表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

146/248

蒼翼と鋼鉄の港 ― 相生トライアングル作戦

兵庫県相生市。

播磨灘に面したこの港町は、かつて造船業で名を馳せた“鋼鉄の街”だ。巨大なドック、林立するクレーン、夜でも止まない金属音。潮の匂いに混じる油の気配が、この街の現実を物語っている。


だが、その重厚なインフラは“隠す”ことにも長けている。


黒鷹の一味が、海上輸送ルートを使って違法物資を流している――NSTが掴んだ情報は確度が高かった。大型船の整備部品に紛れ込ませた“アーティファクト”。相生の造船関連施設を経由し、内陸へ運ばれる。


「海・陸・空で挟む」


岡本玲奈の声は静かだった。

無駄のない指示。


空――若林あおい。

陸と海――河合美音。

そして現場指揮は、西川彩香。


――


夜の相生港。

クレーンの赤灯が、規則正しく明滅している。


上空、ヘリの影が静かに旋回していた。


「目標視認。海上、動きあり」


若林あおいの声は落ち着いている。

“加賀の蒼翼”。空からの支配は、彼女の領域だった。


「貨物船から小型艇へ積み替え準備」


俯瞰で全てが見える。

戦場は、すでに盤面だった。


――


海面すれすれ。

波を切る小型艇。


「距離詰めるよ」


河合美音が舵を握る。

水面の揺れを読み、最短で接近する。


「三十秒で接触可能」


さらに陸側では、搬出車両を追う別班が動く。


“陸と海を同時に制御する”――

それが美音の戦い方だった。


――


その時だった。


「まだ動くな」


本部からの玲奈の指示。


「証拠を固める。タイミングを待て」


理詰めの判断。

正しい。だが――


彩香は即座に返す。


「間に合いません」


声は抑えているが、芯は硬い。


「今動かんと逃げられる」


無礼ではない。

だが遠慮もない。


玲奈は年長者であり、

彩香が最も敬意を払う存在だった。


それでも――現場では、別だ。


あおいが空から重ねる。


「船、動きます」


美音も続く。


「荷、移る。ラストチャンス」


現場の空気が一致している。


沈黙。


数秒。


玲奈はその沈黙の中で、すべてを読む。


彩香の性格も、現場の肌感覚も。


そして――


「……現場判断、優先や」


静かに言った。


一歩引く。


言葉は少ない。


だがそれは、信頼だった。


彩香は短く応じる。


「了解。突入します」


礼は崩さない。

だが決断は速い。


この二人の関係は、言葉以上に明確だった。


――


「行くで」


彩香の号令。


その瞬間、三層が同時に動く。


上空からあおいがライトを照射。


「視界確保」


海上で美音が加速。


「止まりや!」


小型艇に飛び移る。

揺れる甲板。だが足はぶれない。


同時に陸側でも車両を制圧。

搬出ラインを断つ。


三方向同時封鎖。


タイミングは完璧だった。


数分後――


すべてが終わる。


違法物資は押収。

関係者は拘束。


黒鷹の海上ルートが、一つ潰れた。


――


その最中。


岸壁の端では――


「はい〜相生市の港からお届けしてます〜!」


三好さつき。


神戸放送のリポーター。


「造船の街、迫力ありますね〜!」


何も知らず、無邪気にレポートを続けている。


すぐ近くで作戦が展開されていたなど、夢にも思っていない。


「あっ、あの船すごい大きいですね〜!」


危うく視界に入りかけるが、

NST側が静かに位置を調整する。


美音が無線でぼやく。


「……ほんまタイミング悪いな」


あおいが淡々と返す。


「逆に奇跡です」


彩香は一言。


「無視でええ」


それだけだった。


――


作戦終了後。


静けさが戻った港。


彩香が通信を入れる。


「任務完了です」


短く、簡潔に。


玲奈の声が返る。


「ご苦労」


少し間があった。


「……彩香」


「はい」


「現場、正しかったな」


その一言で十分だった。


彩香は小さく息を吐く。


「ありがとうございます」


敬意は崩さない。


だがそこには、確かな信頼があった。


――


遠くで、さつきの声がまだ響いている。


「いや〜相生市、ええとこですね〜!」


何も知らないまま、レポートは続く。


――


鋼鉄の港に、再び静けさが戻る。


空、海、陸。


三つのラインが交差した夜。


NSTは確かな一手を打った。


そしてその裏で、言葉にしない信頼が、静かに機能していた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ