オオカミは天然ワンコの皮を被る※恭子視点
「ちはーっす、恭子先輩」
「こんにちは、翔太くん」
「高崎先輩はいないんすか?」
「鈴は教授のところに質問行ってるよ」
「ふーん、そうなんすね」
学生ラウンジにて。鈴を待っていたときに翔太くんに声をかけられた。挨拶の次にすぐ鈴のことか。私はちょっと苦笑した。
「なんなんですか」
「いやー。最近鈴とどうなのかなって」
「先週の日曜日に2人でカフェ行きましたけど」
「えっ嘘初耳なんだけど! あの鈴が了解したなんて翔太くんどんな手つかったの」
「何もしてませんよ」
鈴はいないからか、いつもの彼とは違いそっけない。
「普通にできるのに、鈴には何であんな態度なの。超ウザがられてるよ?」
「あの人警戒心ハンパないじゃないですか。あれぐらいフランクにいかないと会話すらしてくれませんし」
「それはそうだね」
鈴はちょっとコミュ障こじらせているので慣れている人以外の警戒心は並みのものではない。だから、翔太くんなりの対策といったところだろうか。
「でもさ、鈴を攻略するのは難しいんじゃないかな。ていうかずっと聞こうと思っていたんだけど、鈴が好きって翔太くんはロリコンなの?」
「自分より年上の女性はロリコンとは言いませんから」
「いや、あれは合法ロリでしょ」
「それ以上言ったら兄貴に言いますよ」
「ごめんなんでもないわ」
「分かってもらえたのならいいです」
翔太くんはにっこり笑った。私は彼のお兄さんと現在付き合っている。翔太くんに付き合う前に色々と手助けをしてもらった。だから私は翔太くんに頭が上がらないのだ。彼は実は、と話題を変えた。
「3か月後くらいに幼馴染の誕生日があるんです。それでお呼ばれしてるんですけど」
「へぇー」
「その幼馴染が広瀬先輩の従姉妹さんなんですよね」
「は!?」
「『ゆかりに近づく男は全員ブチ殺す』ってそれはもう大切にされている幼馴染なんですけど、けっこう仲がいいし行かない訳にはいかないじゃないですか。でもこのままじゃ『食堂事件』の二の舞でしょう?」
『食堂事件』、それは広瀬先輩の従姉妹さんに近づいた男が制裁された事件のことだ。鈴と見ていたけど、あれはなかなか修羅場だった。
「でも、俺に『恋人』がいたらその心配はないですよね?」
「え、うんまぁそうだね……?」
「その頃にはいい報告ができていると思います」
「それってつまりどういう」
「あ、高崎先輩!!」
翔太くんは鈴を見つけたのか、大きく手を振っている。その姿はご主人さまの帰りを待っていた従順な『ワンコ』の姿だった。その裏で鋭い牙を隠し持っていることを知っているのはきっと私しかいないだろう。
(……鈴ごめん、翔太くんは私じゃ手に負えない)
これから来るであろう未来のことに。どうすることもできない私は、心の中で鈴に合掌をした。
これにて「天然ワンコの育て方」は完結です。
読んでくださりありがとうございました。