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違う!違う!脳じゃない!〜転生したオレは、パンダ型ヒューマノイドの脳らしい〜  作者: 梶皣 もゆら


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1/9

1 オレ、ヒューマノイドの脳

 ドスッ――


 人が死ぬ瞬間は、あまりに呆気ない。

 昼めしを求めて街を歩いていただけだった。まさか、生きるための欲を満たしに行く途中で死ぬとは。


 上から振ってきた人が命中。人が振ってきたことにすら気がつかなかった。痛みすらないまま、気がつけば女神の前にいた。


 黒満(くろみつ)白哉(しろや)――享年23歳。


 これが女神様か。神々しいというより、騒々しい。


「すみませんすみませんすみませんッ!」


 非常にバタバタしている。忙しさによるものではなく、存在そのものが。


「まさか、あなた様が巻き込まれるなんてッ」


「これってあれですか。よくある、転生のあれ」


「それです、それですッ。まさにそれですッ!巻き込まれる予定なんて一切なかったんです。あなた様は、本当ならあと83年は生きる予定になってるんです。でもこの世界では死んでしまって、どうしようもないので、別の世界で83年生きていただけますッ」


 オレ106歳まで生きる予定だったのか?!


「ほえぇ。長生きだな、オレ。よくあるやつなら、願い聞いてもらえるんですかね」


「もちろんです、もちろんですッ!お詫びに何でもお聞きします。なんなりとお申し付けくださいませッ!」


「大魔法使いになりたいなあって。国中で有名な、めちゃくちゃ強い魔法使いがいいです。詠唱無しで魔物や魔獣を一撃!みたいな魔法使いでお願いします」


「承知しましたッ!ではこちらの魔法陣に乗ってください。お送りしますッ」


 言われた通り、ぼんやり白く光る魔法陣上に立つ。


「本当にすみませんでしたッ!」


 全身が白い光に包まれた。思わず目をつむる。


 光が消え、そっと目を開けると……


 ビエェェ!ビエェェ!


 赤ん坊から人生再スタート、のはずなのだが何かがおかしい。何が、かは分からないが、何かがおかしい。

 なんだこれ。何が起こってるんだ?


「ィよっしゃーーーーーー!」


 突然、男の声が響いてきた。


「ついに成功したぞ!大成功だ!」


 本当に何が起こっているか分からない。


「私のことが分かるか?パパだ」


(ぱぱ……)

「パパ」


(?!)


 赤ん坊ってもう話せるのか?!


 頭で考えただけのつもりだったが、無機質な声を発してしまった。


「そうだ。パパだ。手足を動かすのに問題はないか」


(問題?)

「モンダイ?」


 やはり頭で念じると、無機質な声で再生される。


「ああ。動かしにくいとか、遅いとか、ないか?」


 何を言われているのか、さっぱり分からない。赤ん坊にそんなことを言うわけがない。


 不思議に思い手足を動かしてみると、明らかに赤ん坊の手足ではなかった。かといって大人というのも、違和感がある。


 もう一度頭で念じてみる。


(ママは?)

「ママハ?」


「ママはいないよ。君は私が作ったからね」


(作った?!)

「ツクッタ?!」


「ああ。君は各地に散らばってしまった魔法を集める目的で、私が独自に開発したヒューマノイド魔法使いだ」


(はあ!?ヒューマノイド?!待て待て、オレはヒューマノイドに転生したのか?!)

「ハア!?ヒューマノイド?!マテマテ、オレハ ヒューマノイド二 テンセイシタノカ?!」


(あああ、いい。声にしなくていい)

(アアア、イイ。コエニ シナクテ イイ)


 頭で念じないようにするのが難しい。


「テンセイ?それはどういう意味だ?」


 状況を整理しよう。

 まず、死んだ。

 次。女神様が現れて、転生させてくれた。

 ここまでは理解できている。

 よし次だ。目が覚めたらヒューマノイドになっていた。


 ……え?


 いやいやいや。ヒューマノイドに転生って何?あれ、ロボットだろ?生物扱いされてる世界なのか?どういうことだ?


「まだ脳が馴染んでいないのか?」


 脳が馴染んでいない?ヒューマノイドに脳があるのか?それとも比喩か?脳に似た機構を脳と呼ぶ、的なアンドロイド業界の用語なのか?


「ちょっと失礼」


 パパと名乗るその男が突然近づいてきた。白衣を着ている。そしてこの部屋は、機械や工具がたくさん置いてあるが、クリーンベンチや遠心機と思しきもの、数多くの冷凍庫もあり、まるで研究室だ。


 オレからは見えないが、頭の方で何やらゴソゴソしている。


「うーん。問題はなさそうだが……」


(ここはどこですか?)

「ココハ ドコデスカ?」


「ここは私の研究室だ。そうか。脳の接続の問題ではなく、まだ自分という存在を認識できていないだけなのか?よし、説明しよう!」


 白衣の裾をバサッと広げて見せると、どこからか眼鏡を取り出し着用した。顔は良いがウザさ抜群だ。

 

 正直、パパというこの男は美形だ。短く切りそろえられた上質そうな髪質の銀髪に、黄金色に光る目。さらに全ての顔のパーツが完璧なバランスで配置されている。上背もあり、黙って佇んでいれば芸術品のようであるに違いない。黙ってさえいれば、さぞモテるのだろう。


「君は、元・大魔法使い、そして現在、私が独自に開発したヒューマノイド魔法使いだ」


 元かよ!オレが大魔法使いじゃなきゃ意味ないだろ!


 ……元ってどういうことだ?


「魔法の欠片を体内に取り込み強化された動物に対抗するため、極限まで強化した独自開発の合金でボディを作り、魔法を収集し体得できるよう魔法使いの脳を、それも史上最強クラスと謳われた大魔法使いの脳を、独自開発の方法で接続した。生物としての脳と、非生物としてのボディ。この二つが掛け合わさったとき、史上最強の何かが誕生する」


 つまりオレは、脳に転生しちまったのか?!なんだそれ!?聞いたことないぞ。

 それにしてもなんだ、史上最強の何かって。オレは一体何なんだ!


「何度も計算と実験を繰り返した結果導き出されたのが、死後1時間37分52秒の脳が最も適しているという結果だ。脳とボディの接続が最も正確に行われる時間であり、脳が完全なる状態で息を吹き返す時間だ。死後1時間37分52秒が経過すぎるのを待ち、死後1時間37分52秒を過ぎないように頭部にはめ込みコードでつなぐ。微弱な電流を流し、脳の息吹を待つこと3時間21分49秒05。君が誕生した」


 そう言って姿見を運んできた。鏡には、台に横たわったままの白黒の塊が映っている。


(これがオレ……)

「コレガ オレ」


「そう。これが今の君の体だ。あれ、そういえば君、男なの!?ウッソ……可愛らしい若い女性をイメージして作ったのに。だって大魔法使いはお婆さんだったじゃないか。年齢は置いておくとしても、性別が変わるなんて聞いてないぞ!」


 なんというか、想像以上に、パンダだ。だが手足の指だけは人間。


(なぜパンダ……)

「ナゼ パンダ」


 この脳で念じた言葉が発声される機能、不便だ。使いこなせるようになるまで面倒だな。このわずかなタイムラグもイラッとする。


 ひとまず体を起こしてみる。赤ん坊でも大人でもないわけだ。


 台から降りて立ち姿を映す。その場でジャンプをしたり、屈伸をしたり、動きそうなところを一通り動かしてみた。全身で見ると、末端の気持ち悪さが際立つ。

 改めて思うが、なんだこれ。


「パンダ、かわいいだろう。尻尾にリボンをつけて、かわいさを増しときました!」


 尻尾を鏡に映すと、白い尻尾に真っ赤なリボンが結わえつけられている。


「かわいいものが、実は無敵級に強い。こんなにそそる事ないよね。そのためにめちゃくちゃ強くしたんだから。ムフッ」


 変態かもしれない。

 そしてもうずっと、情報量がおかしい。


 魔法を集めるために作られたパンダ型ヒューマノイドの脳に、転生したオレ。パパという人は息を吹き返すと言ったが、中身は別人になっている。そして、めちゃくちゃ強いらしい。

 ところで、人間の脳を持つパンダ型のアンドロイドの名称は、ヒューマノイドで合ってるのか?

 そもそもパンダの赤ちゃんって泣き声「ビエェェ」だったか?


(魔法を集めるってなんですか)

「マホウを アツメルッテ ナンデスカ」


「よくぞ聞いてくれた!」


 そう言ってメガネを右手の中指でクイッと上げた。


「魔法とは鉱石の一種で、空気中に浮遊する魔素が長い時間をかけて結晶化したものだ。体内に取り込むことでその魔法が使えるようになるが、耐性がないものが取り込んだ場合、体内で魔法が暴走し、正気を保っていられなくなる。物を破壊したり無闇に命を奪ったり。最悪、自身が死に至るほどだ。そのため耐性があるものたちを、我々はまとめて魔法使いと呼んでいる。ここまでは、もちろん知っているね」


(いいえ)

「イイエ」


「そうだろう。では次。って、エエエエ?!いいえ。いいえ?!もしかしてだが、いや、そんなことは絶対ありえないが、記憶がないのか?」


(記憶?まあ、大魔法使いとやらの記憶はありません)

「キオク?マア、ダイマホウツカイ トヤラノ キオクハ アリマセン」


「嘘だろ。記憶がないだと?失敗したのか……。脳が完璧に接続されず、記憶を司る部分が引き継がれなかったということか。ついでに男になってしまった……。それもパッとしない」


 力なくそう呟くと、膝から崩れ落ちた。言ってはいけないことを言ってしまったのかもしれない。記憶を司る部分が引き継がれていないというより、そもそも別人なんだが、今言っても聞こえていないだろう。

 が、パッとしないってなんだ!彼女もいるし、超セレブだけが入れる有名宝石会社で働いてるぞ。今となってはすべて過去形だが、めちゃくちゃパッとしてるだろ。そりゃパパの顔に比べれば劣るだろうけど、モテるんだぞ。超モテるんだぞ!


 そこから何度説明を求めても、フニャフニャと覇気がなく、話もあっちへ飛びこっちへ飛びと、まるでまとまりがなかったのでまとめると……


 闇魔法で世界を支配することを目論む裏組織によって、数多くの魔法が砕かれてしまった。砕かれた魔法は各地に飛び散り、耐性のない動物たちが餌と間違え、もしくは餌とともに体内に取り込み暴走している。それを魔獣化という。

 裏組織は、耐性のない人間たちにも飲み込ませ、暴走による強大な力をもつ人間をも生み出した。人間であっても、現象自体は魔獣化というが、魔獣化した人間を魔獣と呼ぶことはない。魔獣とともに、組織の一員として取り込んでいると言われている。

 パパは元々、裏組織の殲滅を目指す組織にいたが、上層部の怪しげな動きを目撃し、組織を抜けた。魔法耐性のないパパは、裏組織や所属していた組織を調べながら、魔獣退治や魔法の欠片を回収、そして最終的に裏組織を殲滅するためにヒューマノイドを開発した。


 ということらしい。ちなみにヒューマノイドは、ヒューマンの脳を持っているからヒューマノイドで正解らしいが、本当か?


(パパ、オレやるよ。退治とか諸々)

「パパ オレ ヤルヨ。タイジトカ モロモロ」


 項垂れたままのパパをみていたら、気の毒に思えて来た。どうせこの状態で生きるしかないのだろう。やるよ。


「……やってくれるのか」


(魔法の使い方はよく分かんないけど、何とかなるでしょ)

「マホウノ ツカイカタハ ヨクワカンナイケド ナントカナルデショ」


「もちろんだ!魔法の欠片を集めればいいだけだ!いいか。お前の使命は4つだ。

1魔獣退治。すでに魔獣が街を焼き尽くした例もある。慎重に。だが人助けは大胆に。

2魔法の回収。裏組織に渡れば悪用される。動物が飲み込んでも、大問題。一つでも多く、一秒でも早く集めろ。

3裏組織の殲滅。私が集めた情報は逐一伝える。君も何か分かったらすぐに報告してくれ。最も危険だ。慎重に。

 そして最後。最後が一番重要だ。

4かわいさを守り抜く。かわいく。そして、かわいく。いついかなる時もかわいく」


 同情したオレがバカだったかもしれない。しかしまあ、やるしかないだろ。


「そうと決まればまずは腹ごしらえだ。こう見えて料理は大得意だ。期待しとけ」


(飯を食うのか?オレは)

「メシヲ クウノカ?オレハ」


「もちろんだ。腹が減っては戦はできぬって言うだろう」


(ヒューマノイドだぞ?オレ)

「ヒューマノイドダゾ?オレ」


「ヒューマノイドだから食べるんだろう。何を言っているんだ。人間の生理的欲求を知らんのか。睡眠欲、食欲、性欲だ。生物の基本だぞ」


(性欲もあるのか?!いや、オレは生物じゃないだろ)

「セイヨクモ アルノカ?!イヤ オレハ セイブツジャナイダロ」


「人間の脳を持つ以上生物だろう。何を言っているんだ、さっきから」


 オレがおかしいのか?オレは生物なのか?

 オレは何を食うんだ?人間の食べ物か?それともパンダの方か?

 パンダの性欲ってどうなってるんだ?

 オレは結局なんなんだ?


 だめだ。

 考えるのは辞めよう。


 そもそも、大魔法使いになりたいとは言ったが、大魔法使いの脳になりたいとはひと言も言ってないぞ、女神!しかもパンダ型ヒューマノイドの脳ってどういうことだ?意味不明すぎるだろ!!

 オレはあと83年もパンダ型ヒューマノイドの脳として生きるのか?!


 そんな転生、どこで流行ってんだよ!

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