二つの影、ひとつの突破 ― 小野アーティファクト・ライン
兵庫県小野市。
播州平野の風が、ゆるやかに田を撫でる。
一見すれば、ただの穏やかな町だ。
だがその地下には、別の流れがある。
金物の町――小野。
刃物、工具、部品。
その流通に紛れて、黒鷹の一味が
“異物”を流していた。
違法加工された特殊パーツ。
組み上がれば、ただの道具では済まない代物。
NSTはその搬送ルートを掴んでいた。
「現地で押さえる。騒ぎは最小限や」
玲奈の指示は短かった。
投入されたのは――
迫田澄香、迫田澪香。
そして山本あかり。
撹乱と突破の混成チーム。
――
郊外の工場地帯。
搬入トラックが出入りする時間帯。
監視は甘いが、目は多い。
澄香が低く言う。
「監視カメラ三基。死角あり」
澪香が続ける。
「警備は二人。巡回は雑」
あかりは肩を回す。
「ほな、行こか」
そして二人を見て――止まる。
「……で、どっちがどっちやったっけ?」
沈黙。
「澄香です」
「澪香です」
同時。
あかりが眉をしかめる。
「いや分からんて」
――
作戦開始。
ツインズは分離する。
同じ顔。
同じ背格好。
同じ動き。
それだけで、現場の認識は崩れる。
「さっき通ったやろ!」
「いや今来たばっかや!」
警備の声が交錯する。
混乱が生まれる。
その“ズレ”を、あかりが突き抜ける。
「悪いな、通るで」
門を抜ける。
迷いはない。
強引。
だが速い。
――
その頃。
工場近くの道路では、ロケが行われていた。
神戸放送の情報番組。
リポーターは三好さつき。
「はい〜こちら小野市、金物の町として知られてまして〜」
軽快な口調。
だが視界の端に、見覚えのある顔。
「……あれ?」
同じ顔が二人。
さつきの目が止まる。
「……あっ!」
思い出す。
「私の戦隊ヒロイン仲間の迫田澪香さんが居ました!」
完全に確信していた。
「ちょっと話を伺ってみたいと思います!」
カメラを引き連れて接近。
「澪香さん!」
声をかける。
振り向いたのは――澄香だった。
「……はい?」
さつきは気づかない。
「小野市は金物の街なんですけど、どうですか?」
澄香は一瞬だけ間を置く。
「……良い町だと思います」
冷静に返す。
その横を、もう一人が通る。
さつきの目がそちらに移る。
「あっ、やっぱり!」
今度はそちらに向かう。
「澪香さん!」
振り向いたのは――澪香だった。
だがさつきは混乱していない。
「さっきもありがとうございました!」
完全に認識が崩れている。
「小野市、金物の街ですけどどうですか?」
澪香は淡々と答える。
「……精密で、良いと思います」
カメラマンが小声で言う。
「今の人、さっきと違いません?」
さつきが言う。
「一緒やろ?」
現場はさらに混乱していた。
――
倉庫内部。
あかりが突入する。
鉄の匂い。
油の匂い。
そして積み上げられたコンテナ。
「あったな」
その瞬間、背後に気配。
黒鷹の構成員。
「侵入者だ!」
あかりが振り返る。
「遅い」
間合いに入る。
一撃。
二人目が来る。
足払い。
崩す。
三人目。
拳を止め、体を入れ替える。
「数だけやな」
冷静だった。
そこへツインズが合流する。
「退路、封鎖」
「包囲完了」
完全な連携。
敵は動けない。
数分後。
制圧完了。
違法パーツは押収された。
――
夕方。
現場は静かになっていた。
風が通る。
あかりはため息をつく。
「終わったな」
そして振り向く。
「で、どっちが澪香でどっちが澄香?」
ツインズが同時に言う。
「澄香です」
「澪香です」
あかりが天を仰ぐ。
「分からんて最後まで!!」
その少し離れた場所。
さつきがまだ考えていた。
「……さっきの、どっちやったんやろ」
誰にも分からない。
ただ一つ確かなのは――
小野の町から、ひとつ闇が消えたこと。
そして二つの影は、
また静かに次の任務へと消えていく。




