表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
304/384

海上空港非常線 第38話  ツインテール警報、氷の検査線 ― セキュリティ・チェックライン

黒鷹一味が動く。


その情報が入ったのは、朝六時を少し回った頃だった。


海上空港はまだ本格的な混雑の前だったが、保安検査場だけはすでに空気が張っていた。

早朝便の乗客、出張客、旅行客、スポーツバッグを抱えた学生たち。

検査レーンには淡々と人が流れ、トレーに鞄が置かれ、金属探知機の電子音が短く鳴る。


空港で最も止めてはいけない場所。

それが保安検査場だった。


ここが止まれば、列が伸びる。

列が伸びれば、出発ロビーが詰まる。

ロビーが詰まれば、空港全体が不安になる。


黒鷹は、そこを狙ってきた。


仮設詰所で、玲奈はモニターを見ていた。


「検査レーンに小型端末を流す気や」


美音が端末を確認しながら続ける。


「端末は単独では危険物に見えません。検査トレーに紛れ込ませ、通過後に別人物が回収する流れです」


梓は映像を切り替えた。


「目的は検査記録への一時干渉。成功すれば、数分間だけ保安通過記録に穴ができます」


彩香が低く言う。


「数分でも、空港では十分致命傷やな」


玲奈は短く命じた。


「止めるな。騒がせるな。けど、抜かせるな」


その一言で、全員の動きが決まる。


主人公は迫田ツインズと氷室梓。


澄香は保安検査場の入口側へ。

澪香は検査後の出口側へ。

梓は監視室で映像と人流ログを見る。


同じ顔をした双子が、レーンの左右に立つ。

片方が列を読み、片方が出口を締める。

そこへ、氷の監視官・梓が映像から異常を拾う。


完璧な布陣だった。


少なくとも、あの女が来るまでは。


彩香は保安検査場近くで警戒していた。


表向きは空港関係者の補助要員。

だが目は笑っていない。

旅客の手元、荷物、検査トレーの流れ、レーンの詰まり具合を細かく拾っていた。


その時、視界の端に明るい色が揺れた。


明るいツインテール。

小柄な体。

元気すぎる歩幅。

やたら通る声。


彩香の表情が固まる。


「……なんであのツインテール、今日に限って居るねん」


赤嶺美月だった。


大学のチアリーディングサークルの仲間たちと、鹿児島合宿へ向かうらしい。

大きなスポーツバッグを肩にかけ、保安検査場の列へ入ってくる。


「いやー、鹿児島楽しみやな! 指宿も行けるんやろ? 砂風呂入ったら血行良うなるらしいで。ウチ、さらに元気になってまうかもしれんわ!」


友人たちが笑う。


彩香は遠くから歯を食いしばった。


「今以上に元気になってどうすんねん……」


梓が監視室から冷静に言う。


「赤嶺美月さん、保安検査場二番レーン付近に到達。周辺旅客の視線が集中しています」


「実況せんでええ」


「状況報告です」


「余計腹立つわ」


美月は悪気がない。

それが余計に厄介だった。


戦隊ヒロインとして、彼女はちょっとした有名人だ。

特に関西圏のイベントに何度も出ている。

明るくて、よく喋って、ファンサービスも良い。


つまり、見つかる。


案の定だった。


「あれ、美月ちゃんちゃう?」

「ほんまや、赤嶺美月や!」

「写真撮ってもいいですか?」

「握手だけ!」


美月はすぐ笑顔になる。


「ええでええで! でも検査通らなあかんから手短にな!」


手短に終わるわけがなかった。


人が寄る。

スマホが向く。

列が少し膨らむ。

検査場の入口で、人の流れが波打つ。


彩香の声が低くなる。


「最悪や……」


玲奈はモニターを見たまま言った。


「黒鷹も動く」


その通りだった。


梓は冷静だった。


美月による混乱を、単なる迷惑としてではなく“変数”として処理する。


「美月さん周辺に視線集中。二番レーン、三番レーンの監視密度低下。黒鷹が動くなら三番です」


澄香が入口側で列を見ていた。


「三番、黒いキャリーケースの男。動き硬い」


澪香が出口側から続ける。


「検査後の受け取り役、たぶん別におる」


梓が映像を止める。


「黒いキャリーケースの男、右手に小型端末らしき膨らみ。レーン通過後、別人物が回収する想定です」


美月は、まだファンに囲まれていた。


「鹿児島行くんですか?」

「せやで! 合宿や合宿。真面目に練習やで。まあ指宿の砂風呂も入るけどな!」


「写真一枚だけ!」

「しゃあないなあ、ほな一枚だけやで!」


一枚で済まない。


彩香が吐き捨てる。


「あいつ、サービス精神ありすぎやろ……」


あかりが小声で言う。


「でも美月さん、人気ありますね」


「今は感心する場面ちゃう」


「すみません」


黒鷹の工作員が動いた。


三番レーン。

黒いキャリーケースの男。


検査トレーに財布、スマートフォン、鍵、そして小型端末を入れる。

端末は黒いモバイルバッテリーに見える。

普通なら疑われない。


梓が言う。


「三番レーン、完全停止は不可。停止すれば美月さん周辺の騒ぎと重なって検査場全体が乱れます」


玲奈が短く返す。


「減速でいけ」


「了解」


梓は空港警察側へ冷静に連絡する。


「三番レーン、機械確認を装って処理速度を二割落としてください。停止ではなく減速」


澄香が入口側で列を曲げる。


「こちらのレーン、少し混み合っています。お急ぎでない方は隣へどうぞ」


声は自然。

旅客は疑わない。


澪香が出口側に立ち、受け取りスペースを少し狭める。


「お荷物のお取り間違いにご注意ください」


それだけで、黒鷹の回収役は動きにくくなった。


同じ顔が入口と出口にいる。

しかもどちらも自然に検査場の流れを握っている。


黒鷹側は、一瞬迷った。


その迷いを梓は見逃さない。


「回収役、出口右側。灰色ジャケット。視線が端末に固定されています」


美音が端末反応を確認する。


「電子反応あり。対象トレー、三番」


彩香が低く命じる。


「閉じるで」


その時、美月が大きな声を出した。


「えっ、ウチのポーチどこやった? あ、あったわ! ごめんごめん!」


ただそれだけだった。


だが周囲のファンと友人たちが一斉に笑い、また視線が美月へ集まる。


その瞬間、回収役が動いた。


普通なら、最高のタイミングだった。


だが、NSTには最高ではない。

読まれていた。


梓が短く言う。


「今」


澄香が入口側で工作員の後方を詰める。

澪香が出口で受け取り役の前に入る。


「お荷物、確認させていただきます」


回収役が止まる。


「いや、私の荷物じゃ――」


「では、なおさら確認が必要です」


澪香の声は柔らかい。

だが退かない。


美咲が背後に入る。

あかりが最後に動く。


「行け」


彩香の合図。


「はい!」


あかりが短く飛び込んだ。

無駄に大きく走らない。

旅客の間を抜け、端末へ手を伸ばす男の手首だけを押さえる。


「確保です!」


同時に澄香が黒いキャリーケースの男を止める。


梓は空港警察へ言う。


「通常確認として処理してください。周囲に不審を抱かせないように」


三番レーンは、少し詰まっただけ。

保安検査場は止まらなかった。


美月の周囲のファンは、ただ「なんか検査混んでるな」と思っただけだった。


端末は押収された。


見た目はモバイルバッテリー。

中身は、保安検査レーンの通過記録に一時干渉する小型装置。


成功していれば、数分間だけ記録に空白ができる。

その空白で、次の工作員を通す。


黒鷹らしい手口だった。


彩香は端末を見て低く言う。


「ほんま、こすいことばっかりしよる」


梓は淡々と答える。


「しかし、今回は赤嶺美月さんの混乱も利用される前提でした。黒鷹は彼女の影響力を把握していた可能性があります」


彩香の眉がさらに寄る。


「あのツインテール、敵にも利用価値あると思われとんのか」


あかりが素直に言う。


「すごいですね、美月さん」


「褒めるな」


検査を終えた美月は、何も気づかずに出口側へ出てきた。


そして澪香を見つける。


「おっ、澄香、居たんや!」


また間違えた。


澪香は訂正しない。


「お気をつけて」


「鹿児島合宿行ってくるで~。指宿で砂風呂にも入るんや。血行良くなるし、お肌にもエエらしいで」


「楽しんできてください」


「今日も空港は随分賑やかやなぁ。なんや知らんけど盛り上がっとるわ」


本当に何も知らない。


美月は手を振り、チア仲間たちと搭乗口へ向かっていく。


彩香は遠くから震えていた。


「あのツインテール……指宿の砂風呂に一生埋めたろか」


あかりが真顔で尋ねる。


「砂風呂に埋めてどうなるんですか?」


彩香は即答した。


「地熱発電や。ツインテール発電」


「発電できるんですか?」


「知らんわボケェ! あいつの無駄な熱量ならいけるやろ!」


「環境には良さそうですね」


「真面目に評価すな!」


梓がモニターを見ながら淡々と言う。


「赤嶺美月さんは、情報量が過多な人物です。監視対象としては非常に厄介です」


迫田ツインズは同じ顔で笑った。


「せやね」

「でも、騒ぎも使える時はあるね」


彩香が頭を抱える。


「あいつを使える戦術に組み込む日が来たら、私は現場キャップ辞めるかもしれん」


玲奈の鉄仮面が、少しだけ崩れた。


ほんの一瞬。

口元が緩む。


「騒ぎも線に入れれば、非常線になる」


玲奈は静かに言った。


その言葉で、詰所の空気が戻る。


保安検査場は、また通常の流れに戻った。


旅客は通る。

荷物は流れる。

飛行機は飛ぶ。


美月は鹿児島へ向かい、きっと現地でも騒がしく動き回るのだろう。

指宿で砂風呂に入り、仲間と笑い、何も知らずに「空港賑やかやったな」と話すに違いない。


誰も知らない。


その騒ぎの裏で、黒鷹の工作が止められたことを。

氷室梓の冷たい監視が、わずかな手元の動きを拾ったことを。

迫田ツインズが入口と出口を静かに閉じたことを。

そして、彩香が怒りに震えながらも、最後まで現場を崩さなかったことを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ