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『価値なしと呼ばれた第二王子は、王都の裏側で灯りを灯す』  作者: 伊佐波瑞樹


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第78話



 風灯りを、灯り石にする。


 水灯りを、水回りの点検灯にする。


 言葉にすると、それは簡単な方針のように聞こえた。


 けれど、朝の作業台の上に二つの試作品を並べた瞬間、ロイドはすぐに思った。


 ――これは、かなり難しい。


 風灯りは、まだどう見ても試作品だった。


 細長い木枠。


 二枚の羽根板。


 小さな反射板。


 湿気対策に使った油紙の端。


 機能はある。


 昨日、安全線手前で下方冷気を拾った。


 それは確かな成果だ。


 だが、これを腰から下げて歩けば、誰が見ても「何か特別な道具」に見える。


 黒羽に見られれば、すぐに用途を疑われるだろう。


 水灯りは、もっと分かりやすく怪しかった。


 丸い枠。


 可動式の基準環。


 反射片。


 不格好な持ち手。


 水の揺れを見るための機能が、そのまま外へ出ている。


 点検灯と言い張れなくはない。


 けれど、普通の人が持つには目立ちすぎる。


 ロイドは腕を組み、二つを見下ろした。


「……うん」


 ミラが横で見る。


「何?」


「怪しい」


「うん」


 即答だった。


「やっぱり?」


「うん」


「これ持って歩いたら、完全に何かしてますって感じだよな」


「うん」


「隠す以前の問題だな」


「だから直す」


 ミラの声は静かだった。


 でも、目は真剣だ。


 昨日までの怖さは消えていない。


 それでも、今日は迷いよりも作る意志が前に出ていた。


 セドは作業台の向かいで記録紙を広げる。


「本日の目的を確認します」


 ロイドは小さく笑った。


「確認、来た」


「必要です」


「はい」


 セドは読み上げる。


「一、風灯りを小型携帯灯り石として自然な外見へ近づける。二、水灯りを水回り点検灯として自然な外見へ近づける。三、機能を落としすぎない。四、黒羽に用途を悟られない。五、生活用具として実際に使える形にする。六、現場試験は行わない。七、作る者を一人にしない」


 ロイドは最後の項目に頷いた。


「全員帰還は?」


「店内作業ですが、記録の最後に入れます」


「入れるんだ」


「はい」


 ミラが短く言う。


「大事」


「だな」


 ガルドは工具袋を作業台に置いた。


「まず外見だ」


「外見から?」


 ロイドが聞く。


「そうだ。機能だけなら昨日までで少し見えた。だが、街で持てないなら意味がねぇ」


 ガルドは風灯りを手に取る。


「こいつは、角ばりすぎてる。測定具にしか見えねぇ」


「灯り石っぽくするなら?」


 ロイドが聞く。


「丸みを持たせる。吊り下げ用の金具をつける。普通の携帯灯りと同じ持ち方にする」


 ミラが頷く。


「外側に灯り石の枠」


「中に羽根」


「うん」


「問題は、風を通す穴だ」


 ガルドは木枠の横を指で叩いた。


「穴が見えすぎると怪しい。塞ぎすぎると風が入らねぇ」


 セドが記録する。


 風灯り外装案。


 携帯灯り石型。


 外枠で測定部を隠す。


 通風口は装飾風の隙間として処理。


 ロイドは考える。


「装飾……」


「店主目、出番だ」


 ガルドが言う。


「急に振るなぁ」


 ロイドは風灯りをじっと見た。


 普通の客が持ってもおかしくない形。


 夜道を歩くための携帯灯り。


 腰に下げる。


 手に持つ。


 露店や水路沿いで使う。


 その中に通風口を隠すなら。


「星形……いや、違うな」


 ミラが見る。


「星?」


「飾り穴として、星とか葉っぱとか、模様に見せる方法はあるかなって」


 ガルドは少し考えた。


「穴を模様にするのは悪くねぇ」


 エルマが椅子から言った。


「ミラベルの風圧灯にも、飾り穴があったよ」


 全員がそちらを見る。


 エルマは記憶を探るように目を細める。


「あれは確か、葉脈みたいな細い穴だった。測量具だと分からないように、携帯灯りの飾りにしていたんだろうね」


 ミラが紙に線を引く。


「葉脈」


「細い穴が何本もあれば、風も入る」


 ガルドが頷く。


「一つ大きな穴より怪しくねぇ」


 ロイドは少し嬉しくなった。


「じゃあ、飾りとしてもいける?」


「いける」


 ミラが短く答える。


 セドが書き足す。


 通風口、葉脈型装飾穴。


 横風、下方風の取り込みを確保。


 外見は携帯灯り石。


 ロイドは少し照れたように言う。


「俺の星案は?」


「葉っぱになった」


 ミラが答える。


「採用半分くらい?」


「少し」


「少しか」


 店内に小さな笑いが起きた。


 朝の緊張が、少しだけほぐれる。


 


 水灯りの外見は、さらに難しかった。


 水の揺れを見る以上、どうしても持ち手と基準環が必要になる。


 普通の灯り石に見せるには、不自然すぎる。


 ロイドは水灯りを見ながら、頭を悩ませた。


「これ、普通の人が持ってたら、やっぱり怪しいよな」


「うん」


 ミラが答える。


「でも、水回り点検灯なら?」


「点検道具なら多少変でもいい」


 ガルドが言う。


「職人や処理場職員が持つならな」


「つまり、誰が持つかで外見を変える?」


 セドが反応する。


「はい。それは重要です」


 ロイドは作業台を指で叩く。


「風灯りは、誰が持ってもおかしくない携帯灯り。水灯りは、職人や処理場の点検道具として自然な形」


「はい」


 セドが記録する。


 使用者による偽装方針。


 風灯り、一般携帯用。


 水灯り、職人・処理場点検用。


 ミラは水灯りを見ている。


「点検灯なら、目盛りが見えても変じゃない」


「そうだな」


 ロイドが頷く。


「水の流れを見る道具ですって言えばいい」


「実際そう」


「うん、嘘じゃない」


 エルマが静かに言った。


「嘘じゃないことは強いよ」


 ロイドはその言葉を聞いて、少し考えた。


 黒羽は嘘と真実を混ぜる。


 価値あるものがある。


 風が止まった。


 大人が隠している。


 真実の欠片を歪めて、人を危険へ向かわせる。


 こちらはどうだろう。


 風灯りは携帯灯り石であり、風を見る道具でもある。


 水灯りは水回り点検灯であり、水の異常を見る道具でもある。


 嘘ではない。


 ただ、用途の全部を明かさないだけだ。


 守るために。


 ロイドは静かに頷いた。


「嘘じゃない形にしよう」


 ミラが顔を上げる。


「うん」


「生活で使える。本当に役に立つ。でも、帰り道も守る」


「うん」


 ガルドが水灯りの持ち手を見る。


「なら、持ち手はもっと職人道具っぽくする。握りを太くして、濡れた手でも滑らねぇようにする」


「重くなる?」


 ミラが聞く。


「少しな。でも点検道具なら多少重くても不自然じゃない」


「基準環は?」


「外に出していい。むしろ調整できる道具に見える」


「反射片は?」


「目盛りの一部に見せる」


 ミラの目が少しだけ明るくなる。


「できそう」


 ロイドはその表情を見て、胸が温かくなった。


 怖さはある。


 責任もある。


 でも、作ることに心が向かっている。


 ミラは、確かに進んでいる。


 


 午前中、店は半分だけ開ける形になった。


 表ではロイドが客対応をしながら、携帯灯り石の好みを聞く。


 奥ではミラ、ガルド、セド、エルマが試作品の外装を考える。


 ロイドは、客に自然な形で質問した。


「持ち歩く灯り石って、どんな形が使いやすいですか?」


 水路沿いの母親が答える。


「腰に下げられるのがいいね。手が塞がると困るから」


「明るさは?」


「強すぎると子供が眩しがる。足元だけ照らせればいい」


 老人は言った。


「重いのは駄目だ。あと、濡れた手で滑らないやつがいい」


 工房の見習いは言う。


「見た目がかっこいい方がいい」


 ロイドは笑った。


「かっこいいって、どんな?」


「黒いやつとか、金具がついてるやつ」


「黒はちょっと今はやめよう」


「あ、そっか」


 黒羽の件がある。


 黒い小物は避けた方がいい。


 ロイドはそれも記録した。


 客の声は、思った以上に役に立った。


 腰に下げられる。


 強すぎない。


 滑りにくい。


 濡れても大丈夫。


 見た目が自然。


 黒は避ける。


 これらは、ただの偽装ではない。


 本当に使いやすい灯り石を作るための情報だ。


 ロイドは奥へ戻り、ミラへ伝えた。


「腰下げ型がいいみたいだ」


「うん」


「足元だけ照らすくらい」


「弱灯り」


「濡れた手でも滑らない」


「持ち手、ざらざら」


「黒は避ける」


「うん」


 ミラはすぐに紙へ書く。


 風灯り外装。


 腰下げ型携帯灯り。


 弱灯り。


 葉脈型通風口。


 滑り止め。


 黒色不可。


 ロイドは感心した。


「客の声、かなり使えるな」


「生活の道具だから」


 ミラが言う。


「生活に聞く」


 その言葉に、エルマが小さく笑った。


「いいね」


「ミラベルさんも、聞いたかな」


 ロイドが言う。


 エルマは少し考えてから頷いた。


「聞いていたよ。実際に通る職人や見習いに、どこが怖いか、どこでつまずくか、よく聞いていた」


「測るだけじゃないんですね」


「道は、人が通って初めて道だからね」


 ロイドはその言葉を胸に刻んだ。


 道は、人が通って初めて道。


 なら、帰り道も同じだ。


 紙の上に線を引くだけでは足りない。


 実際に帰る人の手、足、目、怖さ、疲れ。


 それらを考えなければならない。


 


 昼過ぎには、風灯りの外装試作が形になった。


 小型の携帯灯り石。


 外枠は木と薄い金属。


 色は明るい茶色。


 腰に下げられる金具つき。


 横には葉脈のような細い飾り穴。


 下部にも、装飾に見える隙間。


 光は強くない。


 足元を淡く照らす程度。


 だが、風が通ると内部の羽根が揺れ、光がわずかに変わる。


 ロイドはそれを手に持ってみた。


「……普通だ」


 ミラが見る。


「変?」


「いや、いい意味で普通」


 ロイドは腰に下げてみる。


「灯り石に見える。少しおしゃれな携帯灯り石」


「風、分かる?」


 ミラが聞く。


 ガルドが板で風を送る。


 光が細く揺れる。


 下から風を送ると、丸く揺れる。


 昨日より少し反応は弱い。


 外装をつけた分、風の入りが鈍くなったのだ。


「分かるけど、少し弱い」


 ロイドが言う。


 ミラは頷く。


「記録」


 セドが書く。


 外装後、反応低下。


 視認は可能。


 通風口調整必要。


 ガルドが言う。


「見た目を自然にすると反応が落ちる。そこは調整だな」


「うん」


 ミラは風灯りを見つめる。


「でも、持てる」


「持てるな」


 ロイドは頷いた。


「これなら、街で持ってても変じゃない」


 その言葉で、ミラの表情が少しだけ柔らかくなった。


 風灯りは、隠すための道具ではなくなり始めていた。


 携帯灯りとして、ちゃんと街に溶け込める形になりつつあった。


 


 水灯りの外装試作は、夕方近くまでかかった。


 こちらは、職人用の水回り点検灯として作る。


 持ち手は太く、滑り止めの溝がある。


 基準環は外から調整できるが、目盛りとして自然に見えるようになった。


 反射片も、測定目盛りの一部に見える。


 灯りは下向き。


 水面を照らすためのもの。


 ロイドが持つと、少し重かった。


「これは一般向けじゃないな」


「職人用」


 ミラが答える。


「処理場とか工房なら違和感ない?」


 バーツがちょうど店に来ていた。


 彼は水灯りを手に取り、無言で見た。


 持ち手を握る。


 目盛りを見る。


 下向きの灯りを確認する。


「使える」


 短く言った。


 ミラの目が少し動く。


「本当?」


「水見る道具に見える」


「怪しい?」


「少し」


 ロイドが苦笑する。


「少しは怪しいんだ」


 バーツは真面目に答える。


「新しい道具は、だいたい怪しい」


 店内に小さな笑いが起きた。


 バーツは続ける。


「でも、処理場職員が持つなら普通」


 セドが記録する。


 水灯り外装、処理場職員確認。


 水回り点検灯として自然。


 新規道具としての違和感はあるが許容範囲。


 ミラは静かに息を吐いた。


「よかった」


 その一言は、本当に小さかった。


 ロイドは聞き逃さなかった。


「一歩進んだな」


「うん」


 ガルドが水灯りを見て言う。


「まだ反応試験がいる」


「今日は?」


 ミラが聞く。


 ロイドが即答する。


「今日は店内だけ」


「うん」


「外には行かない」


「うん」


 ミラは素直に頷いた。


 その様子に、ロイドは安心する。


 止まる力も、ちゃんと育っている。


 


 夕方、店の前にテオが駆け込んできた。


 息を切らしている。


 ガルドがすぐに顔を上げた。


「どうした」


「工房街で、また噂が」


 店内の空気が硬くなる。


 ロイドも立ち上がる。


「どんな?」


 テオは息を整えながら言った。


「ロイドの店が、新しい灯り石で旧測量坑道を独り占めしようとしてるって」


 沈黙。


 嫌な沈黙だった。


 黒羽がこちらの動きに気づき始めている。


 いや、少なくとも、試作品や灯り石に関する噂を流し始めた。


 セドが低く言う。


「風灯りと水灯りの存在を、直接ではないが察知している可能性があります」


 ロイドは拳を握った。


「また不信誘導か」


「はい」


「店への信頼を切りに来た」


「はい」


 ミラは作業台の風灯りを見る。


 外装を変えたばかりの小さな携帯灯り。


 それが、もう噂の的になり始めている。


 ロイドは深く息を吸った。


 怒鳴りたくなる。


 でも、怒鳴らない。


 噂には、帰り道を作る。


「テオ」


「はい」


「その噂、誰から?」


「見習いの一人が聞いてきました。相手は、露店の客みたいな男だったって」


「水売りとか修理工じゃなく?」


「今日は……旅人っぽかったって」


 セドが記録する。


 不信誘導噂。


 ロイドの店、新灯り石で旧測量坑道独占。


 発信者、旅人風。


 工房街見習い経由。


 ロイドは少し考えた。


「説明する」


 ミラが顔を上げる。


「何を?」


「新しい灯り石を作ってることは隠さない」


 セドが少し目を細める。


「用途は?」


「全部は言わない。でも、水路の安全確認用の点検灯を作ってることは言える」


 ガルドが頷く。


「嘘じゃねぇ」


「うん」


 ロイドは続ける。


「独り占めじゃなく、街の安全のため。完成したら、必要な場所で使う。勝手に坑道へ入るためのものじゃない」


 ミラが静かに言う。


「見せる?」


 ロイドは少し考えた。


 見せすぎると黒羽に情報が渡る。


 隠しすぎると不信を煽る。


 難しい。


「外装だけなら」


 ロイドが言う。


「中身は見せない。普通の携帯灯り石と水回り点検灯として見せる」


 セドが頷く。


「限定的公開ですね」


「そう」


「有効だと思います」


 ガルドが腕を組む。


「親方連中には、水灯りを見せてもいい。使い道を理解させた方が、噂を潰せる」


「ただし、黒羽に渡らない範囲で」


「分かってる」


 ミラは風灯りに布をかけ直した。


「見せるなら、ちゃんと見せる」


「うん」


「隠すなら、ちゃんと隠す」


「そうだな」


 中途半端が一番危ない。


 黒羽はその隙間を突いてくる。


 ロイドは店の前に貼る新しい紙を書いた。


 新しい灯り石について


 現在、ロイドの店では、水路周辺や工房街の安全確認に使える小型灯り石と点検灯を試作しています。


 旧い入口へ入るための道具ではありません。


 危険な場所へ近づくためではなく、近づかない判断をするための灯りです。


 完成前のため、勝手な使用・持ち出しはできません。


 噂で聞いたことがあれば、店へ確認してください。


 店主ロイド


 書き終えたロイドは、セドへ見せた。


「どうだ」


「良いです」


「情報出しすぎてない?」


「用途を安全確認に限定して説明しています。内部構造には触れていません」


 ミラも頷く。


「いい」


 ガルドが言う。


「工房街にも持っていく」


 テオがすぐに言った。


「俺も行きます」


「一人では行かせねぇ」


「分かってます」


 テオは今度、ちゃんと分かっている顔をしていた。


 ロイドはその顔を見て、少しだけ安心した。


 


 夜。


 店の前には、新しい貼り紙が増えた。


 風が止まっても安全ではない。


 噂を一人で確かめない。


 価値より命。


 そして、新しい灯り石について。


 ロイドは店の外に立ち、その紙を見上げていた。


 ミラが隣に来る。


「増えた」


「紙が?」


「うん」


「また紙だらけだな」


「でも、灯り」


 ロイドは頷いた。


「読む灯り」


「うん」


 店内では、風灯りと水灯りの外装試作が布の下で眠っている。


 見た目は、少し普通に近づいた。


 街に溶け込むための形。


 生活に役立つための形。


 だが、それと同時に、黒羽の噂も形を変えてきた。


 ロイドの店が独り占めしようとしている。


 新しい灯り石で旧測量坑道へ入ろうとしている。


 不信を撒く言葉。


 それに対抗するため、また言葉の灯りを置く。


「黒羽、見てるな」


 ロイドが言った。


 ミラは頷く。


「うん」


「こっちの灯りを消そうとしてる」


「うん」


「でも、消させない」


 ミラは貼り紙を見た。


「言葉も、灯りも」


「ああ」


「店も」


 ロイドは少しだけ笑った。


「店もか」


「うん」


「守るもの、増えたな」


「増えた」


 ミラは静かに答えた。


「でも、一人じゃない」


 ロイドは、胸の奥が温かくなるのを感じた。


「ああ」


 夜風が吹く。


 貼り紙が揺れる。


 灯り石がその文字を照らす。


 黒羽の噂は、まだ街のどこかを流れているだろう。


 でも、こちらの言葉も流れ始めている。


 新しい灯りは、独り占めのためではない。


 危険へ近づくためではない。


 近づかない判断をするための灯り。


 帰り道を守るための灯り。


 ロイドは店の扉を閉める前、作業台の上の布を見た。


 風灯り。


 水灯り。


 まだ未完成。


 でも、もうただの試作品ではない。


 街に出る準備を始めた灯りだった。


 そして同時に、黒羽に狙われ始めた灯りでもあった。


「明日から、もっと慎重にいくぞ」


 ロイドが言う。


 ミラが頷く。


「うん」


 セドも奥から答える。


「はい」


 ガルドが低く続ける。


「ああ」


 エルマが静かに言った。


「灯りが目立ち始めた時ほど、足元を見るんだよ」


 ロイドは深く頷いた。


「はい」


 店の灯りが、夜の中で静かに揺れる。


 その光は小さい。


 けれど、確かに消えていなかった。


 黒羽が噂で吹き消そうとしても。


 街の中には、もういくつもの小さな灯りがともり始めていた。

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