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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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白浜麻衣 三部作 第3話 ― 小さな盾は、誰よりも強い ― 『海風の教室、童顔の決意 ― 明石シーサイド・キッズ』

白浜麻衣。

和歌山が育てた、童顔で小柄な若きヒロイン。だが、その小さな身体のどこに、これほどの覚悟が宿っているのか。子どもを慈しみ、幼稚園教諭を本気で目指す彼女は、泣き声に誰より早く気づき、怯える小さな手を誰より強く握る。ふだんは柔らかい。声も、目線も、立ち居振る舞いも優しい。だが――子どもを利用し、傷つけ、踏みにじろうとする者の前で、その優しさは静かな怒りへと変わる。


舞台は兵庫。

西宮、姫路、明石。人の温もりが残る街で、卑劣な黒鷹は子どもたちを盾にする。だが、そのたびに立ちはだかる一つの影がある。小柄な体躯を張り、逃げず、怯まず、ただ守るために前へ出る女――白浜麻衣。


童顔だから甘く見る。

優しいから弱いと思う。

その油断が、最後には命取りになる。


これは、銃でもなく怒号でもなく、ただ“守りたい”という一念を武器に戦うヒロインの物語である。

白浜麻衣三部作。

――小さな盾は、誰よりも強い。

明石市。

海と暮らしが近い街だ。漁港の気配が日常のすぐ隣にあり、駅前の賑わいを少し抜ければ、潮の匂いを含んだ風がそのまま頬を撫でていく。海峡の向こうには淡路島、港町らしいせわしなさと、どこか気取らない温かさが同居している。そしてこの街を語るうえで外せないのが、丸くやわらかい明石焼――地元では気取らず“玉子焼”と呼ばれ、長く親しまれてきた味だ。


その穏やかな海辺で、その日、子ども向けの自然体験教室が開かれていた。

貝殻や流木を使った工作。砂浜の安全な歩き方。海辺の生き物に触れる小さな授業。笑い声が風に乗り、波の音に溶けていく。いかにも明石らしい、やわらかな催しだった。


黒鷹は、そういう場所を好む。

警戒が薄く、人の善意が前提になっている場所。しかも今回は、子ども向け教材に偽装した通信機器を持ち込み、混乱に紛れて逃走する算段まで立てていた。最悪なのは、その逃走経路に、子どもたちを巻き込む気でいることだった。


「ほんま、ろくでもないわ」


彩香がインカム越しに低く吐き捨てる。


「騒ぎは最小限。子ども優先」


玲奈の声はいつも通り短い。


「麻衣、お前が前や」


「はい」


白浜麻衣は、小さく息を吸って頷いた。


童顔で、小柄で、可愛らしい。

だが子どもが絡む現場では、その見た目は油断を誘う偽装に過ぎない。麻衣は海辺の補助スタッフとして教室に自然に入り込み、子どもたちの列を整え、転びそうな子にはそっと手を添え、海風に帽子を飛ばされそうな子の紐を結び直していく。


「これ、何の貝?」


小さな男の子が差し出した貝殻を見て、麻衣はしゃがんだ。


「よう見つけたなあ。きれいやろ」


子どもと目線を合わせる時の麻衣は、もう先生の顔をしていた。

やさしく、落ち着いていて、相手を急かさない。その空気に子どもたちが自然と集まる。


その一方で、麻衣の視線は海辺の動線を逃していなかった。

教材箱の位置。スタッフを装った男の動き。不自然に空いたスペース。全部が頭に入っている。


任務は順調だった。

少なくとも、余計なものが現れなければ。


その時だった。


「いやー、やっぱ本場の玉子焼はちゃうわ!」


聞き覚えのある声が、海風を割った。


赤嶺美月。

プライベートで友人と明石の名店に玉子焼を食べに来て、その帰りに海沿いを散策していたらしい。友人と笑いながら歩いていた美月は、ふと麻衣を見つけるなり顔を輝かせた。


「まいやん、何してる?」


そして次の瞬間には、いつも通りの勢いで現場に近づいてくる。


「うわっ、子供たち可愛い~」


嫌な予感しかしなかった。


だが、美月はここで止まらない。

戦隊ヒロインとしてある程度知名度がある彼女に、子どもたちがすぐ気づいた。


「あー、美月ちゃんだー!」


一人が叫ぶと、連鎖する。


「ほんまや!」

「テレビで見たことある!」

「美月ちゃんや!」


あっという間に、子どもたちの視線は美月へ集まった。


サービス精神旺盛な美月が、ここで大人しくしているはずがない。


「よっしゃ、みんな元気やな! どれ、ハイタッチしよか!」


完全に、始まった。


笑い声。ハイタッチ。

なぜか即席のヒロイン握手会みたいな空気になる。美月の友人までノリノリで写真係を始め、海辺の一角は妙な盛り上がりを見せた。


彩香の声がインカムに落ちる。


「……あいつ、ほんまようやるわ」


だが麻衣は一瞬で切り替えた。


(使える)


美月に子どもたちの注意が集まる。

つまり、危険な動線から子どもたちを自然に遠ざけられる。


「美月さん、そのままみんなを見ててくれませんか?」


「任しとき!」


美月は即答だった。


子どもたちは美月に夢中。

海辺の教室は一瞬だけ、理想的な“空白”を作った。


その隙に、麻衣は教材箱の一つへ近づく。

中身を確認し、通信機器の存在を確信する。黒鷹の工作員が、逃走のタイミングを見ていた。


次の瞬間だった。


男が動く。


海辺の柵沿いへ抜けようとしたその先に、まだ小さな子が一人残っていた。

美月たちの輪から少し外れた、泣き出しそうな女の子。


男は、一瞬だけそちらを見た。

盾にするつもりだ、と麻衣は理解した。


「……あかん」


その言葉と同時に、麻衣は走っていた。


小さな体が、一直線に前へ出る。

迷いはなかった。怖くないわけがない。相手は大人の男で、こちらは細く小さい。それでも、子どもを巻き込ませるよりはましだと、麻衣は一瞬で決めていた。


「退け!」


男が怒鳴る。


退かない。


麻衣はそのまま女の子をかばうように身体を滑り込ませ、男の進路へ真正面から突っ込んだ。

小柄な体躯なのに、その瞬間だけ妙に大きく見えた。


男がバランスを崩す。

その隙に、双子が横から回り込み、あかりが飛び込む。


短い制圧だった。


だが、あかりは目を見張っていた。


「……麻衣、凄いわ」


呆然としたように言う。


麻衣はその声にも答えず、まず泣き出した女の子の前にしゃがみ込んだ。

顔の高さを合わせる。声をやわらかく落とす。


「もう大丈夫やで」


紀州のやさしい響きが、そのまま海風に乗る。


「怖かったなあ。でも、もう心配いらんよ」


女の子はしゃくり上げながら頷き、麻衣の服をぎゅっと掴んだ。

その小さな手を、麻衣は両手で包むように握る。


任務は終わった。

海は変わらず穏やかで、遠くで波が静かに崩れている。

美月だけが、まだ少し離れたところで子どもたちに囲まれていた。


「ほらほら、次は写真撮るでー!」


完全に別世界だった。


その後、人気のない堤防脇で彩香が腕を組む。


「よう飛び込んだな」


短いが、重い言葉だった。

玲奈もその横で言う。


「迷いがなかった」


それは、NSTで最も重い部類の評価だった。


麻衣は少しだけ照れたように笑ったあと、真っすぐ二人を見た。


「強くて優しい先生になりたいんです」


きっぱりとした声だった。


童顔で、小柄で、やさしい。

けれど、子どもを守るためなら誰よりも前へ出る。

その覚悟だけは、一切ぶれない。


明石の海風が、麻衣の髪をそっと揺らした。

小さな盾は、今日もまた、誰よりも強かった

麻衣は小さい。

童顔で、やわらかくて、初めて会う者には、どこにでもいる優しいお姉さんにしか見えない。声も穏やかで、目線も低く、子どもを安心させる空気を自然にまとっている。強さを見せつけるような女ではない。怒鳴らない。威張らない。自分を大きく見せようともしない。


だが――子どもを守る時の麻衣は、誰よりも強い。


相手が大人でも、卑劣でも、危険でも関係ない。守るべき小さな命が目の前にあれば、その小柄な身体は迷わず前へ出る。退けば子どもが傷つく、その一線だけは絶対に越えさせない。だから子どもたちは本能で知っている。泣きそうな時も、怖い時も、この人の後ろにいれば大丈夫だと。自然と、白浜麻衣の背中へ集まっていく。


そしてNSTは知っている。

白浜麻衣という女は、ただ優しいだけじゃない。守る理由を持った時、一番怖い。やわらかな声の奥に、決して折れない芯がある。小さな盾は、誰よりも静かに前へ出て、誰よりも強く日常を守る。強くて優しい先生になりたい――その言葉は、もう夢ではない。彼女はすでに、その入口に立っている。

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