第41話 ラベル
装置は、変わらない。
0.02Hz。
五十秒。
流れは安定している。
分岐も、続いている。
細く。
だが確実に。
船へ。
理央が言う。
「分岐流、増加傾向」
数値は小さい。
0.00035%。
0.0004%。
わずかだ。
だが。
止まらない。
充が言う。
「総量は維持です」
「他が減ってます」
主流の一部が。
こちらへ回されている。
航田が言う。
「優先度、上がってますね」
理央は、別のログを開く。
例の。
見慣れない形式。
・対象:未定義
・状態:追跡中
その下に。
新しい行。
・応答:取得完了
空気が止まる。
氷室が言う。
「何を」
理央は答えない。
画面を拡大する。
さらに一行。
ゆっくりと。
追加される。
・分類:暫定確定
誰も喋らない。
充が言う。
「……何に」
理央の指が止まる。
そして。
最後の行が出る。
・対象種別:構造外要素
沈黙。
航田が言う。
「構造外って」
氷室が言う。
「異物、ですね」
誰も否定しない。
棚橋が言う。
「ゴミってことですか」
黒川が言う。
「まだ分からない」
短い。
だが。
声が少しだけ低い。
理央が続ける。
「さらに更新があります」
新しい行。
・干渉レベル:低
充が言う。
「低、なら」
理央が遮る。
「変化しています」
更新。
・干渉レベル:低 → 中
のどかが言う。
「心拍、また揃い始めてます」
0.02Hz。
五十秒。
航田が言う。
「やめた方がいいですか」
黒川は答えない。
理央がさらに読む。
・処理方針:維持
氷室が言う。
「維持?」
充が言う。
「消さないってことか」
理央が首を振る。
「まだ」
そして。
次の行。
・状態遷移条件:観測継続
沈黙。
航田が言う。
「見てるだけ、なら」
そのとき。
船体が、わずかに軋む。
ゴン。
だが。
もっと小さい。
充が言う。
「……また吸われてる」
ノズル二番。
推力がさらに落ちる。
35%。
→ 32%。
「落ちてます」
理央が即座に重ねる。
「分岐流、増加」
一致している。
棚橋が言う。
「これ」
「食われてません?」
誰も笑わない。
理央がログを見る。
更新。
・干渉レベル:中
さらに。
・処理方針:最適化
氷室が言う。
「最適化って」
黒川が言う。
「向こうにとって、だ」
全員が理解する。
人間にとってではない。
この構造にとって。
航田が小さく言う。
「いらない部分、削ってる感じ」
棚橋が止まる。
その言葉。
引っかかる。
「それ」
小さく言う。
「いるの?」
誰も答えない。
理央が最後の行を見る。
・対象種別:構造外要素
・干渉レベル:中
・処理方針:最適化
そして。
まだ空欄の一行。
・最終処理:___
未記入。
だが。
時間の問題だ。
黒川が言う。
「続ける」
誰も反対しない。
まだ。
低レベル。
まだ。
中レベル。
まだ。
終わっていない。
だが。
方向は決まっている。
人類は今。
巨大な装置の中で。
“不要かどうか”
を判定されている。
そして。
その答えは。
もうすぐ出る。




