魔法属性 (主人公能力説明・後編)
7種類――【闘争を招くもの】との戦いを通して、なんとなく刀との相性が良いのは分かっていたが……そんなに相性の良い武器があくさんあるのか。
しかも、エリートと呼ばれるSクラスのロバルトすら4種類ということは、7種類って相当多いんじゃないか。
自分でも驚いているが、一番驚いて――というより、許せなさそうなのは、ロバルトだった。
「ウソだ……こんなのはありえない! シャーロックの不具合だっ! なにかの間違いに決まってる!」
ロバルトは誰ともなく訴えかけるように叫ぶ。
「往生際が悪いよ!」
声を張り上げたのは、舞依だった。
「お手本を見せるとか言い出したのはあんたとあんたの友達だし、そのでっかい岩を出したのも自分でしょ!? なにも間違いなんてない! お兄ちゃんはハンデを背負ってあんたと同じ土俵に立って、あんたよりすごい結果を残しただけだよ!」
舞依は、あまり人と衝突したがらないタイプだが、今まで黙って耐えていた感情が爆発しているようだ。
ティアラも舞依も、俺のためにここまで言ってくれる。俺は1人じゃない。その実感が、胸の辺りを熱くした。
ロバルトは悔しげに歯を食いしばって、地面に拳を叩きつけた。すると、そこからスゥ……と、無色透明の蝶々のようなものが現れた。
「なら、魔法属性はどうだ!」
ロバルトは出現した蝶々を誘うかのように、掌を開いた。
「この『スペルモス』は、触れた者の持つ魔力の属性に応じて反応を示す。属性とは、すなわち『炎』・『氷』・『雷』の3大属性。炎なら燃え、氷なら凍り、雷なら光る。通常であれば1人につき魔法属性は1つだが――」
ロバルトがニヤリと笑った。蝶々――スペルモスを乗せた掌から、なにか目に見えない圧みたいなものを感じる。
空気が震え、スペルモスが羽をはためかせる。スペルモスはじたはたしていたが、やがて体が崩れ、ボロボロに朽ちてしまった。
「――僕の魔法属性は、氷と雷の2つ。複合属性の『土』の魔力を受けると、スペルモスは朽ち果てる」
ロバルトはただの土と化したスペルモスを払い落とし、俺を人差し指で指した。
すると、俺の目の前に、別のスペルモスが現れた。俺が指を少し曲げて掲げると、スペルモスは第二関節あたりに止まった。
意図は分かったけど、人を指差すな。
「さあ、やってみなよ! たしかに君の武器相性は僕よりほんの少しだけ良いのかも知れないが、魔法属性でそのマグレは通用しないぞ! 魔法属性を3つ持つ者なんて、この世にいないのだから!」
ロバルトが何やら吠えているけど、俺は正直、あまり聞いていなかった。あいつの話を聞くより、大事なことがあった。
俺は魔力の出し方なんて知らない。戦いの中で偶然、魔法を発動させたらしいけど、そもそも現代日本で生まれ育った俺に魔力なんてあるわけがない。
参ったな――。
「ケイスケさん! 自分の心の中を見つめるんです! 色、形、大きさ――イメージできたものに集中して、自分の内面を表出させるんです!」
自分の心の中を見つめてイメージできたものに集中して内面を表出させる? それはどうしたら出来るんだ?
ティアラのアドバイスはありがたいが、あいにく参考になる気は全くしない。だが、それでもやるしかない。ティアラの面子にかけてもな。
心の中――空っぽだ。何もない。イメージなんて、湧かない。失敗してるだろ、これ。
「そんなこと不可能だ!」
ロバルトの悲鳴が聞こえて、俺は目を開けた。
指先のスペルモスが、いなくなっていた。
「お兄ちゃんの指に止まってた蝶々……パッて消えちゃった…………」
舞依が目を丸くして呟く。
その隣で、ティアラは口をポカンと開けて目を見開いていた。
「――スペルモスの消滅。この現象が示す魔法属性は…………『無』」
ティアラの声は、震えていた。
「ケイスケさんの魔法属性は、無属性です…………」
その場にいる全員が、俺を見つめて呆然としていた。
「無属性って……どういうことだ?」
俺はティアラに訊いた。
「むっ、無属性は、属性を持たない魔力のことです……本来、魔力は必ず属性を持ちます。無属性魔法はあまりに希少で、使える人物はヴァルス王国の重要保護対象として歴史に名前が残ります…………」
歴史に名前――壮大だな。そんなにすごいことなのか。ティアラに言われた通り、頑張って何も見えてこない自分の中身をうまいこと表に出そうとイメージしただけだが……。
たしかに、無属性と聞くと、空っぽなイメージと結びつく部分がある。空っぽなことが、無属性の証なのか?
考えていると、またしてもロバルトの叫び声が響いた。
「貴様ぁ! 下民風情が、どうあっても僕をコケにしたいようだなぁ! イライラするよ……なら、今ここで僕が戦いの仕方も実践形式でお手本を見せてやろうかぁ!」
ロバルトは腰に差した剣に手を伸ばし、全身から魔力を放った。ビリビリと肌が焼けるようだ。
自分から煽っといて、気に食わない結果だと実力行使に移るのか。なんて面倒くさいやつなんだ。
取り巻きトリオの1人が、ロバルトの腕をギュウと掴んで止めた。
「ロバルト、やめよ? わざわざそこまでしなくても、こんな下等な劣性種より、ロバルトの方が優秀なのは確定的に明らかなんだから。
それに、ロバルトが本気出したら、こいつ転校初日で死んじゃうから……ね? 教室戻ろ? 今日は早く授業終わらせて、ロバルトの部屋に行きたいな…………」
「ニコール……」
なにやら囁き合う2人。それを見て、ティアラは頬を真っ赤にし、舞依はオエーと気持ち悪そうに顔をしかめた。
俺は、終わるなら早くしてくれとずっと願っていた。
「…………命拾いしたね、Nクラスの平民くん。だけど、顔は覚えたよ。貴族でもない雑種の分際で僕に生意気な態度をとった身の程知らずの顔はね。
それでは失礼いたします、ティアラ姫。僕の優秀さは、またいずれじっくり、あなたに証明してみせましょう。いかにあなたに相応しいか、をね……いくよ、ジェシカ、ジーナ」
「あっ、待って〜ロバルトきゅ〜んっ!」
「ロバルト様の寛大な心に感謝しなさいよね。目障りだから消えて、マジで」
言うだけ言って、ロバルトは取り巻きを連れて去っていった。まったく、なんなんだほんと……。
瞬間、Nクラスのクラスメートたちが、ワッと俺たちの周りに集まってきた。
「すげえ! あのロバルトを追い払ったぞ!」
「あいつ前から嫌味ったらしくてウザかったからすっきりしたー!」
「やるな、転校生! いっつも偉そうなSクラスに一矢報いたやつなんて、初めてだよ!」
口々に話しかけてくるクラスメートたちに、俺たちはもみくちゃにされた。
ティアラは目を回し、舞依は低めの身長もあって人混みに呑まれ見えなくなってしまった。
そんな混乱を鎮めながら、眼鏡をかけた三編みの少女が、俺たち3人にスペースを作ってくれた。
「私、クラス委員長のトレイシーです。Sクラスの人たちには普段から、その……少し困っていて。ニイハラくんのおかげで、ちょっとは嫌がらせみたいなのもなくなるかと思うの……ニイハラくん、ティアラさん、マイさん。どうもありがとう!」
やれやれ、慌ただしい転校初日だ。




