白壁の戦場 ― 伊丹丘陵決戦篇
伊丹の丘陵地帯に建つ白壁の学園。
昼間は子どもたちの声が響く場所だが、夜になるとそこは静かな要塞のように見える。
そして、その地下に――
もう一つの顔が隠されていた。
紀伊ハンター、春日美咲・山本あかり・白浜麻衣。
三人は地下通路を発見し調査を続けていたが、外側から扉を閉じられ閉じ込められてしまった。
そして――
連絡が途絶えた。
ヒロ室西日本分室の空気が変わる。
岡本玲奈が静かに言う。
「通信ロスト」
西川彩香の表情が険しくなる。
「地下やな」
玲奈はうなずく。
「すぐ行く」
NSTは待たない。
河合美音の大型バイクがエンジンを唸らせる。
その横では、宮崎県都城出身の双子ヒロイン――迫田澄香と澪香、迫田ツインズが装備を確認していた。
二人はそっくりだ。
だが目の鋭さは同じだった。
「久しぶりの潜入やね」
「静かに行こうか」
NSTの動きは速かった。
夜の伊丹丘陵。
建設途中の白壁校舎の裏手に回り込み、地下への通路を見つける。
美音が照明を向ける。
「ここや」
コンクリートの階段。
彩香が先頭に立つ。
「行くで」
地下通路は暗く、湿った空気が流れている。
そして奥の鉄扉の前に――
「美咲!」
扉を叩く音が返ってきた。
「こっち!」
鍵は外側から掛かっていた。
彩香が工具でこじ開ける。
ガン、と重い音。
扉が開く。
「遅い」
美咲が苦笑する。
「待ちくたびれたわ」
あかりが肩を回す。
「地下牢体験やったな」
麻衣はほっと息を吐く。
「助かりました」
紀伊ハンター救出。
だが、問題はその先だった。
地下通路の奥にある巨大な倉庫。
美音がライトを向ける。
そこにあったのは――
木箱の山。
箱を開ける。
中身は
軍用通信機。
小型ドローン。
弾薬箱。
澄香が呟く。
「学校ちゃうな」
澪香も言う。
「兵站基地や」
さらに奥。
金庫のような箱が並ぶ。
彩香が蓋を開ける。
中には
金の延べ棒。
美咲が短く言った。
「黒鷹や」
この学園は、教育施設ではない。
クーデター準備の資金庫。
武器保管庫。
白壁の学校は、戦争の拠点だった。
NSTは証拠を押収する。
武器、弾薬、資金。
地下施設は完全に制圧された。
白壁の学園は終わった。
――
しかし数日後。
ニュースに流れたのは、違う話だった。
理事長逮捕。
罪名は
脱税。
そして学校法人の認可取り消し。
それだけだった。
武器も、地下施設も、黒鷹も――
報道には出ない。
NSTはそれを知っていた。
大阪湾を望むヒロ室西日本分室。
任務報告が終わり、珍しく空気が緩んでいる。
麻衣が窓の外を見ながら言う。
「子どもたち……」
声は少し寂しそうだった。
「かわいそうですね」
学校は消える。
だが子どもたちは残る。
美咲が肩を叩く。
「麻衣らしいな」
あかりも笑う。
その時だった。
扉が勢いよく開く。
「何や今日は楽しげやな!」
赤嶺美月だった。
後ろには三好さつき。
美月は紙袋を掲げる。
「たいやき買ってきたで〜!」
さつきが苦笑する。
「差し入れです」
途端に空気が変わる。
彩香が腕を組む。
「お前らまた来たんか」
美月は机にたいやきを並べる。
「ほら食べ」
そして一口かじる。
尻尾から。
彩香の眉が跳ねる。
「何しとんねん」
美月は真顔で言う。
「たいやきは尾っぽから行くんや」
「関ヶ原から西はみんなそうや」
彩香が机を叩く。
「アホか!」
「たいやきは頭からやろが!」
「たいやきに失礼やろ!」
美月
「尻尾からや!」
彩香
「頭や!」
いつもの喧嘩が始まる。
その横で。
あかりが黙ってたいやきを取る。
そして
彩香の分まで食べる。
彩香が振り向く。
「……あかり」
低い声。
「あかり」
「後で話がある」
あかりは平然と言う。
「どこから食べても」
「たいやき美味しい」
部屋が爆笑に包まれる。
久しぶりだった。
ヒロ室西日本分室が
こんなに賑やかなのは。
外では大阪の街が光っている。
平和な夜。
だがNSTは知っている。
その裏側で、まだ戦いは続いている。
それでも――
今夜だけは。
白壁の戦場を越えた仲間たちは、
少しだけ笑っていた。




