31話
ざわめきが凄まじい。
今日は凛風に起こされる前にざわついた外の音で目を覚ました。
「流石にすごい人だ……」
今日はオオサカ夏祭り2日目。
1日目は軽くだが出店を確認して食べ歩き、お土産を探していた。
父さん、ツェルニ先生、ミユキ、鍛冶屋のお兄さん、購買部のお姉さん辺り用に日持ちするお菓子を買っておいた。鍛冶屋のお兄さんには石を渡せればと思ったが、中々相場より安い石が見つからない。無理して買って行ってもいいが、それはそれで申し訳なく思われたら困るし……まあ、明日見てみよう。
今日は1日動けない可能性が高いからな。
2日目は闘技大会の日だ。正確にはナズナのジュニア部門が今日。
ジュニア部門と侮るなかれ。エリート候補生達の実力を測る場だったり、在野の中で見つけられなかった粒を見つけるための場でもある。とナズナが教えてくれた。
対人部門も一般の部ならあるが、こちらは捕獲されたモンスターとの戦闘を主に行う。倒す以外にも時間を測り、また本人のダメージもチェックされる……とパンフレットには書いてある。
「凛風。今日は言った通り闘技大会を見に行こう」
「……」
返事はないがとてもワクワクしているのが分かる。桜にはまだできてないけど、できるだけ仲間の好みは知っておきたい。こういう風にサービスできるからな。
朝ご飯を食べて出かける。
夏祭りは出店だらけな都合上、朝から晩まで凄まじい人混みとなってしまっている。
そのため一方通行の道が多く作られており、また空を飛んだり駆けたりする事にも規制がかかっているそうだ。騎士団だけでは到底人が足りず、「オオサカ夏祭り」というゼッケンを来た新米ハンターが人の整理をしている。
そしてもう一つ。異様かもしれないが大きな通りでは呼び込みも禁止されている。
他のやりとりが聞こえるようにとの事らしいが、ぶっちゃけお会計だったり客同士の会話だったり、値引き交渉だったりでそれでもだいぶうるさい。
「モンスターの咆哮とかは大丈夫なのになあ……もうちょっと楽に行けないかな」
「……」
凛風が空を指差すが、それを制する。
「屋根登って走るのも禁止されてるんだ。闘技場、指定席取ってるから大丈夫だと思うけど」
「……」
朝から予選は始まるので、他の場所に目移りする事なく闘技場に着く。
コロッセウムのような外観は西大陸から設計図と材料をわざわざ運んできて作ったものだとか。こういうパネルの解説読むの、結構楽しいんだよね。
「……」
「わかった、わかったから手を引っ張るのやめて!?」
つまめるものとジュースを買い、凛風と席に着く。絶対見たいだろうと思って、俺が行くと決めた時に2人分席を取っておいたのだ。
テイムモンスターはこういうのにタダで入る事ができるのが一般的らしいが、それだと席は1つしか取れないので……凛風の膝に乗せてもらいながら見るのは恥ずかしすぎるため2席取った。
「始まるよ、凛風」
頷きながら大会会場を凝視する凛風。
司会が簡単なルール説明をして、予選を行う。
参加者は200名程。4グループに分けて、上位4名ずつが勝ち上がる。
最初はバトルロイヤル形式という事で、広いスペースをまるまる使って行う。
フィールド上に50名ほどが入場し、反対側から大量の餓鬼と小鬼が現れる……!
参加者達は恐れる事なく攻撃していく。餓鬼1点、小鬼2点。時折★2が混ざり、こいつは5点。
「範囲攻撃が得意なスキル持ちとかは不利だろうけど……まあ学生だし」
それこそナズナの大盾に設置された砲レベルでもなければ、人に当たる事はないだろう。注意力を発揮していればという前提だが。
「あっ」
1人の参加者が他の子にハンマーを当て……る直前に係員が妨害、ハンマーの子を退場とする。
ジュニア相手なら寸止めも可能か。
感心しながら見ていると、凛風も何人かの子をじっと見ている。
「どの子が気になる?」
「……」
指差したのは2人。どっちも男の子で、1人は小太刀を使って的確に雑魚の首を落としている。★2は避けて雑魚のポイントを狙っていく戦術のようだ。
もう1人はなんだろう……?近づくだけで餓鬼が倒れていくが……?
他の参加者を避けている事から、無差別攻撃なのだけは分かった。
「面白いな、凛風……」
ブンブン!と凄い勢いで首が縦に振られる。これで喋れたら早口の解説とか聞けたのかな……ちょっと残念かもしれない。
ナズナの組はどうやら最後、4組目。
探すのに手間取ったが、それは装備のせい。いつもの大盾ではなく、そこそこの大きさの盾に小筒を持っている。
手を振ればこちらを見つけたのか、ニコリと笑顔を返してくれる。
「が」「ん」「ば」「れ」と応援の口パクと、また手を振っておこう。
「予選は突破できそうだ」
「……」
ナズナ以外に強そうな人は2人かな……?2人ほどいるが、4人には入るだろう。
本来ナズナにとって多数を素早く殲滅するというのは戦闘スタイルと噛み合わない、苦手なものだろう。
しかし相手が相手。もはや餓鬼小鬼なら、戦闘スタイルがなんであれ殺戮して回れるくらいの実力はある。その領の子供の中で頂点に立つとはそういう事だ。
特に心配する事なく予選は終了した。
「中々見応えがあるよな、ジュニアでも」
「……」
これで一般だったらどうなっていたのか。ちょっと惜しいかもしれない。
あれから午後の部、本戦が始まる。
★2を同じ種類で大量に揃えることはできなかったらしく、1〜2回戦はランダムな★2との戦い、準決勝は★3、決勝はなんと★4と戦うそうだ。
★4で見た事があるのはやはり牛頭鬼、馬頭鬼。あれを学生の相手として出すと言う事は、1年後の俺も……強くなればソロで倒せるのだろうか?
★2を倒していく同世代の子供達を見る。
「やっぱ同じくらい……それかもう1ランクくらい上かな」
「……」
流石にベスト8ともなると全員レベル3相応のスキルを持っている、と思われる動きをしている。
最初に見た小太刀の男性はなんと3人に分身。短時間だが怒涛の攻めで2回戦をトップクラスの速さでクリアしている。
だがナズナも悪くはない。
「やっぱり盾がデカいな……」
本戦では履物も下駄に変え、いつもの大盾からの一撃で仕留めている。
一緒の時はあまり使わなかった小筒を加える事で、間合いをなるべくコントロールしているのも見て取れた。
4位だが準決勝出場。
これには観客達も拍手を送った。やはり1学年上の14歳の方が強いと言う事で、歳下組ではナズナが唯一の準決勝組だ。
そして準決勝。
「あれは……!?」
なんと闘技場に放たれたのは西大陸のモンスター。★3モンスターのオーガだ。司会の説明に観客が湧く。
『準決勝と決勝はァ!わざわざ西大陸から取り寄せたモンスターを使うぞ!準決勝はオーガ!特殊能力はないがそのパワーは侮れないぞ!』
スタートの合図と共に檻が開けられ、オーガはナズナの元まで駆け寄り、拳を振り下ろす。
打撃音は響くも、ナズナは見事に盾で受け止め切り。しかし反撃の小筒を撃った途端距離を取られる。
『まずは様子見か!?互いに相手にどうダメージを与えるか考えているようです!』
あの小筒はミユキが使っていたものと違い、2発まで球を込めておける。代わりに威力は銃よりは上、程度のもの。本来は鬼面盾の一撃か、仲間のアシストがある前提で格上と戦うのだが……。
「頑張れ、ナズナ」
聞こえるわけがないがそっと呟く。
★2までならテクニックと肉体性能で行けるけど、どうなんだ、これは……?
「!」
「動いた!」
凛風と共にナズナとオーガを覗き込む。
先に動いたのはナズナ。このままでは埒が開かない、時間を気にするが故の行動。
がオーガも動く事を強いられる。初手のやり合いで相手を油断ならぬ力量と判断したからこそだが、それがうまくハマった。
『ナズナ選手距離を詰める!オーガは投石を行うが盾に弾かれています!』
思うに、事ここに至ってオーガは動けなくなっているのだろう。
相手の攻撃は明らかに遠距離攻撃。両手共に塞がっており、他に武器がある様子もない。
盾で殴り合うなら勝てる。
……ではなぜ相手は突っ込んできているのだ?
逃げれば小筒でやられる、接近戦ならこちらは負けない、なのにどうして?
「こんな所……なのかな」
凛風が頷いて「そうじゃないの?」と伝えてきてくれる。2人とも見た目が同じなら、多分そうか。
「じゃあ勝ちだね」
「……」
突っ込むナズナを正面から受け止めたオーガ。オーガは反撃のために拳を振り上げ、防御も回避もしようとしないナズナに違和感を覚えたのか、ここで避けようとして。
「入った!」
鬼面盾から放たれた一撃が腹部を中心に抉り取る。避けようとしたが、心臓は綺麗に削り取っている。勝負あった……か?
「いやこれは、」
瀕死のオーガが立ち上がり、ナズナを掴もうとして盾に防がれる。
残った小筒の1発を眉間に受け、オーガは今度こそ倒れる。
大会終了後、満足した凛風を戻して1人ナズナに会いにいく。
「お疲れ!」
「ん?おお!ハルキやん!どしたん?こんなとこまで来て」
ナズナの帰りでも待とうかなと思っていたが、他の観客もとい同級生の応援に来ただろう騎士見習いの子達に見つかり、折角ならと個人控え室まで通してくれた。
そういう事を伝えるとなるほどな〜と笑い、こちらに手招きしてくる。畳に座らされ、どうしたと思うと頭を乗せてくる。
「逆膝枕!?」
「逆?よう分からんけど、ウチにもご褒美あってもええやろと思って、自分にご褒美」
「あげてるの俺にならない?」
「気にしとったらおっきくならんよ、ハルキ」
まあ満足そうなのでいいのだけれど。
結局オーガは倒せたものの、タイム差で彼女は4位となってしまった。いやそれでも相当な快挙なのだが、
「不満そうだね?」
「……分かってまうか?ハルキは人をよう見とるなあ」
そりゃあ短いながらも結構な死線を一緒にした仲だから。敵であれ味方であれ、分かってくるものはある。
「じゃあほら、ご褒美堪能しな」
「ん……ええな、こういうのも」
そこで会話は終わり。しばらく2人でゆったりしてその日は解散した。




