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くっころの騎士団と枢軸の魔術師  作者: Tand0
Saga 5: くっころの騎士団と枢軸の魔術師
35/52

急転(なら/しが/ぎふ(後編①

「何だと……、外部との連絡ができないとはどういうことだ」


 事態の急展開にオジ・サーマキーノは顔を真っ赤にして怒り出した。

 答えるのはいつもの老騎士だ。


「どうもこの結界、光以外のものを通さないようでして。光についても攻撃的なものは受け入れないようです。そのため手旗信号等であれば伝わるのですが、人間の通行はもちろん、攻撃的精霊魔術、物理攻撃、通信魔術(RFC1149)、音声、空気などは一切通さない模様です」

「だいたい、なんでそんなことが分かっていないのだ」

「この本陣はかつて魔王の徒と呼ばれた者が住んでいた居城を堅牢だということで改装して砦化したもの。この魔方陣も敵からの侵入を防ぐ防御に使うのであれば完璧といっても良いのですが……」

「強大さを誇れるのならば良いのだが。解除は試みたのか?」

「はい。ですが鳳凰騎士団の中心メンバーは皆騎士。どうにも荷が重く……」


 オジ・サーマキーノは歯噛みした。

 鳳凰騎士団には薔薇騎士団と違い魔術師はほぼいない。

 筋脳が多く、いたとしても軍戦場の儀礼で戦いの火豚(ファイヤー)を切るために嗜む程度でしかなかった。


「まて。通行がだめということは、食料などは大丈夫なのか?」

「食料は備蓄が1ヶ月はあります。水もなんとか。しかし……」

「しかし何だ?」

「空気が――」

「まさか大気精霊の出入りまで魔法結界陣は遮断しているというのか!?」


 オジ・サーマキーノは青ざめた。


 人は常に呼吸をしている。

 その呼吸は新鮮な空気がなければ正常に行われないのだ。


 この世界では酸素や二酸化炭素という言葉は一般的ではない。その代わり精霊魔術については一般的であり、酸素とはつまり大気精霊という名前で知られていた。

 そしてその大気精霊が死ぬ――つまり空気が淀んで酸素がなくなれば人は呼吸ができなくなって死ぬ、ということについては原理が分からずともさすがに常識であった。

 この砦一帯の大気精霊が遮断されてしまえば、何日かはもつだろうが長くはないだろう。それが3日なのか、1週間なのか。誰にも分からない。


「なんでそんなことになっているのだ?」

「おそらくは超攻撃的な魔術に瞬間的に耐えるための防御陣であって、長時間魔力を流し続けるようなことは想定していなかったのかと……」


 太古の魔王の徒同士での戦いでは最終奥義という人智を超えた人外の魔法が乱舞していたと聞く。それも世界を何度も滅ぼすほどの。

 この砦が昔から存在しているとこうとは、それに耐えたということだ。

 瞬間的に魔力の強い者を魔方陣に投入して防御を図る、といった使い方を想定していたのだろうか。魔方陣に組み入れた存在の魔力がすぐに枯渇して死ぬのであれば問題にはならないのであろうが、問題は妖孤の魔力が圧倒的だということだ。


「この話。誰にもしていないよな」

「はい。こんな情報が漏れますと、同士討ちが始まる可能性も――」


 空気――大気精霊を長くもたせるにはどうすれば良いか。

 簡単だ。自分以外の息の根を止めればいい。文字通りの意味で。

 だからそんな情報が知られれば騎士団内で壊滅的な被害が出るおそれがある。


「ともかく地下牢獄にいくぞ! 捕まったアホウな妖孤を手懐けてから解放しないと大変なことになる」

「――難題ですな」

「その妖孤が聞きしに勝るチョロインかどうか、今試されるわけだ」


 ≪砂丘≫トトリーからのヒストリカル・ブラックの回収を目指す妖孤の使者。

 どのような存在なのだろうか?





 鳳凰騎士団本拠地、地下牢獄――

 相変わらず妖狐とシルバーナは魔方陣に囚われたままである。


「ふんふんふー♪ 魔方陣の中から強大な結界をさらに強力にするとか僕天才なのです」

「いやいや、強化しちゃダメでしょう?」

「そこは褒めてほしいなぁ」

「そこは普通解除する方向でしょうに。解除したら褒めますけど?」

「んー。最初は解除しようと思ったのだけれど。ぶっちゃけ強化するより解除する方が面倒でさ――。魔方陣の特性から考えたらそうなるに決まっているのだけれど。そしたらホラ、技術者(ぼく)としては現実逃避(ネタ)に走りたいわけなのです。ということで、空気遮断とかまで仕掛けたからそろそろ降りてくるのではないかなぁ……」


 妖狐のいまいち掴めないテンションにシルバーナが辟易しつつも、言われて耳を澄ませば確かに複数人の男達が降りてくる足音が聞こえた。

 ちなみに壁に激突した男達は気絶してそのままである。


「さて、≪砂丘≫トトリーからの使者とお見受けしますが。何ゆえこのような場所に現れたのかな」


 降りてきた騎士たちのなかで他とは毛色の違う貴族、オジ・サーマキーノだ。オジ・サーマキーノは妖狐に開口一番、高圧的に問いただした。声のでかさでまずは従わせようという交渉術だ。


「えぇ、そのとおり。僕は≪砂丘≫トトリーからの使者で、ヨーコ・ナナビーノというのです。理由? あぁ、ここの女の子がそこの男騎士に襲われそうになって助けを呼んでいる声が聞こえてね。こうみえても世界の秩序を守る正義の味方なのですよ、僕は。でも召喚されてきて見たらこの魔方結界陣に囚われてしまったのです」

「それで薔薇騎士団を――」

「ん? 薔薇騎士団なんて一言も言っていませんが?」


 オジ・サーマキーノのかま掛けには乗らないとばかりに答える妖狐。

 もっとも状況的にバレバレであり、それに意味はないのだが。

 オジ・サーマキーノは壁際で倒れ伏し気絶している2人の男性騎士を一瞥して鼻じらむ。と話を続けた。声程度では動揺しない妖孤に対し、オジ・サーマキーノはここからが本題だとばかりに切り出した。


「……。まぁいいだろう。ところで≪砂丘≫トトリーといえばヒストリカル・ブラックの回収が主な任務であるのだろう? できれば手伝っても良いが?」

「いえいえ。回収は保有者にある程度使い切らせて消耗させないと難しいですから。ゆっくりやっているので間に合っています」

「その手伝いだよ。薔薇騎士団の連中を我々騎士団の連中に襲わせればよいのだろう。そうすればそのヒストリカル・ブラックの保有者は動かざるを得ないし、チカラを消費せずにはいられない」

「だからゆっくりやるって言っているでしょう?」

「それは、≪砂丘≫トトリーに帰らずもっと遊びたいから? かね?」

「そうよ? 悪い?」

「遊びたいのならば、薔薇騎士団なんかとつるむより、我ら鳳凰騎士団とつるむ方が良いとは思わないかね。聞いているぞ。チキンナゲット1個で願えるようなチョロインだと」


 警戒気味に話していた妖狐だが、始めて興味を示したかのようにオジ・サーマキーノをしげしげと眺める。


「――ふーん。例えばぁ?」

「ちょ、ちょっと――」慌てたのはシルバーナだ。

「そこの忍者は黙っておれ!」


 シルバーナを叱咤するオジ・サーマキーノだが、魔方陣に阻まれ物理的に叩くことはできないでいる。


「例えばだな――」

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