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5話「最初の一歩、小さな蕾」③

儂は自分の森に足を踏み入れる。

広大な森は、多くの生き物を優しく受け入れていた。

木漏れ日は暖かく、風は爽やか。

住むには、あまりにも最高な場所じゃ。


「じゃが、家を建てるのはな…」

そう、儂は今から家を建てるのだ。

しかも、魔法が使えない状態で。

えっ、もしかして詰んだのか…?


「んっ、ここは…」

期待と不安が入り混じりながら森を歩いていく。

すると、いきなり視界が開ける。


「十分開けているし、地面は平ら…それに市街地からもさほど離れていない」

儂は開けた場所を見渡しながら、一つ一つ確認していった。


「うむ!ここにするかの」

そうして儂の家を建てる場所が決まったのであった


――


ドォンッ、と森の中で低い音がこだまする。

儂は木目が美しい、平屋の一戸建てを建てることにした。

隠居のススメ内で見た、異世界の住居がモデルじゃ。

儂は今、風魔法をうまく使って木を切り倒していた。


「うっ、腰が…死ぬッ」

盛大な魔法は使えない。

ちまちまと魔法を当てて木を倒していく。

それが地味に時間がかかる。

だが、それでも3、4本は木を倒した。


「これぐらいにするかの」

倒しすぎてもいけない。

儂は木こりを止め、背を伸ばしながら気持ちを切り替える。


「さあ、運ぶかの」

儂は切り倒した木を持ち上げようとする。

だが、びくともしない。


「なら、これならどうじゃ?」

儂は体に身体強化をかけて丸木を持ち上げる。

一応、持ち上がりはした。

…どんくらい?いっ、1cmぐらい

そして運べない。

…なぜって?そりゃ腰がやばいのじゃ。


「ならば…!」

儂は再びちまちまと魔法を使い、丸木を細かくしていく。


「うむ。これなら運べるの」

少し時間はかかったが、なんとか運べる形にはなった。

そうして、儂は切り倒した木を建設地へ運ぶことに成功した。

やはり自分の力で物作るのは楽しいのじゃ。

…家は想定しておらんかったが。


――


「さて、組み立てるとするかの!」

儂は少しの休憩をしてから、作業を再開する。

気づけば、空は赤みを帯びていた。


「まずは壁じゃな」

儂は切り倒した木を持ち上げて積み上げていく。

高くなるほど大変になるが、魔法で筋力を補うことでなんとか積み上げることができた。


「よし。1面完成じゃ」

格闘しながらもなんとか壁を完成させる。

これをあと3回…楽勝じゃな。

と思った矢先、強い風が吹いてくる。


「うっ、風が強くなっっ、ちょっちょっと待つのじゃあ!」

風が通り過ぎた瞬間、壁がゆっくりと傾いていた。

儂は全力で救いに行くが、その健闘虚しくガラガラと倒れてしまった。


「ああ、お主のことは忘れんのじゃ…」

さらばじゃ、第一号。

だが、まだ時間はある。

気を取り直して、再び壁を作りに行く。

やっとのことで、儂は不格好ながら壁を4面作った。


「ふぅー、よしっ!壁、完成じゃ!」

儂はこの世に君臨した偉大なる壁を眺める。


「早速、家の中はどうじゃー?」

儂は期待を胸に家に入ろうとする。

が、入口がない。


「こっ、これ、何処から入るのじゃ…?」

儂としたことが、玄関を作るのを忘れてしまった。


「…これは、完全に箱じゃな」

しょうがないから、そっと壁の1面をずらして隙間を作ろうとした。

…もちろん倒れたのじゃ。

そんなこともあり、ようやく家に入ることができた。


「おお!おお?」

中にはそれなりの空間が広がっていた。

が、隙間から吹き込む風が儂を冷たく撫でる。


「…これは、家とはいえんな…」

天井には広大な空が広がってるし…


儂はその後も試行錯誤を続けた。


屋根をつけてみる。

…木が足りないのじゃ。


木の断面を床にしてみる。

…ガッタガタじゃ。


これじゃ、欠陥ハウスじゃないか!

うぅ…難しい。

やはり、自分で家を作るのは無理じゃったのか?


「はぁ、休憩じゃ」

魔力も筋力も気力も底をつき始めた。

儂は近くの地面にドサッ、と仰向けで横たわる。

いつの間にか日が落ちた空には、広大な星空が広がっていた。


「これもまた、隠居の醍醐味かの」

久しぶりに眺める星はとても綺麗じゃった。

疲れた儂はそのまま、広々とした自然の中に意識を溶かしていった…


――


木の上で一つ影が動く。


「あいつ、何してるの?」

その小さな呟きは夜風に流れていった。

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