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八月

 ついにある日床屋は、その罪を問われ捕らわれてしまいました。


 知らせを聞いた王様は全ての公務を投げ打って、即座に留置場へ向かいました。速める足の奏でるリズムが、胸の鼓動と重なります。

 脳裏に浮かぶのは、食えない笑顔の床屋の姿。紛れもない裏切りの事実と、それを否定する王様の心が、小さな王様の体の中で、ちかちか火花を散らしました。


 ばん!と大きな音を立て、王様は自ら、古びた扉を放ちました。

 ひやりと冷たい石壁に、全ての音を返す石の床。濁った雫が天井から垂れ、高い水音を響かせます。蝋燭の灯りがちらちら揺れる、薄暗い留置場。そこに、件の彼はいました。


「床屋……」


 掠れた声で彼を呼ぶと、床屋はゆっくり、おもてを上げました。床屋は両手首を拘束されたまま、這いつくばるような格好で、屈強な兵士達により、王様の前に引きずり出されました。王様はぎり、と奥歯を噛むと、乾いた声を絞りました。


「床屋。貴様、ついに秘密を口外したな」


 王様が夕闇色の瞳を燃やして、その耳を小刻みに震わすと、床屋は高い声を上げました。


「滅相もございません、王様!」

「黙れ! 証拠は揃っておる。貴様が叫んだ穴、その野原に生えた葦で笛を作ると、笛の音ではなく貴様の声がするとの事ではないか!」

「!」


 途端に顔色を変えた床屋に、王様の血の気もさあっと引いていきました。嫌疑が真実であったことは、これで明らかになりました。


 王様の長い耳の奥で、遠い昔のことのように、床屋の奏でる鋏の音が響きます。

 しなやかな指先、軽やかにくすぐられるさらさらの髪。

 ゆっくり流れたあの、穏やかなひととき。


 可笑しくなんかちっともないのに、何故だか笑いがこみ上げて、王様はふっと視線を落とすと、乾いた声で失笑しました。


「はは……やはり、そうか。やっぱり貴様が叫んだのだな」

「申し訳ありません王様! どうしても私一人の胸のうちに留めておけず……!」


 足元にすがる床屋から飛びすさると、王様は大仰な仕草でその腕を横へ払いました。


「ええい、言い訳はよせ! 大臣、証拠として葦笛を吹いてみろ!」

「御意」


 傍らに控えていた大臣が、一本の葦を取り出しました。そうしてそっと唇を寄せると、静かにその笛を吹き鳴らしました。




♪王様あいしてる~




「……」

「…………」


 ぴちょん!とひとつ水音が、暗い留置場に響きます。

 床屋はぐっと背を反らして顔を上げると、ぎりぎりと歯噛みする王様を、まっすぐその眼に捉えました。


「王様」

「なんだ」

「お耳がぴくぴく揺れてますよ?」

「ええい黙れへっぽこ床屋! やっぱり貴様は打ち首だッ!」

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