表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

179/248

芝の上の熱狂、影の中の監視 ― グリーンフィールド・サイドライン

神戸の山際に抱かれたその球場は、余計な装飾を持たない。

ただ、天然芝だけが誇りのように広がっている。均一に刈り込まれた緑は、観客席から見下ろすと一枚の布のように滑らかで、野球という競技をまっすぐに映す鏡だった。


その日、スタンドは若い声で満ちていた。


「いけぇぇぇ!!もう一本や!!」


応援席の最前列。

赤嶺美月は、全力で跳ねていた。


明るいハーフツインテールが大きく揺れる。

だが、その動きはただの“元気”ではない。軸がある。リズムがある。隊列の動きを外さない。チアリーディングサークルで鍛えられた身体は、応援を“演技”ではなく“技術”として成立させていた。


「声出せぇぇ!!ここやぞ!!」


観客席に向けてではない。

グラウンドに向けて、一直線。


彼女の中で、応援は“届けるもの”だった。


選手に。

試合に。

空気そのものに。


(ここで流れ変えるんや)


その一念だけで、動く。


周囲の観客も、つられて声を上げる。

波が広がる。


それが、美月の本気だった。


その裏側。


NSTは静かに配置についていた。


「搬入ルートは三本。人流と被る」


澄香の報告。


「予定通り分断する」


玲奈の声は平坦だった。


だが、その視線はスタンドへ向いている。


「問題は一つだけやな」


彩香が呟く。


「……ああ」


そこには、全力で応援する美月。


「一番読まれへん」


対策は打ってある。


「澪香」


「うん」


「最優先任務は監視だ」


一拍。


「対象:赤嶺美月」


澪香はわずかに肩を落とした。


応援席。


「――あれ?」


美月が振り向く。


「澄香来てくれてたんやん!!」


「……違う」


即答。


「ほな一緒にやろや!!魂込めるで!!」


腕を掴まれる。


(巻き込まれた)


だが、振りほどけない。


美月の応援は本気だ。

リズムを外さず、声を張り続ける。観客の動きまで引っ張る。


(これ、下手に外れると浮くな)


澪香は渋々合わせる。


試合が動く。


同時に、人の流れも動く。


「搬入開始」


玲奈の指示。


「了解」


静かに、任務も始まる。


「ちょっとトイレ行ってくるわ!」


美月が急に動く。


澪香も即座に立つ。


「ついてくるん?」


「うん」


当然のように。


通路。


「この球場さぁ」


美月が話し出す。


「芝めっちゃ綺麗やのにさ、トイレまだ和式ってどないなってんやろ」


澪香は無言。


「澄香もおかしい思うやろ?」


「……思わん」


(ほんまどうでもええ)


その瞬間だった。


美月の目が動く。


「……あれ?」


嫌な勘。


(やめろ)


「ちょっと見てくるわ!」


走る。


止まらない。


その先。


「……なんや澪香も来とったのか?」


澄香。


完全に交差。


「なにしてるん?」


「……散歩」


成立しない会話。


インカムの向こうで、彩香が低く唸る。


「……ほんま、ええ加減にしてくれ」


だが玲奈は即断する。


「そのまま続行」


迷いがない。


「美音、B側に音を流せ。人を割る」


「了解」


音が変わる。


観客の意識が一瞬だけズレる。


「今」


澄香が動く。


澪香が美月の視線を切る。


「ほら、応援戻るで」


「あ、せやな!」


意識が戻る。


その間に。


ターゲット確保。


搬送遮断。


任務完了。


再び応援席。


「ここやぁぁぁ!!押し切れぇぇ!!」


美月はまた全力で跳ねている。


声は途切れない。

動きも落ちない。


試合の流れに合わせて、応援の強度を変える。

一瞬の間も抜かない。


(この子、ほんまに本気やな)


澪香は小さく息を吐いた。


少し離れた場所。


彩香が腕を組む。


「……あいつ、敵より厄介やな」


玲奈は短く答える。


「制御対象だ」


一拍。


「優先度は高い」


グラウンドでは、白球が弾ける。


歓声が波のように広がる。


その中心に、美月がいる。


本気で、届けようとしている。


芝は変わらず美しい。


試合は続く。


そしてその裏で、誰にも知られない仕事が終わる。


西日本特別諜報班――NST。


彼女たちは影で動く。


だが時に、最も読めない存在は――


光のど真ん中で、全力で応援している。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ