愛を知るもの(あいち/やまがた/にいがた(こんどこそ!
「で、なんで俺、オーストロシア降伏させに来たのにオーストロシアの征夷大将軍であるウィンター将軍とお茶しているのですかね? ヨーコ」
「さぁ?」
「高度な交渉と言いたまえ。オーカ・スターシーノ」
アイスを頬張り満面の笑みの妖狐は、オーストロシアの主都キャンベルクワ城のテラスで、ウィンター将軍とお茶会を開いていた。
「将軍とお茶会……、将軍とお茶会……」
隣に震えながらなにかぶつぶつ言っているナタリーがいたが、それはみんなから視線を合わさないように無視されていた。
「――というわけで、目出度くマイマスターのサクラとオーカは婚姻しようとしているのですが、鳳凰騎士団の長であるオジ様に反対されて、出された条件がオーストロシアを降伏させることができたら――と」
「くっだらねぇ。くだらなすぎるぞ。そんな理由で降伏する帝国があるものか」
「ここに?」
「いや、なんかすみません」
そんなくだらない理由で降伏させる気まんまんだった魔術師は己を恥じた。
「つまりだ、そのオジとかいう鳳凰騎士団の主? そいつはオーカが貴族でないことを理由に反対しているのだろう? ならば、ワシが後見人になれば万事解決であろう? オーストロシア帝国内の好きな有力貴族により取り見取りで養子送りにしてやる。いや待て、そこのヴォルケイノ家がいいかもなそうしよう」
「しかし、それでそのオジとかいうのが納得するでしょうか?」
「うーむ。男が言った発言を撤回するのは難しいか――」
復帰したナタリー・ヴォルケイノ補佐官が口を挟みウィンター将軍は首を捻る。
気づいたらいつの間にか兄ができていたことには異論は挟まない。今までの経緯的にそいうこともあるだろう。
「そのオジとかいう貴族は『オーストロシアを降伏させることを条件に』と言ったわけだな――。ならばこういうのはどうだろう。『蜂の罠作戦』はまだ継続中で、虎視眈々とオーストロシアの将兵やワシを狙っているというのは? ただし性的な意味で。薔薇騎士団の女騎士はみな聡明で美しいと聞く。独身の将兵がことごとく尻にしかれたら降伏もやむなしではないだろうか」
「それをオジが認めると?」
「認めるさ。まさか薔薇騎士団がオーストロシア帝国を本気で攻略できるなど誰も思っていないはず。これでも認めないなら――それこそ我々が武力に訴えれば良い。アーカンソーとオーストロシアの間を隔てていた有機カリの森やエアーズ岩砦はもはや存在しないのだから、簡単であろう?」
いったいどこの馬鹿が壊したのかな。
ウィンター将軍の突っ込みに魔術師は苦笑いを浮かべるしかなかった。
確かにあれだけの天然防壁。アーカンソーからオーストロシアへの攻略がいままで難しかったのと同じように、オーストロシアからアーカンソーへの攻略もまた難しかったのだ。だがそれがなければ? アーカンソーにとっても守るべき壁がなくなったも同じだ。
「それにな。俺は30後半なのだが。独身なのだ――」
ウィンター将軍は目を輝かせながら薔薇騎士団をターゲットに入れた。
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2日後――
アーカンソーの薔薇騎士団はなんの戦闘もなくオーストロシアの主都キャンベルクワにたどり着いた。
そしてさらに1日後。
オーストロシアの中央大広間で、後に『蜂の捕食会』と呼ばれるその夜会が盛大に行われた。早い話、集団での合コンである。
いや、合コンより1歩進めているといっても良いだろう。それは薔薇騎士団とオーストロシアの上級将兵や貴族とのお見合いの様相を呈していた。様相というか、普通に集団のお見合いであった。
しかし、薔薇騎士団は総勢約500名の集団である。
オーストロシア帝国がいかに大国であっても、1日や2日で彼女ら似合うドレスを全て調達する、というわけにはいかなかった。
そのためドレスを着ることができたのは一部の者達だけで、多くは女騎士の正装――たとえばプレートメイル――である。
だが、お相手の多くは将兵。そのようなことはあまり気にする方ではなく、むしろ逆にまじめでストイックな女騎士と受け取られる向きが多かった。また女騎士達も気にしていない。これらの事態を予想して自前のドレスを準備していた女騎士もいたのだが。
どちらにせよ、集まった女騎士はアーカンソーという異国情緒あふれる美姫ぞろい。表面上は冷静でも心が躍らない将兵はいなかった。
「やぁ、始めて逢うことができて光栄です。サクラ」
「オーカ様も始めまして。ヨーコよりも身長は低いのはごめんなさいね。あと4年程度はお待ちいただければー―」
「いまでも十分可愛いからね。それでも期待しているよ」
「まぁ……」
魔術師とサクラの、この前の鳳凰騎士団本部での『始めての出会い』はノーカンとばかりにアイサツを進めていく。
「ぐぬぬ。僕のオーカがとられているのです」
「ふむ。ヨーコはあそこのフライドチキンでも食べているのが良いのではないか?」
「――。なにげにウィンター将軍が酷い。乙女の恋心より食い気と思われているのです。けれどおしそう」
「私も『喰いに』いかないといけないからな。いや? 『喰われに』か」
食い気に負けたヨーコを見送ったウィンター将軍に一人の女性が近づいてくる。
彼女はエルフの女騎士、エルだ。
「ウィンター将軍にはこのような席を設けて頂いてありがとうございます」
「『蜂の罠作戦』にわざわざ乗ってやろうというのだ。ほら、うちの将兵どもも喜んでおる」
「それでは私と踊っていただけませんでしょうか? 私は騎士団以来の騎士ですから、優に200は超えております。お若いウィンター将軍に見合わないかも知れませんが」
「うーむ。エルフの血が帝国に入るのはのぉ」
「ただ一緒に踊るだけですというのに……」
この気の早いチェリーボーィはもっと、からかうべきだろうか。その方が面白そうだ。
エルは少しだけ嗜虐心に駆られた。
「しかし、オーストロシア帝国のウィンター将軍ともなれば女性など選り取り見取りだと思いましたのに」
「戦場ではかなり獰猛な肉食なのだが、女子の前ではなかなか肉食にはなれんでな。今回も奇策とはいえ、異国の美女を相手に手を出するのはどうか、と心が囁いておる」
「それでしたら――」
エルは目を少しだけ横に逸らす。
それにウィンター将軍も釣られた。
そこには暗い表情のナタリー補佐官が淡い水色のドレス姿で立っている。
「は?」
エルとウィンター将軍に見つめられたナタリーは間の抜けた声を発するしかなかった。
「目ざとい貴族の女であればこのような夜会に関心を持たないはずはありません。この夜会の女性の参加条件は『薔薇騎士団の一員であること』。そして入団の可否権限は副団長以上が持っています。特に我が団長の懐はさぞや潤ったのでしょうね」
見ればアーカンソー王国のものと思われる女騎士の他、明らかに知っているオーストロシアの貴族の女の姿もあった。
彼女らは何とかしてこの重要な夜会にもぐりこむべく、僅かな時間の中で情勢を読み取って嘘でも騎士団の一員となった者達だ。相当な切れ者といっていい。
なにしろ今回の夜会は、帝国の将軍自らがついに女の尻に敷かれるために薔薇騎士団の美女の面々を召集して開いた、と一般には説明されているものだ。当たれば相当にデカイブツを釣り上げることができる。さすがにウィンター将軍は無理だとしても、他にも地位の高い将兵はいるのだ。そして彼らもその趣旨を理解して参加している。その重要さの程が分からないはずがない。
「はははは。こりゃぁいい。ナタリー女史。貴族の女間のその手の情報は持っているか?」
「いえ、あの……。持っていないことはないのですが……」
確かにナタリーは補佐官であったこともあり、女性ならではのその手の情報収集をも行っていたが、ひけらかすのはどうだろうと考えていた。
「よし持っておるのだな。とりあえずワシに付き従え。この際だ。将兵どもの背中を押しまくってやる。さすればワシへの忠誠もより高まるというものぞ」
ウィンター将軍はナタリーに右手を差し出した。
掴まれと。だが、その腕を掴み組んだりしたら一体何がおきるだろうか。
「ナタリー補佐官。この際だ、しばらく付き合え。ヴォルケイノ中将は同輩でワシも尊敬する人物で借りもあるしな。適当に付き合っている噂を広めておけば、表立っては砦失墜の罪をなんとかいってくる連中を封殺できるであろう」
「え、えぇ~」
「良ければ今後も付き合ってもいいぞ。おっと、これはパワハラすぎるかな?」
「いや、ぜひともお願いします。」
びくびくしながら、おずおずと手を伸ばすナタリー。
お局様と自分が呼ばれる未来を一気に想像できてしまい、ナタリーは顔を赤くするしかない。




