が作る料理のことだが、僕は食べたことがないので味の程はわからない。
「へぇ、よかったね。これでリュウジも気楽にバイトできるし。」
「そうなんだよ!家に帰ったらあの子がいるって考えたらバイトも頑張れるってもんだ。まぁ最も、人の姿はしてるけど、感情はねぇから会話は素っ気ないがな。」
なんてリュウジはヘラヘラと笑っている。
「なぁ、それより聞いたか?今日このクラスに転校生が来るらしいぜ!しかも女子だってよ!」
「そうなんだー…。」
正直僕は全然興味がなかった。
「なんだよー、興味なしかよ。でもなんでまた、こんな田舎コロニーに転校生が来るんだろうな。」
「さあね。親がリストラにでも遭ったんじゃない?」
僕たちが住んでいるここ、地球連邦第七コロニーは9つあるコロニーの中でも、施設などがあまり充実していなかったり、人口が他と比べて少なかったりと、よく田舎扱いされている。さらに僕たちの地域、エリア3は、エリア1エリア2に比べて最も静かで、なにもないところである。
「月や他のコロニーって住めなくなるほど物価が高いのかよ…。」
月には、『ムーンメトロポリス』と呼ばれる大都市があり、すぐ側には地球連邦本部が隣接しているらしい。
「まあ、僕には関係ないけどね。」
「悲しいこと言うなよ!俺は将来月で働くからな!」
「はいはい、頑張って。」
そんなことを話しているうちに、担任の先生が教室に入ってきた。
「みんな、おはよう。もう知っていると思うけど、今日は始めに皆に紹介したい人がいます。入ってきていいわよ。」
と、先生が手招きすると、女の子が教室へ入って来た。
「な、なかなかかわいい子じゃね?」
と、リュウジが小声で言ってきた。
「そうかな…?」
僕も小声で答える。
彼女は、ブラウンのふわふわした髪型をしており、いかにもお嬢様のような雰囲気で、こんな田舎には似つかわしくない気がした。
「転校生の、マリア・フリエルさんです。皆、仲良くしてあげてね。」
「よろしくお願いします。」
フリエルさんはニコッと笑って挨拶をした。
「じゃあフリエルさんはあそこね。窓側の一番後ろね。」
「はい」
そう返事をするとフリエルさんがこちらへ歩いてくる。
「って…、キョウヤの隣じゃん!」
「隣、よろしくね。」
フリエルさんが、ニコッとしながら僕に話しかける。
「よ、よろしく…。」
僕は普段あまり、女子と話さないのでこういうのはなんだか少し戸惑ってしまう。
休み時間
次は…、音楽…移動教室か。
「ねぇ、音楽教室ってどこかな?」
フリエルさんに話しかけられる。
「あぁ、じゃあ一緒に行こうか。」
「ありがとう。」
「まって、フリエルさん!私も案内するわ!」
僕らが行こうとすると突然、クラスメイトの女子が現れた。
「えっと、あなたは…」
「私はアオイ・ニノミヤ。アオイって呼んでねよろしく!」
「に、ニノミヤさん…。そ、それじゃあ僕は先に行くね、あとは女子で…。」
そう言うと僕は一人、急ぎ足で音楽室に向かった。
実は、僕はニノミヤさんが苦手だ。なぜなら、彼女は僕をいつも付きまとってくる、いわゆるストーカーというやつだからだ。
彼女はこの高校に入学して二か月、ずっと僕に付きまとってくるのだが、それが、彼女が僕に好意があるようには思えない。どちらかというと、ずっと監視されているようにさえ感じる。それに彼女といえば、水色のショートボブ、黄色い瞳と、少々珍しい容姿をしている。そのうえ、一人でいる時は常にポーカーフェイス。整った顔立ちのせいで、ギロッと僕を見る大きな瞳が逆に不気味であり、背筋が凍り付く。
しかし、彼女は僕に何かしらの危害を加えるわけではなく、ただ、ずっと付きまとってくるだけなのである。彼女はいったい何がしたいのだろうか…。
その頃――
「どうしたのマリアさん、行きましょう?遅刻しちゃうわ。」
「い、いえ…。そうね、行きましょうか。」
「ええ。マリアさん、他に何かわからないことがあれば、私や他の女子に聞くといいわよ。お友達も増えるかもしれないし、ね?」
「あ、ありがとう。」
そういえば…。
さっきフリエルさんは何でわざわざ僕に音楽室の場所を聞いたのだろう。
というより、彼女、他の女子とは話さないのだろうか。と、僕は少々疑問に思ったがあまり深くは考えなかった。




