チームマッチ前夜
40話部分に欠落していた話を挿入させていただいた関係で、直近2話の話数がズレております。
申し訳ございませんでした。
その日の夜――俺は舞依に事の始終を説明した。
「チームマッチを申し込まれた?」
舞依が俺の話した要点を繰り返す。
「ああ。3対3で1組ずつ戦うチーム戦らしい。武器や魔法で戦って、2勝した方の勝ち」
「あのキザ野郎、なに考えてんのよ! ……でも意外、お兄ちゃんがこういう勝負受けるなんて」
「1度宣言されたチームマッチは取り消せないらしいんだ。それに、向こうは俺たちが勝ったら何でも言うことを聞くって条件だ。ティアラに謝らせて、クラスの連中への嫌がらせもやめさせる」
「え、めっちゃいいねそれ! ……あれ、万が一あっちが勝ったらどうなるの?」
「…………ティアラがロバルトと婚約する」
「ええ!? ちょ、いいのお兄ちゃん!?」
「大丈夫、必ず勝つ。それに、ティアラもこの戦いを受けることを望んでた」
「…………お兄ちゃん、ムキになってる?」
「なってないよ。ただ、メリットのある喧嘩は買うしかないだろ」
ティアラへの理不尽な物言いを黙って見過ごすわけにはいかない。俺は、珍しく怒ってる。
「巻き込んでごめん。でも、舞依やティアラに怪我はさせない」
「そんなこと言っても……マイもティアラさんも、まだ戦い方とかよく分かってないよ?」
「ルールを確認したら、別に全試合で違う人が戦わなければならないって決まりはない。つまり、3回とも俺が出られる。2人に危険が及ぶことはないよ」
「なにそれ、『チームマッチ』なのに?」
「昔は1人が複数回出ることは禁止だったらしいんだけど、今はいいらしい」
俺も、ここに関してはよく分からない。まあ、今の俺にとって好都合なのは間違いないが。
「ただ、参加者の申請は3人それぞれ別名義で必要で、必ずその3人は会場にいないといけないんだ。舞依の名前を入れちゃったから、明日1日お願いできるか?」
「もっちろん! 他でもないお兄ちゃんの頼みだもん! マイはお兄ちゃんの言うことなら、なんでも聞いてあげちゃうんだから!」
なんでも聞くのはちょっとやめてほしいが、今回は素直にありがたかった。
――――――――――――――――――――
異世界、某所――。
「明日は僕が勝つ」
ロバルトが言った。向かい合うは、取り巻きガールズ3トリオ――ニコール、ジェシカ、ジーナだ。
「チームマッチは3対3。僕の勝利と約束された希望の未来を掴み取るために、序列ベスト3の君たちにも協力してほしい」
ニコールは得意そうな笑みを、ジェシカは誘うような眼差しを、そしてジーナは不安そうな表情を、それぞれロバルトへ向けていた。
「当然よ。ロバルトの歩む道に、望んだ通りにいかないことなんてないもの。そうでしょ?」
ニコールがロバルトに肩を擦り寄せた。ロバルトは満足そうに、彼女の頭を撫でる。
「早く見たいなぁ……ロバルトきゅんがカッコよく戦う姿」
ジェシカはロバルトの空いている腕に絡みついて、顔を近づけ熱い眼差しを直視させた。
「あんな生意気な下民にロバルト様が負けるはずないですもんね! ……けど、どうか怪我しないように、手加減し過ぎないでくださいね? ロバルト様が傷ついたら、私も悲しくなってしまうんですから…………」
ジーナは眉を垂らして、うるうるとロバルトの胸に体を預けた。
「当たり前だよ。僕が勝つのは確定さ。完膚なきまでに叩きのめして、圧倒的な力の差を見せつけて絶望させてあげるんだ。
彼はティアラの厚意で王族の護衛にまで成り上がってしまったため、いささか身の程というものを見失っているようだからね。ここで徹底的に無慈悲な現実を教えてあげるのが、せめてもの優しさだよ」
言葉と裏腹に、ロバルトの表情には優しさの類いがまるでない。
「だけど、こう……力の差を分からせるだけじゃ足りない気がするんだ。もっとこう…………武器や魔法の素質だけでなく、どう足掻いても僕には全ての要素で敵わないという無力感を刻みつけたいな。
なにか策はないかな?」
ロバルトは邪悪な問いを3人へ投げかける。
「――そういえば、ロバルトに生意気な口を利いてた女がいたじゃない?」
「……あの小さい子かい?」
ニコールが切り出すと、ロバルトは思い出すように応える。
「そう。あいつ、あの男の妹らしいわ…………使えるんじゃない?」
ロバルトは少し思案し、やがて闇の滲み出すような笑みを浮かべる。
「使えるねぇ――思いついたよ。この僕が確実に勝利し、なおかつ彼に生涯消えない傷痕を残す作戦を……」
ロバルトは、他の3人にその全貌を語った――。
「それよ、ロバルト! 完璧な計画だわ!」
「この短時間でそんな天才的な戦略を立てるなんて……かっこよ過ぎ、ロバルトきゅんっ!」
「ロバルト様の聡明な頭脳があれば、全ての要素を効果的に活用して完全勝利できるんですね……素晴らしいです!」
絶賛の声があがり、ロバルトはますます得意になる。
「ふふん、決まりだ。やれやれ、本当はこの程度で僕があれこれするまでもないけれど、仕方がないから1%くらいは実力を出してあげようじゃないか。才能の差があり過ぎるとはいえ、あまり手を抜いても失礼だからね」
ロバルトは立ち上がった。
「さて、ジーナ」
「はっ、ひゃいっ!」
唐突に呼ばれ、ジーナは急速に頬を赤らめながら背筋をピンと伸ばした。
「僕とニコール、それからジェシカはチームマッチに参戦するから、君にはさっき話した計画の実行を担ってもらいたい」
「わっ、私が……」
ジーナの表情が、一気に硬直した。
「当然でしょう。あなたは確かに他の女よりちょっとだけ優れている部分もあるかもしれないけど、あくまで序列は3位。1位や2位とは隔絶たる差があることは明白だもの」
ニコールの言葉には、明らかに侮蔑と冷笑が混じっていた。
「そっ、それでも私は、ティアラ姫やあの男に引けを取らない自信があります! 座学も実践も、他の誰より努力して首席候補にまで――」
「ウケる〜、別に頑張った自慢してなんて頼んでないんですけど。特級貴族は生まれながらの勝ち組、敗北はありえないの。だからどんな害虫にも、その時の最高戦力で臨むのがロバルトきゅんの流儀。今回は3人、あんたが入る枠はないの」
ジェシカにまで罵倒され、ジーナは目頭が熱くなるのを感じたが、グッと堪えた。Sクラスに進級してから、涙が出そうな時は何度もあった。
けれど、その全てを耐えてこれたのは――ジーナは、すがるような目でロバルトを見た。
すると、ロバルトはジーナの背中と頭を抱き締め、額を重ねて彼女を真っ直ぐ見つめた。
「ありがとう、ジーナ。僕の役に立ってくれようとしているんだね」
「ロバルト、様ぁ……」
2人だけにしか聞こえないような声で耳元に囁かれ、ジーナは歓びのあまり足をガクガク震わせた。
「平民にも関わらず、僕の傍にいるのに相応しい実力を持つ君を、僕はとても信頼しているんだ。今回の作戦の根幹を君に託すのはその証明であると、本当は君も分かってるんだろう?
やってくれるね? ジーナ」
「は……はぃ…………」
シャーッと、水の流れる音がした。どうやら隣のシャワールームを誰かが使っているようだ。
「――じゃあ、明日は頼んだよ。僕の愛する人たちよ」
ロバルトが去るのを3人が追い、密談は終わった。




