2、前世
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お母さん、私、またお母さんを亡くしちゃうんだよ。お母さんが亡くなった時と同じ、八歳。別に、お母さんがいなくても私、がんばってお父さんと二人で生きてきたけどさ。やっぱりつらかったよ。
二人目の母との最期の別れの時に転生したって気づくなんて、神様はちょっといたずらが過ぎると思う。いわゆるこれは前世で気晴らしで読んでいた異世界転生ものだと思う。
せめて、もう少し早くわかっていたら、お母様を失うことはなかったのかもしれないのに。
前世の父は授業参観にもきたことない。いつも夜遅く帰ってくるから夕飯はいつもひとり。ただ、朝ごはんとお弁当はいつも作ってくれてた。父は過労で私が二十歳の時、亡くなった。私の記憶もそこから曖昧なので、おそらく同じように死んだのかもしれない。
約二十歳分の前世の記憶が洪水のように押し寄せてきた。眠りの中、夢の中で思い出した。
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「・・・エリーナ様、おはようございます。」
メイドがカーテンを開けて朝日を室内へ入れてくれた。
そう、私は今、男爵家の娘、「エリーナ・カスティナス・ルートン」。目が覚めた私はメイドのサリーに呼びかける。
「おはよう。サリー」
黒髪のおだんご姿にメイド服がとても新鮮に見える。
前世の髪が黒が多かったからかもしれないわね。サリーは、焦げ茶の瞳をパチリと開いて、「エリーナ様!!」と叫び私のベッドへかけよってきた。よく見ると目が赤い。目の下のくまもひどい。
「大だんな様!エリーナ様がお目覚めになられました!!!」
ドアに向かって叫ぶサリー。そんなに大袈裟にしなくても。ただ眠っていただけですよ。心配かけてしまってごめんなさいね。
「お目覚めになられて何よりです。」
「お母様の別儀式はもう終わってしまいましたの?」
「‥‥はい。エリーナお嬢様は丸二日、意識が戻らず…。お医者様によりますと、ショックによる精神的疲労とおっしゃっておりましたが。心配いたしました。あ、お医者様お呼びいたしますね。」
目尻の涙を拭い、にこやかな笑みを浮かべ、さっと扉へ向かう我が家の唯一のメイドを啞然と見送る。
二日。えぇ。私の睡眠感覚だとニ時間くらいですわ。まぁ、前世との記憶を整理する分にはそれくらいは必要かもしれないわね。
それにしても変な感じね。見た目は子供、中身は〇〇って、
まるで前世の有名な名探偵某のようだゎオホホホホ。
前世は父とふたりきり。母がいなくて苦労したことも多かった。学生時代はバイトの掛け持ち、社会人になっても副業オッケーだったから、奨学金返しながらの生活。
恋愛?そのパワーがあったら、某ホテルのケーキバイキングでお腹いっぱい食べてみたい。そんなお金の余裕もないしね。かわいい下着も買ったことない、スポーツブラか、安いセットです。服はもちろん最低限。
お金のかからない本屋さん(図書館)へは通ってたけど、無料って!素敵。もちろん税金払ってる分の福利厚生よね。税の徴収は強制されてるし。と、現実的すぎる人間だった。そんな前世の私はかわいいものが大好き。とにかくいろんな雑誌を借りてた。
「バーン!」
とドアを叩き壊すんじゃ‥という勢い手間部屋へ入ってきたのはおじい様。
「エリィイナァアアア!エリーナじゃな?目が覚めたのかぁ。
ほんとよかった。」