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浴場

 涼子ちゃん、ティアラ、舞依、そして俺――4人で帰路を歩く。

 ヴァルス王宮が見えてきた。

 旅行から帰って来た自宅のような、どこか懐かしい気持ちが胸に湧き上がる。


「リョーコさんの身のこなし、本当に凄かったです!」

「うんっ! バチバチってなったやつ、かっこよかった!」

「ふ、2人とも、そんなもてはやさないで…………」


 盛り上がるティアラと舞依に、涼子ちゃんはたじたじだった。

 ダイアデム学園を離れてからも、しばらくはお礼を言ったり謝ったりしてばかりだったティアラと舞依だったが、いつの間にか元気を取り戻して和気あいあいとしている。

 やっぱり、2人には笑顔が一番似合う。俺は少女たちを眺めながら、そう思った。


「そうだ! 今日はみなさん、ぜひ王宮の大浴場で疲れを癒やしていかれてはどうですか?」


 ティアラが名案を思いついたと言わんばかりに、煌めく笑みを浮かべた。


「だっ、だだだ大()()!? そ、それはどういう……まさか…………私たちで、4――」


 涼子ちゃんが、急に顔を真っ赤にして慌て始めた。


「えーっ、いいの!? やったー! お風呂お風呂〜♪」


 舞依が喜ぶのを見て、涼子ちゃんは『あ、そっち……』と胸を撫でおろした。

 どうやら何か勘違いをしていたようだ。


「いいのか、ティアラ? ありがたいけど、そんなに気遣うことはないんだぞ?」


 今回の件でまだ負い目を感じているのではと思い、俺はティアラの傍に寄って囁いた。


「たしかに、みなさんにご迷惑をおかけしてしまって、申し訳ない気持ちはあります。けど、これはささやかなお礼と、それからみなさん汗を落としたいでしょうから。

 何より……ただ単純に私、お友達とお風呂に入りたいんです!」


 ティアラは、あえて舞依や涼子ちゃんにも聞こえるように言う。


「そうそう! 友達が困ってて、出来ることがあったら助ける。疲れたら、一緒にお風呂に入る。お兄ちゃん、マイたちは普通のことを、普通にやってるんだよ!」


 舞依が俺に言う。そうだ――今回のことで、決してわだかまりや隔たりは生じない。舞依はそんなことを気にする子じゃないし、ティアラが気にする必要性もないんだ。

 涼子ちゃんの柔らかい表情が見えて、彼女も舞依と同じ気持ちであることが分かった。どうやら、俺はいらない心配をしていたらしい。

 友達――か。便利で、使い勝手がよくて……良い言葉だ。


「ティアラさん。じゃあ、お言葉に甘えて」

「はいっ! ぜひいらしてください!」


 そういうわけで話はまとまり、俺たちはティアラの王宮の大浴場でひとっ風呂浴びることになった。

 着替えだけ取りに戻って、赤いカーペットの敷かれた長い廊下と階段を渡り、大浴場へ向かう。

 ティアラに案内されて着いた先で、ちょうど俺たちの世界のように、男女に分かれると思しき入り口に差しかかった。


「ケイスケさん、1度ここでお別れです。この世界では、男女は入浴前に別々の部屋へ入る慣習がありますから…………」

「大丈夫。俺たちの世界もそうだから」


 その辺がズレてたら割りととんでもないな。


「じゃあ、お兄ちゃんあとでね」

「ごめんなさい、お兄さん……しばらく一人にしてしまって…………」

「気にしないで、楽しんでおいで」


 俺は縦長の暖簾(のれん)を潜って脱衣所へ向かった。一瞬ヒヤッとしたが、どうやらカーテン系のものでは異世界へは繋がらないようだ。

 ドラマで見るような、部活のロッカールームみたいな部屋で適当に棚を選び、服を脱いで中にあったタオルを腰に巻いて、浴場への扉の前に立つ。

 しまった――どうしようか考えていると、向こうからドアが押し開かれ、俺は半歩退いた。


 そこには、ティアラがいた。


「ごめんなさいっ、ケイスケさん。私、うっかりしていて……さあ、早くお風呂に入りましょう!」


 白いタオルを上半身に巻いているが、隆起した胸が存在を主張しているようだ。

 そういえば、ティアラの体を見るのは、これが初めてじゃなかったな――あの時は全裸だったが。

 いや、そうじゃなくて。


「なんでいるの?」


 素朴な疑問だった。


「なぜって……お風呂だからですけど?」

「いやいや、お風呂だからだよ。男女で別れて入るでしょ。現に、さっき別れたし」

「それは服を脱ぐからでしょう? お風呂に入ること自体は男女一緒です。ケイスケさんたちの世界は、混浴が普通ではないのですか?」


 そんな馬鹿な。

 なんて常識から逸脱した習慣だ。どうして混浴が普通だなんて知的文明が存在し得る?

 混乱していると、彼女の後ろから、更に2人の人影が顔を覗かせる。舞依と涼子ちゃんだ。


「お兄ちゃん、見て見て! す〜っっっごい広いお風呂!」

「……………………」


 舞依が両腕を広げて、風に吹かれる花びらのようにクルクル回る。

 踊るような舞依の隣で、涼子ちゃんが伏し目がちに俺を見つめていた。目が合うと、涼子ちゃんは視線を右往左往させた。

 2人も秘部をタオルで覆っていたが、年相応と言うべきか、体つきはティアラと比べると控えめだ。


「…………お兄さん、その……あまり、見ないで……ください……」


 特に涼子ちゃんは、我が妹ながら小さい方と言わざるを得ない舞依よりも、その起伏は滑らかだった。

 舞依やティアラはまだしも、涼子ちゃんの裸を見るのは初めてなので、俺だって見まいと顔を逸らせたのだが。

 自覚はないだけで、もしかしたら眼球が自律的に稼働して、知らない内に涼子ちゃんのあられもない姿を凝視していたのかもしれない。


「まずは体を洗いましょう! その次にみなさんでお風呂へ入って、最後に……もう1回体を洗いましょう!!」


 すごく威勢よく、普通のことを言うティアラ。本人は抑えているのだろうが、めちゃくちゃテンション上がってるのが分かった。

 舞依と涼子ちゃんは、てとてとティアラに着いていき、シャワーを浴び始めた。俺も、3人の姿が見えない位置で体を流す。

 1日の疲れを洗い流し、俺たちは再び集結した。よく銭湯なんかで秘部を隠さない人がいるが、俺はタオルを巻くタイプで心から良かったと思った。


「では、ヴァルス王国随一の名湯と名高い『王宮大浴場』をご案内します! この浴場は、全部で6つの温泉から成ります」


 多いな。

 ――もうどうとでもなれ。

 諦めの早い辺り、俺は異世界に慣れ始めているらしかった。

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― 新着の感想 ―
[一言] うん。。。文字少ないですね。
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