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魔法・属性・エレメント

 俺とティアラは、肩で息するように集合場所へ雪崩れ込んだ。


「少し遅刻ですよ。まあ、迷子にはなってないようでよかったです」


 教員が『やれやれ』といった様子で俺たちを生徒たちの群れへ招き入れる。


「ごっ、ごめんなさいっ…………はぁ、はぁ…………景色を見ていると…………惹きつけられて、しまって…………」


 ティアラが荒い呼吸の合間を縫うように言った。

 すると、教員はどこか得心のいったような表情を浮かべる。


「うんうん。ここは『聖属性エレメント』の源泉だからね。リラックス効果や魅了されるといった事象は、至極当然の反応と言えるよ」

「『聖属性エレメント』?」

「今回の課外授業の主旨でもあるから、順を追って説明させてもらうとするよ」


 聞き慣れない言葉に首を傾げると、教員は片手をかざして制した。


「――あれ? 先生、トレイシーさんは?」


 ふと、ティアラが周囲を見回して訊ねた。

 たしかに、姿が見当たらない。


「ああ。今朝、急用で今日は欠席と連絡があったよ」


 なんだか珍しい気がした。

 クラスメートになってまだ日が浅いのに、知った風な物言いをするのもアレだけど。

 あまり欠席をしないタイプらしいという印象はあった。


「さて、それでは今回の授業について説明するよ」


 俺たちの到着で参加生徒が全員集まり、教員が声を張る。


「まず、君たちにはそれぞれ『魔力属性』があるよね。魔力属性とは、人間が生まれながらに持つ魔法の素養――いわば色みたいなものだ。生き物が自らの内側に宿すもので、これが外界に漂う自然の原子――【エレメント】と相互に干渉し合うことで『魔法』が発動する。

 魔力属性と同じく、エレメントにも属性が存在する。『炎』・『氷』・『雷』を基本とし、さらに複合属性の『(炎+氷)』・『(炎+雷)』・『(氷+雷)』だね。君たちが持つ【魔力】、外界に漂う【エレメント】、それらが合わさって発動する【魔法】――これらに『属性』があるわけだ。

 ここからが本題……このバナヘムの森には、『聖属性』のエレメントが満ちている」


 さっきも言っていた、聖属性エレメント。

 エレメントの1種らしいが、他の属性が自然物を冠しているのに対して、その名はより抽象的だ。

 他のエレメントと何か違うのか?


「聖属性とは、基本3属性――『炎』・『氷』・『雷』全ての属性を兼ね備えた属性だ。この森には3大属性のエレメントが限りなく均一の割合で充満し、そのために生成された聖属性エレメントが全域に拡散している。

 エレメントが豊富な場所では、魔法の調子が普段より良くなることは習ったよね。だから、魔力を持つ人間がここへ来ると、森に()()()やすくなるんだ。

 ここへ来る途中、スペルモスがいたろう? 大気中のエレメントを栄養源とするスペルモスが至るところにいるのは、これが理由なんだ」


 なるほど。森での道中、俺とティアラが感じた言い知れない高揚感の訳は、そういうことだったのか。

 それに、スペルモスがエレメントを栄養源としているなんて話も初耳だ。

 もしかすると、だから魔力属性の検査にスペルモスが使われるのかもしれないな。


「今日のフィールドワークでは、みんなこの森で自身の魔力の活性化を実感しつつ、魔法への理解を深めてもらいたい。

 具体的には、各自バナヘムの森の中で自由行動とし、エレメントを感じ、魔法を使ってみてほしい。

 魔力とエレメントがいかに密接に相互干渉し、そしてそれが魔法の発動にもたらす影響を肌で感じてほしいんだ」


 なかなか面白そうな授業だ。

 ティアラも、興奮を隠し切れていない様子で、頬が緩み目が輝いていた。

 俺も、ロベルトとの戦いもあったし、自分が持つ力についてもっと知りたいと思っていたところだったんだ。

 

「注意事項は3つ。まず、森を破壊するような魔法は使わないこと。当然、いくら魔法の理解を深める授業だからといって、無闇に自然を傷つけることはしないように。

 次に、自由行動とは言ったけど、原則として単独行動だ。魔法の理解は、すなわち自身の内から放たれる魔力の理解と同義だから、1人で自らと向き合える落ち着いた環境が必要なんだ。そのため、友達などと固まらず、進んで人気のない方へ行くこと。

 そして最後に、16時になったらここへ再集合するように。日没までには街へ戻るから、日暮れが近づいてきたら終業という意識を持つように」


 教員が『以上!』と言うと、生徒たちは疎らになり、方々へ散っていった。

 中には、説明を聞いてもなおズルズルと()()()するグループも見られた。

 ティアラもワクワクを抑えられないみたいだが、すぐにはその場を離れなかった。


「ティアラ。ちょっとだけいいか? 1つ聞きたいことがあるんだ」

「えっ? はい。なんですか、ケイスケさん?」


 俺が呼び止めると、ティアラは快く応じてくれた。

 長居することが目的ではないし、教師も許してくれるだろう。


「俺の魔力属性って『無属性』なんだよな。無属性魔法(ブラスト)も使える。じゃあ、つまり()()()()()()()()もあるのか?」


 無属性魔法は誰でも使える初歩的な魔法だ、とティアラは言っていた――ヘル・クリーザーとの戦いで、初めてブラストを発動した時だ。

 けれど一方で、俺の魔力属性は『無属性』で、それはあまりに希少すぎてヴァルス王国の歴史に名を刻まれるらしい。

 ありふれているのかそうでないのか、率直な疑問だったんだ。


「ケイスケさん。『無属性』は、魔法という概念の中でも特殊なんです。聖属性も特殊ですけれど、それ以上に無属性は例外と言えるくらい特殊すぎます。

 まず、無属性のエレメントはありません。大気中の微小な物質が、魔法的な性質を持つことで『属性』が付与されるので。

 …………以前、無属性魔法と、魔力属性が無属性というお話をしましたよね」


 ティアラが俺の疑問の核心を突く。


「『無属性魔法』とは、発動者の魔力とエレメントが干渉しないまま発動する魔法なんです。たとえば炎の魔法は、炎属性の魔力を持つ発動者が、その魔力を外界の炎属性エレメントと相互干渉させることで発動します。

 魔法の初心者がコツを掴めてない時期や、熟練者でも疲れたくない時は、魔力とエレメントを干渉させないで魔法を発動することがままあります。この時、魔力は属性エレメントの干渉を受けず、魔力そのままの姿形で放たれます。この、エレメントの干渉を受けていない魔力――属性を帯びていない魔法を『無属性魔法』と言うんです。

 でも、人間は本来、遺伝や素養に応じて魔力に属性を持つものです。『炎』、『氷』、『雷』、そしてそれらの複合属性を。ケイスケさんの魔力には、それがない。だから、無属性魔法は誰でも使えますけど、()()()()()()というのは、本当に珍しいことなんです……」


 そういうことか。合点がいった。

 無属性魔法は『誰でも作れる料理』で、魔力が無属性っていうのは『得意料理がない』ことを指すわけだ。

 …………イメージの話だから、俺が納得できてればいいんだ。


「そろそろ行きましょう、ケイスケさん。先生が残ってる人たちに声をかけ始めてますから、じきに叱られちゃいます。またあとで!」

「ああ」


 俺はティアラと別れ、独り森の奥へ踏み入った。

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