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ぱみゅ子だよ~っ 弓道部編  作者: takashi
インターハイ
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第66話 光田高校の凱旋

前泊で乗り込んだのは前回と同じだったが、今回は男子は居なかったこともあり、午前中に試合をして、そのまま帰路についた。


新幹線の中は、お祭り騒ぎであった。

練習試合とはいえ、鳳城高校のレギュラーチームに勝ったのだ。

全国で優勝しても全く不思議ではない。

そういった意味があった。


「勝った、よね……!」

栞代がようやく小さく呟いた。その声に、つぐみが勢いよく振り返る。

「そりゃ勝ったさ!だって杏子が最後の一射を決めたんだから!」


その言葉に、瑠月もようやく口元をほころばせた。

「でも、私たち全員で勝ったんだよ。あの場に立ってたのは三人だったけど、練習に付き合ってくれたみんなや、拓哉コーチの指導があってこそだもん。」

杏子が言うと、車内の空気がさらに和らいだ。


しっかりと同行して、杏子の横にちゃっかりと座っているおじいちゃんがニヤリとしながら言った。

「みんなも、ぱみゅ子の凄さが改めて分かっただろう。杏子の4射めから、最後の8射めまで、5射連続で勝負が掛かった一本たったんだぞ。最初は4本は外したら負け、という極限の緊張、そしてやってきた、決めれば勝ち、という射を見事に決めた。わしゃ、余裕があるから外したらどうしようと思って、少なく見積もって、5キロは痩せたよ。」

「でも、今そんだけ飲み食いしてたら、あっと言う間にもっと増えてそうだがな」

栞代とのコンビは相変わらず賑やかだった。

車内には柔らかい笑い声が広がった。


地元の白樹ヶ浜駅に着いて、祖父が車を出して、今日のメンバーに声をかけた。


ほんとは全員で集まりたいが、時間も時間だし、明日も学校あるしな。また全員では改めて集まろう。


そう言って、つぐみ、瑠月、栞代、そして杏子を車に押し込んだ。


その時、拓哉コーチとつぐみが一瞬目を合わせて、力強く頷きあったのを、栞代は見逃さなかった。 なんだろう?


家に着くと、杏子の祖母が笑顔で迎えてくれた。

「おかえり。頑張ったわね、みんな。さあ、今日は私もみんなに負けないように腕によりをかけて、ご馳走を用意したわ。」


テーブルの上には色とりどりの料理が並んでいた。杏子たちは制服のまま座り込み、祖母が用意してくれた温かいお茶を飲みながらホッと一息ついた。


「で、どうだったんじゃ?鳳城高校はやっぱり強かったか?」

おじいちゃんが興奮気味に話しかけると、つぐみがすぐに声を張り上げた。


「そりゃ凄かった!麗霞なんて、もう射るたびにピシッて中心に当ててくる。また腕をあげてる。噂の的場・ナディア・ヴィクトリア・アナスタシアさんも隙がない。そして圓城花乃さんが備えている。まさに完璧なチームだった。

でも、私たちだって負けなかったんだもん!最高のチームだよね」

「つぐみ、そこは最&高と言うんじゃ」


「つぐみ、すっごい嬉しそうだね。そんなに興奮してるつぐみ、始めて見たよ」

瑠月が苦笑しながら言ったが、その表情にも達成感がにじんでいた。


「そりゃ中学の時からの目標だったもんな。個人戦では無かったけど、それでも、雲類鷲麗霞に土をつけたことは確かなんだから。そして、それは、本当にみんなで勝ったんだ、チームワークの勝利だよね。」

栞代がポツリと呟くと、杏子が嬉しそうに頷いた。


「うん。個人の力じゃ、麗霞さんには絶対に勝てなかった。三人のメンバーだけじゃなくて、私たち全員の力を合わせた勝利だったよ。」


おじいちゃんはニコニコしながら、何やら大きな包みを取り出した。

「ほれ、今日は特別じゃ。お祝いのケーキもあるぞ!」


「おじいちゃん、そんなのいつ用意してたのよ。それに、また甘い物買ってきたの? 血糖値大丈夫?」

杏子が笑いながら聞くと、おじいちゃんは胸を張って言った。

「そりゃあ、勝つとわしは思っていたから、ちゃんと前もって用意していたんじゃ。こういう日は甘い物がないと盛り上がらんじゃろ!」

「試合が決まってから、おばあちゃんに電話していたの、聞いたぞ。」

「こ、こりゃ、栞代、バラするんじゃありません」


つぐみが目を輝かせて包みを開けると、中から立派なデコレーションケーキが出てきた。

「すごい!おばあちゃん、最高! おじいちゃん、最&高」


「ほれほれ、もっと褒めてくれてええんじゃぞ。」

おじいちゃんが上機嫌で手を振ると、全員が笑い出した。


「でも、ほんと、こんなに美味しい料理を用意してくれてありがとう。」

栞代が真剣な表情で祖母に言うと、祖母は穏やかに微笑んだ。

「みんなが頑張ったご褒美よ。それにちゃんときてくれてありがとう。これからも自分たちのペースで進んでいけばいいわ。」


その言葉に、杏子たちは全員深く頷いた。


夕食の時もずっと、つぐみははしゃぎ通しだった。感情を素直に表す方だったが、本当に嬉しいのだろう、はしゃぎ方は、見たことがないほどだった。


食事が終わったころ、瑠月の両親が迎えに来た。

祖父と祖母と、喜びを分かち合う挨拶をしていた。


「今日は本当に楽しかった。杏子、ありがとう。」

瑠月が静かに微笑みながら言うと、杏子も笑顔で返した。

「こちらこそ、みんながいてくれて本当に嬉しかったよ」


つぐみは玄関先で瑠月を送り、元気よく手を振った。

「次は全国大会だね!絶対優勝しよう!」


「うん、もちろん。」

瑠月が力強く答えると、栞代もその隣で頷いた。


一旦、つぐみと栞代はリビングに帰って来た。


「じゃ、そろそろ私たちも帰ろうか。」つぐみが言うと

「えっ今日も泊まっていくんじゃないのかい?

おじいちゃんが少し寂しそうに返答する。

「もう一週間も泊まってるからな~。そろそろ家にも帰ってやらないと」

つぐみがどこか遠くを見ながら呟いた。


おじいちゃんは、それじゃ、車を用意するよ、と行って、玄関から出て行った。


そして、栞代とつぐみは、いつものようにおじいちゃんの車に乗る準備をしていた。いつもは、杏子も一緒に乗って、最後まで見送ることにしていた。だが、つぐみが不意に杏子に向かって言った。「今日は、栞代と二人で行くから、杏子は残ってて。」


「え、どうして?」杏子は驚いたが、つぐみは笑顔を浮かべて「ちょっと栞代と話したいことがあるの。」とだけ答えた。


その言葉に、杏子は不思議そうな顔をしながらも、「じゃあ、気をつけてね。また、明日ねっ」と手を振り見送った。


車の中で、栞代は運転席に座るおじいちゃんに礼を言いつつ、隣で黙り込んでいるつぐみをちらりと見た。「どうした、急に二人でとか言って。」


つぐみは答えず、ただ静かに窓の外を見つめていた。

話たいことがあるって言ってたのにな。栞代はなんだか不思議だった。

杏子を励ましてくれ、とかなんとか言われるのかな。

その割には、つぐみは黙ったままだった。栞代は話しかけようとしたが、何か只事ではない雰囲気を感じて、軽く祖父と話をしていた。


車がつぐみの家の前に到着すると、彼女はバッグを手に取り、ドアを開けた。だが、降りる直前、つぐみは栞代の方に向き直り、小さな封筒を差し出した。


「これ、帰ったら読んで。」


栞代は受け取りながら、少し怪訝そうに言った。「なんだよ、改まっちゃって。何の手紙?」


つぐみは少し困ったように笑い、「あとで読んで。それと……杏子には、栞代が絶対に必要だから。杏子を頼む。栞代は強いから。てか、しなやかだから、な。」とだけ言い、家に向かった。


そして、家の前に着くと、振り返って、車の中の栞代とおじいちゃんに向かって


「今日はありがと~~。全国でも優勝しような~」

と大声で手を振っていた。


珍しいな。あんなに興奮して。

残された栞代は、封筒を見つめながらぼんやりと立ち尽くした。

なにかいつもと違うものを感じていた。


「いったい、なんなんだ?……」


運転席の窓から覗くおじいちゃんに問いかけると、「まあ、優勝したばかりで、いろいろ複雑なんじゃろうて。なんせ、まともにぱみゅ子に勝利したんだから。戸惑う気持ちもあるんじゃろう」と軽く笑われた。その言葉に、栞代も「まあ、そうだな。」と納得し、封筒を鞄にしまった。



家に戻った栞代は、手紙のことを思い出した。


部屋で荷物を整理し、風呂を済ませて落ち着いた後、机に向かって封筒を開いた。その中には、もう一つ、杏子へ、と表に書かれた封筒と、簡素な便箋に綴られた、つぐみの字があった。


「栞代、突然ですまん。どうしても言えなかったんだ。わたし、引っ越しすることになったんだ。もう明日から学校へは行かない。必ず連絡するから、それまで待っててくれ。」



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