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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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空白の指揮系統 ― 加西エアフィールド・ライン

兵庫県加西市。

播磨内陸に広がる、平坦で開けた土地。ため池が点在し、農地と工業用地が混在するこの地域は、かつての飛行場跡地や広大な未利用地を抱え、“空を使う”には都合が良すぎた。


夜は低く、静かだ。

その静寂の上を、見えない航路が走る。


黒鷹の新戦術――ドローン輸送網。

通称“エアフィールド・ライン”。


低高度を滑る小型機が、点と点を結ぶ。

追跡困難、遮断困難。

地上の論理をすり抜ける輸送。


「今回の指揮は彩香、お前だ」


岡本玲奈の言葉は短かった。


「了解や」


西川彩香は頷く。

迷いはない。むしろ、その役割を待っていた。


布陣はシンプルだった。


地上制圧――彩香、あかり

潜入・解析――迫田ツインズ

外周――麻衣、美咲

上空監視――若林あおい

音響・誘導――河合美音


玲奈は後方。

だが、その“後ろ”は全体を支配していた。


「ドローンの経路、3本確認」


あおいの声が上空から落ちてくる。


「北西から南東に流れてる。高度は低いけど規則性あり」


「了解。地上で迎え撃つ」


彩香が指示を出す。


「美音、音で寄せろ。着地点を絞る」


「任せて」


静かに機材が起動する。


完璧だった。

ここまでは。


「――こんにちはー!神戸放送でーす!」


空気を裂くような声。


「……は?」


振り向くと、ライトとカメラ。

そして、マイクを持った長身の女。


三好さつき。


「加西の農業特集で来てるんですけど――」


(なんでやねん)


彩香の思考が一瞬止まる。


その直後――


「うおおおお!芋掘り最高やん!!」


別方向から爆音。


泥まみれの小柄な女が、友人らと畑を駆け回っている。


赤嶺美月。


「なんやこれ、ドローン飛んでるで!?撮れ撮れ!!」


「ちょ、勝手に入ったらあかんて!」


農家の制止も聞かない。


完全に、カオス。


「……ふざけんな」


彩香の声が低く落ちる。


インカムに怒気が乗る。


「現場が荒れてる!全員、一時停止――」


「彩香」


玲奈の声が割り込む。


だが、その瞬間――


ドローンが一機、ルートを外れた。


(今や)


彩香は判断を急ぐ。


「全員、前進!今叩く!」


命令が飛ぶ。


だが、それは――早すぎた。


「彩香、それ違う」


あおいの声。


「まだ全ルート揃ってない」


「構わん!」


突っ込む。


あかりも続く。


だが、ドローンは散開。

輸送ラインは分断されず、逆に逃げ道を作った。


――ミス。


明確な判断ミスだった。


「……しゃあないな」


上空で、あおいが息を吐く。


「美音、合わせて」


「OK、やるよ」


次の瞬間――


異音が走る。


特定周波数のノイズが、空域を支配する。


ドローンの制御が乱れる。


「今」


あおいが座標を叩き込む。


「南東に寄った。全機、そこに落ちる」


美音の誘導音が、地上の一点へ収束させる。


――捕捉完了。


双子が同時に制御へ侵入。

輸送ラインを完全停止。


彩香はその中心に立っていた。


だが、それは“勝利”ではない。


その頃。


「これ、放送使えますねぇ!」


「バズるでこれ!!」


さつきと美月は、完全に別世界だった。


作戦終了後。


加西の夜は、また静かに戻る。


彩香は車の横で立っていた。


拳が震えている。


「……あいつら……!」


怒りが抑えきれない。


その時。


「彩香」


玲奈が来る。


足音は静か。


「任務中に感情を優先したな」


短い。


逃げ場はない。


「……邪魔されたんや!」


「違う」


即答。


「邪魔は前提だ」


沈黙。


「想定外を理由にするな。それは指揮官の言葉じゃない」


冷たい。

だが、切り捨ててはいない。


「お前は速い。だが、速さは精度を伴わなければ意味がない」


一拍。


「空白が生まれた。そこを突かれただけだ」


彩香は歯を食いしばる。


玲奈はそれ以上言わない。


ただ、最後に一言。


「次は、埋めろ」


それだけだった。


夜空には、もう何も飛んでいない。


だが、見えない航路は確かに存在する。


空白の指揮系統。

それを埋める者だけが、上に立つ。


彩香は、まだその途中にいた。

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