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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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夙川ラインの影 ― 奈良の策士と三重の直情

阪急甲陽線という路線は、関西の鉄道の中でもどこか静かな気配をまとっている。

夙川駅から分かれ、苦楽園口、甲陽園へとわずか三駅。距離にして二キロほどの小さな支線だ。だが沿線は関西でも屈指の住宅街。春になれば夙川の川沿いに桜が咲き、苦楽園口には落ち着いたカフェが並び、終点の甲陽園は六甲山の麓の静かな街として知られている。


阪急のマルーン色の車両が、夜の坂道をゆっくり登っていく。


その穏やかな沿線の影に、その夜、NSTがいた。


西日本特別諜報班――NSTは、黒鷹の資金を運ぶ運び屋が甲陽園付近に現れるという情報を掴んでいた。取引場所は住宅街の中の古い洋館。表向きは不動産売買だが、実際は地下資金の受け渡しの可能性が高い。


今回の現場に入ったのは二人。


奈良出身の美咲。

三重出身のあかり。


夙川駅の近くで張り込む二人に、無線が入る。


「目標は甲陽園方面から徒歩で接近する」


彩香の声だった。


「取り逃がすな」


あかりは元気よく返す。


「了解です!」


その横で美咲は、ゆっくり川を眺めていた。


「まあ、落ち着いて行こか」


おっとりした奈良弁だった。


夙川の夜は静かだ。

川の流れと遠くの電車の音だけが聞こえる。


やがて、黒いバッグを持った男が苦楽園口方面から歩いてきた。


「あの人やな」


あかりが小声で言う。


美咲は静かに頷く。


「慌てたらあかんで」


男が二人の前を通り過ぎる。

あと数十メートルで住宅街の入口だ。


その瞬間だった。


「あれ?」


聞き覚えのある声。


あかりが振り向く。


そこにいたのは三好さつきだった。


長い黒髪の上品な女性。

そしてその隣には背の高い男がいる。


どう見てもデートだった。


「あかりちゃん?」


さつきは驚いた顔をする。


「あれ、こんなとこで何してるん?」


あかりは慌てて頭を下げる。


「こんばんは!」


さつきは笑って彼氏の腕を引く。


「この子ね、戦隊ヒロイン仲間なんよ」


そして彼氏に紹介する。


「あかりちゃん、三重の子やねん」


男が目を丸くする。


「え、三重?」


あかりが答える。


「はい!」


男が笑う。


「俺も三重なんですよ」


あかりの目が輝く。


「ほんまですか!」


「津です」


「えー!」


完全に地元トークが始まった。


「私、伊勢なんです!」


「近いですね」


さつきが笑う。


「あかりちゃん、前に会った人とは違う彼氏やけどな」


あかりは全く気にしない。


「そうなんですか!」


「でも津の人、やっぱええ人ですね」


その間に。


黒いバッグの男は住宅街へ消えた。


遠くから見ていた美咲は、小さくため息をつく。


「……あかり」


だが怒る様子はない。


むしろ微笑んでいた。


「あの子らしいわ」


美咲はゆっくり歩き出す。


住宅街の坂道へ。


取引相手は逃げたと思っている。

だが甲陽園の住宅街は逃げ道が少ない。


美咲は地形を読んでいた。


坂道の出口。

男が曲がった瞬間、前に立つ。


「こんばんは」


男が驚く。


奈良弁が静かに続く。


「ちょっと、お話ええやろか」


男がバッグを握る。


だが背後からNSTの車が滑り込む。


逃げ道はない。


数分後。


拘束完了。


夙川の橋の上で、あかりはしょんぼりしていた。


「すみません」


美咲は笑う。


「ええよ」


「しゃあないやん」


あかりはまだ落ち込んでいる。


「任務中やったのに」


美咲は川を見ながら言う。


「でもな」


「人と仲良うなれるんは、あかりのええとこや」


その時、彩香が現れる。


状況報告を聞き終え、腕を組む。


そして美咲を見る。


「あの状況から取るか」


少し笑う。


「美咲、なかなかやるな」


美咲は照れたように言う。


「いやいや」


「たまたまや」


遠くで阪急甲陽線の電車が坂を上っていく。


あかりはまだ言う。


「さつきさんの彼氏、ええ人でした」


美咲が笑う。


「あかり」


「任務中やで」


夙川の夜は静かだった。


小さな支線の小さな街。

その裏で、NSTは今日も静かに仕事をしている。

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