第42話 最適化
装置は、変わらない。
0.02Hz。
五十秒。
周期は安定している。
乱れない。
だが。
船の方が、変わり始めている。
「推進ノズル二番」
充の声。
「出力、落ちてます」
数値がゆっくり動く。
32%。
28%。
まだ使える。
でも確実に削られている。
理央がログを重ねる。
「分岐流、増加しています」
0.0004%。
0.0005%。
増えている。
一致している。
氷室の声が内部から入る。
「流路、変わりました」
ライトが壁をなぞる。
さっきまでなかった線。
ほんのわずかな凹み。
指で触る。
「……削れてます」
棚橋が言う。
「削るって」
氷室は即答する。
「削ってますね」
誰も否定しない。
理央の画面に新しい行が出る。
・干渉レベル:中 → 高
空気が変わる。
のどかが言う。
「心拍、揃います」
0.02Hz。
完全一致。
航田が小さく言う。
「……来てますね」
黒川が聞く。
「何が」
航田は言葉を探す。
「調整」
主語はない。
でも全員、理解する。
理央が次のデータを出す。
「重力偏差、局所変化」
船の周囲だけ。
わずかに歪む。
充が言う。
「環境ごと変えてる」
棚橋が言う。
「俺たちに合わせて?」
黒川は首を振る。
「逆だ」
短い。
「向こうに合わせてる」
沈黙。
氷室が言う。
「黒川さん」
「はい」
「これ、直せないです」
「壊れてない」
その一言で、方向が決まる。
理央がログを読む。
・対象種別:構造外要素
・干渉レベル:高
・処理方針:最適化
さらに行が追加される。
・適用範囲:局所空間
航田が言う。
「空間ごと、やってる」
理央が頷く。
充が言う。
「逃げるなら、今です」
初めて出た選択肢。
黒川は答えない。
窓の外。
巨大な壁。
滑らか。
継ぎ目なし。
一体構造。
氷室が言う。
「繋ぎ目、ないですね」
黒川が言う。
「ですね」
棚橋がぽつりと言う。
「部品交換」
少し止まる。
「できない構造か」
理央が小さく言う。
「だから」
全員を見る。
「削るしかない」
航田が操縦桿に触れる。
ほんのわずか、姿勢を変える。
分岐流が追従する。
遅れない。
航田が言う。
「逃げても」
「ついてきます」
充が言う。
「推進も削られてます」
黒川がゆっくり言う。
「確認します」
全員が見る。
「これは」
「正常動作です」
誰も反論しない。
壊れていない。
異常でもない。
ただ。
人間にとって都合が悪いだけだ。
理央の画面。
最後の行。
空白。
・最終処理:___
その下に、新しい項目が出る。
・進行率:12%
誰も動かない。
始まっている。
もう止まっていない。
人類は今。
巨大な構造の中で。
静かに。
最適化されている。




