急転(なら/しが/ぎふ(中二編
「これは一体どういうことだ!」
オジ・サーマキーノは突然発生した自体に目を丸くせざるを得なかった。
鳳凰騎士団の本拠地は今、夜であるにも係わらずまるで昼であるかのように明るい光で満ちている。
それは単に1箇所が光っているわけではない。
本拠地のあるソドムトゴモラの砦全域、全てが光に包まれていたのだ。
それは魔法の光だ。
鳳凰騎士団の防御魔法陣が太古の時を経て駆動し、光を発しているのだ。
「何が起きている! この鳳凰騎士団の本拠地、ソドムトゴモラに存在する広域防御魔術は太古の魔王の徒と呼ばれる存在が作ったものであろう。それがなぜ今になって光始めているのだ」
「それが……」
「言え!」
「さきほど捕らえたくノ一を手篭めにしようとした馬鹿騎士がおりまして、そのくノ一にあのキーワードを言わせたらしく……」
「ふん。『くっ…、殺せ』とかいう、あのくっそふざけた奴か。それで?」
「鳳凰騎士団についている魔術師に付いていた妖孤が召喚されて、それが魔法陣に囚われてこのように……」
「なんだとぉ! そいつは≪砂丘≫トトリーの回収部隊じゃなかったのか?」
空中庭園≪砂丘≫トトリー。それはかつて魔王がこの世界アジアにばら撒いた、ヒストリカル・ブラック。それを回収する魔王の徒がいまだ存在する組織だ。おそらくはヒストリカル・ブラックを効率的に消耗させるべく回収者本人が動いている、その一環なのではと老騎士が指摘する。
そしてさすが古代より存在する≪砂丘≫トトリーからの使者。その魔力は圧倒的だ。
今や天空にきらめき、さらにはより強度なものとなっていく魔法陣の光がそれを物語っている。
「魔王の徒が作ったとされる魔法結界陣! たしか捕らえたものの魔力でその威力が向上するのであったな。それで1匹でこれか? なんという馬鹿魔力なのだ。――だがそれ故に使える」
「と、いいますと?」
「その魔族というのは、オーストロシアでも簡単に帝国の将軍に懐柔されたという。それもチキンナゲット1ピースとかでな。そんなチョロインであれば我らの手に落とすというのも簡単なことではないのか?」
「はてさて……」
彼らヒストリカル・ブラックの回収者の基本方針は「好き勝手に使わせて消耗したところを回収」である。まさに前回の氷河の剣のときはそうであった。
さらにはその捕まった妖孤というのも真面目に回収活動をしていた訳ではないようだ。世俗にまみれふらふら遊んでいると間者からの報告で聞いている。くっだらないキーワードで召喚されて魔術師にヒストリカル・ブラックを使わせる、などといった遊びを実行していること。それこそがその証拠だ。魔方陣によって今回魔術師は阻まれたようだが。ともかく鳳凰騎士団にとっては非常に迷惑な話だ。
だが他に介入のない妖孤一匹の状態であるならば。
「金、権力、名誉! 我々であれば薔薇騎士団にない素晴らしいものを幾らでも提供できる。世俗にまみれた者であればすぐに従うであろう?」
「魔法結界陣の中で脱出できない魔物程度であれば、薬や酒、暴力などで無理やり従わせることもできるでしょうが、それでは≪砂丘≫トトリー側が何をしてくるか分からないですし、その方向でやるしかないのでしょうな」
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「一難去ってまた一難ということでしょうか?」
「で、これ。僕はどうしたら良いのです?」
鳳凰騎士団本部の地下牢獄。
くノ一のシルバーナと妖狐は魔方結界陣の中で呆然と座っていた。
「とりあえず、足枷は外していただいてありがとうございます」
「どういたしまして。でも僕が魔法使ったらこのありさまなのです」
妖狐がシルバーナによって召喚された直後、近寄っていた2人の男性騎士は魔術の力によって即座に吹き飛ばされていた。牢獄の壁面にそのまま激突。死んではいないだろうが、全身打撲および骨の2、3本は逝っているだろう。
妖狐の魔術により、本来であれば激突しただけに留まらずそのまま美しくも赤い壁画として壁の一部となるはずであった騎士達だが、それを阻んだのは魔法の罠による結界陣だ。
妖狐の放った魔術≪次元の壁≫と同格である最終奥義に近い罠の力は、魔術の魔力を捕らえて自身をより強固なものにしていた。
「おかげで鳳凰騎士団の連中から何かされることはなくなりましたが……」
「おかげで強化された魔法結界陣から逃げることもできなくなったのです。うーん。困ったのです」
あまり困ったようには見えない様に見える妖狐をシルバーナは不振に思う。
「本当は困っていないのですか?」
「うん。だって本当は逃げようと思えばいつでも逃げられるもの。だけれど逃げようとして魔力を使うと、貴方が魔力の余波で死んじゃうのですよね。助けようとした娘を殺したらさすがに僕がマスターに怒られちゃうのです。それもきっとものすごーく」
「そこは困ってください。とても困ってください。ものすごーく」
シルバーナは命が惜しかった。
「後は外部から破壊するのが簡単なのだけれど、あー、困ったなこれ……。外部からの防御結界にも魔力が供給されているね。相当にすごい力で本陣ごとぶっとばす位のチカラがないと無理じゃないカナー」
「困っているにしては楽しそうですね」
「だって、助けてくれるでしょ。僕のマスターが。そして僕のオーカが。これほど楽しそうなイベントはないよね。わくわくする」
「私としては楽しんで欲しくないのですが――」
オーカというのは魔術師のことだろう。
あのオーストロシア攻略時に魔術師の使う荒唐無稽な魔術は見たことがある。あのような≪厄災≫がこの地に降りかかるとなれば中の人たちがいったいどうなるか。あまり付き合いはないが同じアーカンソーの住人として、鳳凰騎士団に振りかかる破滅にシルバーナは身震いする。
「それに助けに来なかったらここの人たちもっと悲惨なことになるよ?」
「え?」
「私達の周りの魔方陣から出られないようにした防御結界の外に、外部からの防御結界も張っているって言ったでしょう? つまり、ここの人たちってば今、外に出られないのだよ? 気づくのはいつになるかなー(棒」




