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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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海上空港非常線 第36話 笑うロケ隊、閉じる非常線 ― エアポート・グルメ・パニックコード

海上空港に、テレビの光が入った。


神戸放送の情報番組。

特集は空港グルメ。

出発前に食べたい名物、到着後に立ち寄れるカフェ、限定スイーツ、展望デッキ近くの軽食。


レポーターは三好さつき。


上品な黒髪の長身美女。

立ち姿も声も映える。コメントも上手い。空港側から見れば、ありがたい宣伝だった。


だが、NSTにとっては最悪だった。


「……なんで今日やねん」


西川彩香は、保安室近くの柱陰からロケ隊を見ていた。


カメラ。

照明。

音声マイク。

ディレクター。

そして笑顔のさつき。


そのすぐ近くで、黒鷹の偽スタッフが小型端末を受け渡す可能性があった。


現場は飲食エリア。

人が多い。

通路は狭い。

そこへロケ隊が入れば、人の流れは一気に崩れる。


さつきがカレー皿を前に笑う。


「こちら、空港限定のスパイスカレーです。出発前に元気が出そうですね!」


彩香のこめかみが動く。


「元気出さんでええ。じっとしとけ……」


その横で、真砂里緒は静かに状況を見ていた。


「止めると目立ちますね」


「止めたいんですけどね」


彩香の声は低い。


「カメラ抱えてウロウロされたら、こっちの監視線が全部ズレるんですわ」


里緒は少し考えた。


「なら、止めずに流しましょう」


「流す?」


「ロケ隊を、こっちが使いやすい位置に動いてもらいます」


彩香は少しだけ目を細めた。


「できます?」


里緒は笑った。


「やってみます」


里緒は空港警察官の顔でロケ隊へ近づいた。


強制ではない。

注意でもない。

ただ、自然な案内。


「撮影お疲れさまです。こちら、少し人の流れが詰まりやすいので、次は奥のカフェ前の方が映りも良いと思います」


ディレクターが周囲を見る。


「確かに、そっちの方が明るいですね」


さつきも笑顔で頷いた。


「では、次はカフェ前で撮りましょうか」


里緒はさらに言葉を添える。


「展望デッキへ向かう通路を背景にすると、空港らしさも出ますよ」


ロケ隊は気持ちよく動いた。


彩香は呆れたように見ていた。


「……うまいな」


里緒は戻ってきて、さらりと言う。


「止められるより、良い絵が撮れると言われた方が動きやすいですから」


「なるほどな」


彩香は小さく息を吐く。


「私は怒鳴ってどかすことしか考えてませんでしたわ」


「彩香さんは締める役です。私はほどく役で」


その一言に、彩香は少しだけ笑った。


「ええコンビやな」


ロケ隊が移動したことで、飲食エリアの人の流れが変わった。


一見、余計に騒がしくなったように見える。

だが、NSTにとっては違った。


カメラの位置。

照明の向き。

スタッフの立ち位置。


それが、黒鷹の偽スタッフにとって邪魔になった。


偽スタッフはカメラを避けようとした。

照明に顔を照らされるのを嫌がった。

一般客なら、テレビカメラを気にしても不自然ではない。

だが、避け方が妙に計算されていた。


美咲の声が入る。


「対象、照明を避けています」


美音が続く。


「右手に小型端末反応」


迫田ツインズが左右に入る。


澄香が人の流れを薄くし、澪香が出口側を締める。


あおいは上から全体を見ていた。


「対象、カフェ裏の通路へ寄ります」


彩香は低く言った。


「里緒さん」


「一般客、流します」


里緒がすぐに動く。


「こちら、撮影中ですので足元にお気をつけください。お急ぎの方は右側通路へどうぞ」


笑顔の案内。

旅客は不安にならない。

むしろテレビ撮影を面白がりながら、自然に流れていく。


さつきは何も知らず、カフェのスイーツを手に取る。


「こちら、見た目も華やかですね。空港でこんな本格的なスイーツが楽しめるなんて――」


その背後で、非常線が閉じていく。


偽スタッフが受け渡しに入る。


相手は清掃員風の男。

小型端末を手渡すタイミングは一瞬。


だが、その瞬間、ロケ隊の照明が二人の手元を照らした。


完全な偶然。

いや、里緒が作った偶然だった。


彩香が動く。


「今や」


美咲が背後を切る。

迫田ツインズが左右を塞ぐ。

美音が端末反応を確認する。


彩香が正面に立った。


「終わりや」


偽スタッフの手が止まる。


清掃員風の男が逃げようとするが、里緒が警察官として自然に前へ出た。


「確認させていただきます」


声は柔らかい。

だが、逃がさない。


短い制圧。

端末は押収された。


飲食エリアの客は、少しスタッフが動いた程度にしか思っていない。


さつきは、まだ食レポを続けていた。


「甘みの後に、しっかりコクが来ますね」


彩香は低く呟く。


「こっちは苦味しかないわ……」


任務後。


ロケ隊は満足そうに撤収していった。


さつきは里緒に軽く頭を下げる。


「撮影の案内、ありがとうございました。おかげで良い絵が撮れました」


里緒は笑顔で返す。


「こちらこそ、ご協力ありがとうございました」


彩香は少し離れて、それを見ていた。


「知らん間に協力者にしてもうたな」


里緒は肩をすくめる。


「邪魔ならどかすより、味方にした方が早い時もあります」


彩香は素直に頷く。


「今日はそれが効きました。助かりました」


仮設詰所へ戻ると、玲奈が短く言った。


「彩香が締めて、里緒が流した。ええ連携や」


それは最大級の評価だった。


里緒は背筋を伸ばす。


「ありがとうございます」


彩香は苦笑する。


「しかし、さつきさんのロケ隊まで使うとはな……」


あかりが横から言う。


「さつきさん、何も知らないのに役に立ちましたね」


彩香が即答する。


「何も知らんから厄介なんや」


玲奈の口元が、ほんの少し緩んだ。


海上空港の飲食エリアには、また普通の賑わいが戻っていた。


旅客はカレーを食べ、コーヒーを飲み、テレビで見た店を話題にするだろう。

誰も知らない。

そのロケの裏で、黒鷹の受け渡しが潰されたことを。


笑うロケ隊。

凍る保安室。

そして、静かに閉じる非常線。


真砂里緒の柔らかさが、現場を荒らさず任務を成功へ導いた。

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