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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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232/242

静かな仮面、消えない残響 ― 岡本玲奈という孤独

神戸の夜は、光が多い。

港のネオン、観覧車の回転、行き交う車のヘッドライト。

だが、そのすべてが届かない場所がある。


そこに、岡本玲奈は立っていた。


西日本特別諜報班――NST。

その名を知る者は、ほとんどいない。

その頂点に立つ女。それが玲奈だ。


冷徹。

無駄がない。

判断は一瞬。


その姿は、完璧に見える。


だが完璧なものほど、壊れやすい。


岡本玲奈は、もともと“感情を持たない女”ではなかった。


中学生の時、両親を事故で失った。

理由も、経緯も、あまりにもあっけない終わり。


その日を境に、彼女は“閉じた”。


泣いた記憶は曖昧だ。

だが、何かを失った感覚だけは、はっきりと残っている。


それ以降、余計なものを削ぎ落とした。

感情、依存、迷い。


残ったのは――判断だけだった。


高卒で警察官となる。


交通課に配属。

そこで彼女は、自分の“適性”を知る。


過積載車両の取り締まり。


数値と規定だけを武器に、違反を追い詰める。

言い訳は通用しない。

感情も通じない。


「基準値を超えています」

「違反です」


それだけで、相手は崩れる。


いつしか呼ばれた。


――“2号線の鬼台貫”。


皮肉ではない。

称号だった。


その美貌は、別の価値も生んだ。


県警の広告塔。

広報用の写真。

イベントへの参加。


警察音楽隊。


白いブーツで歩くその姿は、どこか現実離れしていた。

規律の中に、異様な美しさがある。


だが玲奈自身は、それに興味を持たなかった。


役割だからやる。

それだけだった。


やがて戦隊ヒロインプロジェクトへ出向。


表の舞台に立ちながら、裏の仕事もこなす。


そして――


NST。


極秘任務。

非公式。

誰にも知られない戦い。


そこに、玲奈はいた。


適していた。

誰よりも。


だが、その裏で。


一度だけ、彼女は“逸れた”。


東條悠真。


縁談。

偶然ではない出会い。


穏やかな男だった。

踏み込まない。

急がない。


玲奈の沈黙を、否定しない。


それが――心地よかった。


気づけば、距離が縮まっていた。


初めてだった。

“隣にいること”を許したのは。


だが、それは偽装だった。


黒鷹のスパイ。


最初から仕組まれていた接触。


玲奈は、見抜けなかった。


最後は、静かだった。


任務の最中。

一瞬の判断。


悠真は、前に出た。


庇うように。


そして――戻らなかった。


理由は分からない。


裏切りか。

贖罪か。

それとも――本気だったのか。


答えは、もうない。


残ったのは、事実だけ。


“守られた”。


それだけが、残った。


それ以来、玲奈は変わった。


いや――戻った。


感情を削ぎ落とし、

判断だけを残す。


より速く。

より正確に。


NSTのボスとして、完成していく。


だがその分、何かが確実に減っていく。


27歳。


周囲は、別の時間を生きている。


彩香は笑う。

双子は遊ぶ。

若さは、そのまま消費される。


玲奈は違う。


任務を選ぶ。

任務しか、残っていない。


それでいいと、思っている。


だが――


満たされてはいない。


夜の港。


玲奈は海を見ていた。


波は同じリズムで繰り返す。

変わらない。


人だけが、変わる。


来る者。

去る者。


そして、残る者。


「……これでええ」


小さく呟く。


それは納得ではない。

ただの整理だ。


過去も、選択も、結果も。


すべてを、切り分ける。


その時、携帯が震える。


知らない番号。


一瞬だけ、迷う。


ほんのわずかな時間。


だが――


出る。


「岡本です」


声はいつも通り、冷静だった。


だが、その夜の風は、ほんの少しだけ違っていた。


見えない何かが、近づいている。


気づかないほど、静かに。

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