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プロローグ



 銃弾が胸を貫いた。

 致命傷だ。


 ぐらりと身体が揺れ、近くにあったテーブルクロスを掴む。ワイングラスが転がり、カトラリー類が音を立てて地面に転がった。


 少女は血濡れた銀髪を払い上げ、自らの死期を悟った。

 左腕と右足、アバラも何本か折れている。この日のためにと用意した青空を模したパーティードレスも真っ赤に汚れ、足元には血だまりが広がっていた。

 まさに満身創痍。

 そろそろ限界が近いと思っていたが、たかが銃弾一発で致命傷とは。あまりの情けなさに笑みが零れる。


 ああ、これが運命というものか。


 くすくすくす。血に濡れた少女は可笑しそうに笑う。

 その異様な光景に、残り少なくなった衛兵たちは一歩後ずさった。


 何度も何度も。

 繰り返し繰り返し。

 なぜ自分だけが苦しい思いをして死んでいかなければならないのか。

 頑張ってもがいても王太子の冷たい視線は変わらない。

 身に覚えのない罪を告げられ、婚約破棄を宣言される。いつも同じ。ただ殺され方は様々だった。喉を切られたり、毒を盛られたり、頭を割られたり――そして最後には冷たくなってジ・エンドだ。


 もう一通りの死は経験してしまったかもしれない。


 誰も助けてくれない。

 神も人もこの手を取ってくれない。

 けれど貶めた人間たちはこの先ものうのうと生き続けている。

 どうして許せようか。


 誰にも罰せられぬというのなら、自らの手で罰してやる。

 どうせ死ねば元通りだ。変わらぬ日常が戻ってくる。ならば一度くらい盛大に暴れ回ってもいいではないか。そう考えて向かってくるものすべて縊り殺してきたが、どうやら年貢の納め時らしい。


 彼女は近くに転がっていたナイフを手に取った。

 男爵令嬢を大事そうに抱え、怯えた瞳でこちらを眺めている王太子。せめてあの二人のどちらかを道連れにしなければ気がすまない。

 視界がかすむ。もう人の顔も認識できない。分かっている。いつもそうやって世界は終わっていくのだ。

 残された時間はあとわずか。


 彼女は最後の力を振り絞ってナイフを投げた。

 息が途絶える瞬間、目に映ったのは鮮烈な赤が天に向かって噴き上がる瞬間だった。



 果たしてあれは、どちらだったのだろう――。

 


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