24話 To be with you
晴子
エンジンの鼓動が心地よく体に伝わる。
9月末の山梨の爽やかな風を受けながら、私はバイクを走らせていた。
後ろには彩ちゃんが走っている。
2年前のあの時と同じバイクで同じ道。
あれから私は車の免許も取って、車でキャンプに行く事が増えたけど、今回は彩ちゃんの希望で2人でバイクで行くことになった。
あの地震からもう2年。
幸い人的被害は小さかったけど、経済損失は甚大だった。
学生である私にとっても、社会の変化は肌で感じた。
そして今日はあの地震でお世話になった人達とみんなでBBQをする日だ。
私や彩ちゃんの家族も全員参加で、各々先に車で到着しているはずだ。
キャンプ場に到着すると父と弟、それにミキさん、タカシさんが車からBBQの荷物を運んでいた。
挨拶もそこそこに私達も運搬を手伝う。
あの炊き出しの時来ていた自称インフルエンサーの女性の動画が数ヶ月後に突然バズり、そこから紆余曲折あってミキさんはインフルエンサーになった。
アウトドアやバイク系YouTuber、インスタグラマーとして10数万人の登録者がいる今ではアウトドア系では有名人だ。
タカシさんがマネージメント的な事や動画編集をしている。
実は私も何本か動画に出ている。
恥ずかしいので顔は隠して貰っているが、私のカブは目立つのでバレバレで、以前より声を掛けられることが増えた。
タープの設営をしているミキさんの横顔を見ながら感心する。
この2年間で凄く綺麗になった。2年前もサッカーをやっていた時も素敵な女性だったけど 。
肩口程までだった髪は背中までサラッサラだ。当時の彩ちゃんと同じくらいの長さになっている。肌もスベスベだ。
とても小学生の息子がいるお母さんには見えない。ジロジロ見ていたら
「晴ちゃん、私に恋しちゃった?ちょくちょく連絡はしてるけど、会うのは久しぶりだねぇ。」
「そうですねぇ。会うのは半年位ですかね。ふもとっぱれ以来かなぁ。」
「あの時言ってた男の子とは結局どうなったの?上手くいった?」
両親のいる場所で言わないで欲しいものである。
「どうにもなってないですよ。」
苦笑いで返答する。
私は今、大学の看護学科の3年生。彼氏はいない。
看護実習と課題、それにアルバイトを並行しながらこなすので中々多忙な日々だ。
それでも合間を見てはキャンプに出かけている。
苦手だったタープの設営も1人で出来るようになったし、料理のレパートリーも増えた。
逆にキャンプで手抜きのカップラーメンが増えたのは気のせいだ。
凪とアキラと少し話をしてたらあっという間に設営が進んでいる。
キャンプ慣れしている人しか居ないので、尋常ではない速度だ。
今回はチエミさん夫妻が肉を持ってきてくれるらしいのだが、
まだ到着していない。
なのにせっかちな父がもう炭にバーナーで火を付けている。
母がクーラーボックスの中を物色しているので、先に何か焼くつもりだろう。
弟と椅子やテーブルを並べていると、大型のバイク2台が地鳴りのような重低音を響かせて入ってきた。後ろにはクーラーボックスが縛り付けてある。
チエミさん夫妻の登場だ。
チエミさんはヘルメットを取るなり嬉しそうに
「晴ちゃん!久しぶりね。彩ちゃんは?アラ!ミキちゃんも!髪伸びたわねぇ。ちょっと遅れちゃったかしら。あら!やっぱり。遅れちゃってごめんね。ウチの旦那準備遅くてもー嫌になっちゃう。」
いつものガラガラ声で一息で喋る。
懐かしさが込み上げてくる。
旦那さんはバイクの後部座席からクーラーボックスを下ろしながらぶっきらぼうに聞いてくる。
「久しぶりだな。学校はどうだ?もう一人は?」
「まぁ、ぼちぼちですよ。
彩ちゃんは今車にいますよ」
親戚のおじさんみたいだなと思っていると
「またそんな愛想ない言い方して!この人今日のBBQ楽しみにしてたのよ。カレンダーに〇なんて付けちゃって。ソワソワしちゃってさ。」
「うっさいわ。余計な事言うな!」
「土曜日だよな?って何回も確認したりして」
「まーまーチエミさん。私も楽しみにしてましたから。ね」
また夫婦喧嘩が始まりそうだったので間に入る。
「あっ叔母さん」
彩ちゃんのお母さんが視界に入ったので呼び止める。
「こちらチエミさん夫妻です。炊き出しの動画に出てたから知ってるかもだけど。」
「あら、ご挨拶が遅れました。彩が大変お世話になったようで。本当にありがとうございます。あっお兄ちゃーん!」
今度は叔母さんが私の父を呼ぶ。
父も気が付いて、トング片手に駆け寄ってくる。
「チエミさんですね。その節はウチの娘がお世話になりました。本当に良くして頂いたそうで。本当に感謝しています。」
父が深く頭を下げる。
「良いのよォ。ホントに楽しかったし。なんか色々取り上げてもらってお客さんも増えたのよ。カレー弁当が凄い売れるようになっちゃって。いつでも来て欲しい位だわ」
「もう少しでホタテとか食べれるんで、あちらでお願いします」
と、珍しく父が丁寧だ。
「晴、そろそろ彩ちゃん呼んできてー」
はーいと返事をして車に向かう途中、真っ黒いハイエースが私の横に止まった。
助手席から太った男が降りてくる
「おっ!久しぶりッす。皆さん揃ってそうですね、」
「リュウ君久しぶりー」
「晴子さん久しぶりですー」
とマサ君も降りてきた。
2人とはあれからタカシさんを通じて何度も謝罪の連絡があった。車の凹みについては不問になった。
それどころか、マサ君が正直に状況を伝えたようで、社長から大分お叱りを受けたらしい。
その後、バズった動画に彼らが置いていった社名入りダンボールが多数映っていて、会社としては良い宣伝になったそうだ。
謝罪の後は感謝の連絡やギフト等を送ってくれた。
2人は見た目はやんちゃだが、話せば話すほど普通の青年だった。リュウ君はDJをマサ君は格闘技をやっていて2人とも見た目はかなり強がったファッションをしているそうだ。
彼ら2人は仕事で定期的に関東には来るらしく、数回4人であって食事をした。
マサ君は彩ちゃんに気があるようだが、あまり相手にはされていない。
2人に皆がいる方に行ってもらい、私は彩ちゃんを迎えに行く。
彩ちゃんの乗っている車にノックして声をかける。
「彩ちゃーん。そろそろ行ける?」
「うん。ちょっと待ってねすぐ出るから」
車内では彩ちやんが授乳していたようだ。
服を直しながら大分大きくなった美春ちゃんを立たせている。
最近歩くのが上手になった美春ちゃんは小さな新しいスニーカーを履いてご機嫌そうだ。
彩ちゃんに似て整った顔立ちをしている。正に天使だ。
2年前バイクで帰宅してすぐ彩ちゃんは母親に報告と相談をしたらしい。
当然彼氏とは別れた事も報告した。
「産みたいんでしょ?」
「うん」
「最高じゃない。そんな若くに出産出来るなんて。私も専業主婦だしね。あれ?私おばあちゃんになるのね!」
叔母さんは高齢出産だったのでとても大変だったらしい。
「大学は休学出来るでしょ。
それからでも看護師にはなれるわよ。お金?私の旦那稼いでるし。なんとかなるわよ。なんとかするしかないじゃない。」
ミキさんみたいな事を言う。
「若い旦那なんていてもどーせ子育てや家事になんて使えないわよ。平気平気。」
と、あっさりの承認だったそうだ。さすがウチの父の妹だ。
元彼に連絡したのかどうかは聞いていない。
まぁ、彩ちゃんの弟のアキラとの年齢差も5歳だ。
兄妹のように育てられるのだろう。
出産の時の立ち会いに私を指名された時は本当に驚いたが、少しでも力に慣れればと、立ち会った。
まぁ、当然全くもって役たたずだったとは思うけど。
そんなこんなで彩ちゃんは無事に女の子を出産し、美春ちゃんと名付けた。
私は時間を見ては、美春ちゃんに会いに行っている。
美春ちゃんも懐いてくれているのでとても可愛い。
彩ちゃんは出産してすぐに髪を短く切った。
初めて髪を短くした彩ちゃんを見たがこれはこれでやはり美人だ。ホント羨ましい。
美春ちゃんと彩ちゃんが手を繋いでみんなの所に歩いていく。そんな後ろ姿をみて、彩ちゃんは本当にいっつも私の前を進んでいくなぁと感心する。
ホント素敵すぎるお姉様だ。
皆の所へ3人で戻ると父が
「ほら晴みんなに挨拶して」
と、急に無茶振りをしてきた。
「えーなんで私?」
と、拒否すると。
珍しく真面目に父が
「オマエが繋いだ人達だろ。
オマエがちゃんと感謝を伝えなきゃ」
と似合わないセリフを言う。
少し胸にじんと響く。
「俺はキャンプ王になるっ!」
とボケようと思ったが、やめておく。
深呼吸して大きな声で言った。
「みなさん今日は、こんなにも素敵な日に集まってくれてありがとうございます。
2年前、私たちはほんの偶然で出会いました。
でもその偶然が、今日みたいな“必然”に変わったことが、本当に嬉しいです。
私たちが本当に困った時、怖かった時、支えてくれたのは、ここにいる皆さんでした。
だから今、こうしてまた一緒に笑えることが…すごく、幸せです。
今日は、いっぱい食べて、いっぱい笑って、思いっきり楽しんでください!」
拍手と「おお〜」という声が混ざった。
少し照れながら笑うと、ミキさんが言った。
「やだ…泣いちゃうじゃん、横隔膜が震える〜」
「それはしゃっくりだから」
タカシさんのツッコミに、みんなの笑いが秋の空にふわっと広がった。
「そーいえば彩ちゃん、美春て名前すっごい可愛いけど、なんか深い意味あるの?」
と、チエミさんが聞く。
当の本人美春ちゃんは私の弟にほっぺをぷにぷにされている。
天使か!
「とにかく明るいイメージにしたくて。…まぁミキさんと晴ちゃんの影響ですよ。」
「やっぱり?そうだったらいいなと思ってたんだ」
とチエミさんがしたり顔をしている
「いや、彩ちゃん。ミキは名前じゃないぞ?」
と父が突然言い出した。
私も彩ちゃんもチエミさんも頭の上にはてなマークがある状態だ。
ミキさんが申し訳なさそうに説明する。
「苗字がミツキ。さんのつきで三月。名前はさちこです。ミキはアダ名的な…あ、ちなみにタカシも名前じゃなくて苗字ね。高橋宗介。」
タカシさんはどーでもいいが私は父を睨みつける。
「お父さん…お父さんがずっとミキ、ミキと…若い女性を呼び捨てにしてるから」
「いや、ちょっと待て、ミキって言い出したのはオマエだぞ、晴。俺じゃない。オマエがミキちゃんミキちゃんてミツキを発音出来なくて」
言われてみれば、昔舌足らずだった私がミツキをあまり上手く発音出来ず、ミキちゃんミキちゃんと呼んでいたような…
「あれ?私のせい?」
彩ちゃんと目を合わせると2人で吹き出した。
山梨の秋風が、笑い声を優しく包みこんでいた。
こんにちは。
最後まで読んで頂き誠にありがとうございます。
今作は私が初めて書いた小説で、とても思い入れの深い作品です。
至らない点は多いと思いますが、感想を頂けたら泣くほど嬉しいです。
また他の作品も執筆していますので、投稿したら読んで頂けたなら幸いです。
今後ともよろしくお願いします。




