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西日本特別諜報班 NST 影の特命  作者: スパイク


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静かな女の行進曲

国道二号線の夜明けは、トラックの音で始まる。


エンジンの低い唸り。

ブレーキの軋み。

そして港へ向かう車列。


岡本玲奈は、その道の片隅に立っていた。


白い手袋をはめた手を静かに上げる。


「停車してください」


兵庫県警交通課。

岡本玲奈。


若く、長身で、美しい警察官。

だが運送会社の間では、別の名前で呼ばれていた。


国道二号線の鬼台貫。


過積載のトラックを容赦なく摘発する警察官。

玲奈の取り締まりで違反は大幅に減り、事故も確実に減った。


だが、正しい仕事が

必ず歓迎されるとは限らない。


運送会社からは恨まれた。


それ以上に面倒だったのは、

警察内部だった。


ある日、玲奈は県警本部に呼び出された。


応接室には、見慣れない幹部が座っていた。


柔らかい笑顔。

だが目は笑っていない。


男は言った。


「岡本巡査、君に新しい任務を与える」


玲奈は黙って聞いた。


「兵庫県警察音楽隊に参加してもらう」


玲奈は一瞬、言葉の意味を理解できなかった。


警察音楽隊。


そして——


カラーガード隊。


音楽隊の演奏に合わせて、

旗やバトンを操る演技隊だ。


幹部は笑顔で続けた。


「県民との交流だ。

 広報の強化でもある」


玲奈は静かに言った。


「私は交通課です」


幹部は肩をすくめた。


「組織の決定だ」


それ以上の言葉はなかった。


玲奈は理解していた。


これは広報ではない。


配置転換。


そして


排除。


玲奈の過積載取り締まりは、

多くの利権に触れていた。


港湾業界。

運送業界。


そしてその背後にいる政治。


県警本部の一部幹部は

それを快く思っていなかった。


その幹部は、

元県知事一派と繋がっている。


さらにその背後には

私兵組織。


黒鷹。


玲奈は何も言わなかった。


命令には従う。


それが警察官だ。


——


警察音楽隊の訓練場は、

交通課とは別世界だった。


金管楽器の音。


整然とした隊列。


白い制服。


玲奈は完全な素人だった。


ダンスも音楽も、経験はない。


それでも玲奈は覚えた。


動き。

姿勢。

演技。


長身の体は、

演技ではむしろ映えた。


そして衣装。


白を基調とした華やかな制服。


凛としたデザイン。

だが警察官としては露出が多い。


玲奈は最初、抵抗があった。


だがやがて

それも飲み込んだ。


演技の日。


音楽隊の演奏が始まる。


太鼓。

トランペット。

行進曲。


玲奈は旗を振る。


白い手袋。

伸びた背筋。


演技が終わった。


次の瞬間。


拍手。


観客の拍手だった。


玲奈は少し驚いた。


交通課では、

拍手などない。


取り締まりは恨まれることも多い。


だがここでは違う。


人々は笑っている。


子供たちは手を振る。


「かっこいい!」


玲奈は軽く頭を下げた。


その瞬間、

胸の奥に不思議な感覚が生まれた。


清々しい。


交通安全のイベント。


県民の笑顔。


それは決して悪いものではない。


玲奈は思った。


もしこれで

交通安全の意識が高まるなら。


意味はある。


玲奈は音楽隊の任務にも

全力を尽くした。


交通課。

警察音楽隊。


二つの顔を持つ警察官。


だが玲奈の人生は、

さらに複雑になっていく。


ある日、玲奈は

再び県警本部に呼ばれた。


今度は別の幹部だった。


この男の目は鋭かった。


男は言った。


「岡本巡査、出向だ」


行き先は——


戦隊ヒロインプロジェクト。


表向きは警察と自治体の

共同広報プロジェクト。


だが実際は違う。


この幹部は気づいていた。


元県知事一派。

黒鷹。


神戸港の利権。


すべてが繋がり始めている。


そして岡本玲奈という存在は、

その中心に近すぎる。


だから守る。


そして使う。


「君は適任だ」


幹部は言った。


玲奈は静かに頷いた。


その時点で、

彼女はまだ知らない。


この出向が


西日本特別諜報班(NST)


という組織の誕生へ

繋がることを。


玲奈は鏡の前に立っていた。


警察官。


警察音楽隊。


そして戦隊ヒロイン。


いくつもの顔。


どれも本物だった。


玲奈は帽子を被る。


鏡の中の女は、

静かに微笑んでいた。


孤独なボスは、

この時すでに生まれていた。

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