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十一月

 真紅の絨毯の上に、床屋が跪いておりました。その正面の玉座には、王様がどっしりと座っています。


 王様と床屋が初めて出会った謁見の間。広々と豪華なこの部屋も、今は却って寒々としたものに思えます。

 王様は錫杖で手のひらをぽんと打つと、低い声で告げました。


「では、床屋よ。お前はこの僕の専属を辞任したいと申すのだな?」

「畏れながら」


 床屋は顔を上げません。王様の傍らでは白いおひげの大臣が、はらはらとして王様を見つめています。しかし王様は落ち着き払って、錫杖を床屋に向けました。


「よかろう。そなたの願い、聞き届けた。しかし僕の条件も飲んでもらうぞ。最後にもう一度だけ、この髪を切るよう命ずる」

「……光栄に存じます」


 王様はすっと立ち上がると、威風堂々、謁見の間を後にしました。



◆◆◆



 もう何度、このテラスを訪れたことでしょう。

 床屋は目を細めると、もう二度と見ることの無いであろうこの風景を心に刻みました。

 古い石造りの丸いテラス。その向こうに広がる深い緑。そして――ココア色の愛らしい耳と、さらさら美しい細い髪。そのはしばみ色の髪に銀の櫛を入れながら、床屋は静かに尋ねました。


「本日はいかがいたしましょう、王様。いつもと同じように整えますか? それとも……」

「切ってくれ。思い切り短くだ」


 思いがけない答えに、床屋は目を丸くしました。櫛を握る手も思わずぴたりと止まります。


「しかし、それではお耳が出てしまいます」

「構わぬ。出来る限り短く頼む」


 床屋がうろたえておりますと、王様が鏡越し、床屋をまっすぐ見つめました。そうしてきっぱり、言いました。


「失恋したら、髪を切るものなんだろう? お前が僕のそばを離れるのなら、僕は髪を切るしかない」




 夢だ。床屋は思いました。


 そんなことがあっていいのでしょうか。これからもずっとずっと、この指で、この愛しい髪を梳くことができるだなんて。




 目を見開き立ち尽くしたままの床屋に焦れて、王様が真っ赤になって耳をぴぴん!と立てました。


「何か言ったらどうだ、床屋! お前はどうなんだ!」

「私は……王様、私は……!」





♪王様あいしてる~


「笛を吹くな、笛を」




◆◆◆




 本当は穴なんかじゃなく、世界中に叫びたいんだ。

 あなたが大好きだって。

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