表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

194/253

静かな女王が、初めてつまずいた夜 ― 加古川ブロークン・コマンド

加古川は、流れの街だ。

川があり、道があり、鉄路が交わる。人も物も止まらない。派手な色はないが、その代わりに、途切れない動きがある。昼も夜も、何かがどこかへ運ばれていく。見慣れた光景の中に、異物が混じっても気づきにくい――そういう構造を持った街だった。


黒鷹はそこを突いた。


荷を細かく分け、時間差で繋ぐ。

一つ一つは小さい。だが、繋がれば大きくなる。

全体像を掴ませないための“分断された流れ”。それが今回の標的だった。


それを断つために立つのが、岡本玲奈だった。


冷徹なる美貌のボス。

判断に迷いはない。

視野は広く、決断は速い。

NSTの誰もが知っている。この女が指揮を執る限り、任務は崩れない。


「三系統同時に潰す。時間差は三分以内」


声は低く、無駄がない。


彩香が現場を抑え、双子がラインを割り出し、あかりと麻衣、美咲がそれぞれの持ち場に散る。すべては玲奈の頭の中に描かれた通りに進んでいた。


狂いはない。

そう思われた。


「こんにちはー!加古川の魅力をお届けしまーす!」


その声が、空気を裂いた。


三好さつき。

神戸放送のレポーター。

現場にとって、最も厄介な“予測不能のノイズ”。


「え、玲奈さん……?」


目が合う。


普段なら、それでも崩れない。

玲奈は視線を外し、存在を消し、全体を維持する。


だがその瞬間――ほんの一瞬だけ、意識が割かれた。


それが、すべてだった。


「……第二ライン、早い」


澄香の声。


「タイミング、ズレてる」


澪香が続く。


玲奈は即座に修正をかける。


「西へ寄せろ。三分前倒し」


判断は速い。

だが――その一手が、わずかに遅れていた。


黒鷹は、さらにその先を読んでいた。


「……違う」


彩香が低く言う。


「これ、囮や」


その言葉と同時に、第三ラインが動く。


「あかん、抜ける!」


あかりの声が鋭く跳ねる。


「南側、消えた!」


美咲が追うが、もう遅い。


玲奈の描いた全体の流れが、音もなく崩れた。


一つのズレが、連鎖する。


ラインが切れる。

導線が歪む。

視界から、標的が消える。


沈黙が落ちた。


誰も、すぐには言葉を出せなかった。


岡本玲奈が、判断を誤った。


それは、このチームにとって想定外だった。


任務は――失敗。


黒鷹の主導ラインは、霧のように消えた。


現場は解散する。


誰も責めない。

だが、誰も軽口を叩かない。


あかりでさえ黙り込んでいる。


彩香は壁にもたれ、腕を組んだまま動かない。


重い空気だけが残る。


玲奈は一人、立っていた。


表情は変わらない。

呼吸も乱れていない。


だが――


「……ミスやな」


短く、自分で言った。


誰に向けたわけでもない。

ただ事実を置くように。


「さつきの乱入に意識を持っていかれた」


続ける。


「そこから読みが一手遅れた」


言い訳はない。

感情も乗せない。


ただ、自分の誤差を正確に測る。


彩香が、ゆっくり口を開く。


「……珍しいな」


それだけ。


責めるでも、慰めるでもない。

ただ事実を返す。


玲奈は視線を落とさない。


沈黙の中で、次の一手だけを考えている。


「次は外さん」


短い。


だが、その一言で空気が変わる。


あかりが小さく息を吐く。

双子が視線を交わす。

麻衣がわずかに肩の力を抜く。


彩香が鼻で笑う。


「……そらそうやろ」


それで十分だった。


誰も疑っていない。

岡本玲奈が、同じミスを二度繰り返すことはない。


加古川の夜は、変わらず流れていた。


川は止まらない。

街も止まらない。

そして、黒鷹の流れも、まだどこかで続いている。


一度崩れた流れを、どう取り戻すか。


それを考えるのが、この女の仕事だ。


冷徹なる美貌のボス・岡本玲奈。


完璧な女は、初めてつまずいた。


だが――

それで終わる女ではない。


むしろ、ここからだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ