1-9 戦争の終わり
戦争が始まった。宣戦布告が行われ集められた兵士が中央平原へ合戦に向かう。
僕は母さんが帰ってくるのを信じて、領館で敵が攻めてくるときの為の準備を整える。まず、ジェイドーに、約束通り人員を集めてもらう。
「お前ら、この方が飴を恵んでくれていた領主の息子のタークス様だ!!」
「「「うぉぉぉおお」」」
「これからも飴を恵んで欲しいなら、約束通りタークス様の言う事を聞いて戦争で勝ち残るんだ!いいな?」「「「うぉぉぉおお」」」
「それでこれから俺たちはどうしたらいいんだ?」
「皆にやってもらいたいことがあるんだ…」
僕は予定通り、街に住む皆を秘密基地へと移動させた。
「地下にこんな大きな街を作っているなんてな…予想できなかったぜ!領民の非難はほぼ終了した…皆呆気に取られている様だがな!」
あれから時間があったので、当初作ったよりもさらに拡大して街を模倣した数多くの建造物を作った。ここに太陽が差し込めば地上と見間違うほどの完璧な出来だろう。違う所と言えば、領館の場所に立派な城が建っている位だろうか?
「こいつぁ凄ぇぜ、地下に全く同じ街があるだなんてな…」
「これで俺たちの仕事は終了か?」
「ううん、まだだよ。退避してきた皆をここに誘導して、後からやって来た敵を迎撃してもらわなきゃ」
僕たちは街に戻り、吉報を待った。戦争の主流は大規模魔法の打ち合い。約束通りゴックズが撤退して部隊を引き連れて街に帰って来てくれた。
「こっちです!みんなこっちに急いで避難してください」
「街の皆は無事なの?皆何処に行ったの」
「みんな無事です!今は迅速に避難を」
「約束通り、物置小屋まで連れて行くのが俺の使命だ。(だが、少しくらい説明してくれてもいいんじゃないか)」
残された数十名の兵士は、満身創痍でありながら帰還し秘密基地へと帰ってきた。兵士たちの誘導と共に、一年の飴で雇われた裏路地の人々の人海戦術によって地上の街々に特別製の罠が設置されていく。
「撤退だ!地下で様子を窺うぞ!」
敵軍は勝利を確信して、この街を侵略しにかかる。
「この街の軍は残り少ない筈、一気に攻め込んで占領だ」
「お宝は全て持って帰っていいんですか」
「物資の略奪は、戦争の報酬だ。但し、全てが終わった後だ」
破城槌を使って、街を覆われている壁は脆くも崩れ去ってしまう。
「ぼろい壁だぜ…占領したとしても守り切るのは難しい…奪えるものはすべて奪って、撤退した方が良さそうだ」
「それにしても、誰も住んでないなんて不気味な街だ」
「食事中だった家も、人だけが跡形もなく消えてます」
「住民は戦争が始まって、悉く逃げ出したのだろう。早く領館を探せ。そこから奪えるものは奪って、こんな街からは早いとこおさらばだ」
領館に人形として擬態したままのティミィがスイッチを押すと、仕掛けたすべての罠が反応して全てが爆発する。『魔法爆弾』(魔法障壁に閉じ込められた雷が解き放たれ、辺りに雷の大爆発を引き起こす)の威力は強力で、街の至る所で爆発が起こり家々は崩壊する。最後にティミィが領館から避難して、爆破スイッチが押される。
「な、何だ…次々と領地内で爆発が起きるなんて」
「た、大変だ。全て罠だったんだ。この領館も爆発して行ってる。俺たちはまんまと騙されたんだ」
「領民が誰もいないのは、逃げ出したからではなくこの作戦の為だというのか!全員今直ぐ魔法障壁を張って爆発から身を守るんだ」
運よく爆発範囲にいなくて生き残った兵士、何かが盾になって生き伸びた兵士、魔法障壁で最低限のダメージに抑えた兵士達が再び立て直そうと部隊再編を試みるが、爆発の終了と共にターミスの懐刀アッシュウィンの部隊が止めを刺しに向かう。
「俺たちの未来の為の礎になってくれ」
「私達の領地から出て行ってもらいます」
負傷兵を囲んで止めを刺す。残敵総統は限りなく成功を収めた。ただ、爆発時に準備ができていた陣頭指揮を執っていたマグマベル隊長は爆破圧が起きても無傷だった。その為、ジェイドーたちでは止めを刺すことができず、甘んじて相手の撤退行動を見逃すしかなかった。
幾人かが大怪我を負い、重傷者は皆天界へと旅立っていった。
「何とか勝てましたね…タークス」
「痛み分けに持ち込むことが出え来ただけで十分だよ…」
「もう元の街の原形をとどめていませんね…酷いものです…もう生き残りなんていないでしょう」
「みんなで瓦礫を片付けようか…」
「未だ戦争中みたいなもんだからな…俺たちの住んでいた街だし…手伝ってやるよ」
瓦礫も死体も街の外へ積み上げられ、戦争は終わりの一面を見せた。
街は大歓声に包まれた。食料を一切合切吹き飛ばしてしまったので、その日は地下に保存されていた食料が領民すべてに振舞われお祭り騒ぎとなった。
「物凄く盛大なお祭りですね、タークス…良かったですね、彼らを救う事が出来て」
「そうだな…これで良かったんだよな」
「どうしたんですか?少し落ち込んでいます?」
「確かにここの無辜な領民を救う事はできた。でも、その代わり敵の兵士たちはほぼ全員死んだじゃん?これで良かったのかな」
「良かったんです。貴方は母様を立派に守りました。それ以上でもそれ以下でもない筈です」
祭りが行われている様を傍で眺めていると、急激な眠気が襲ってきた。子供の体で夜更かしは無理の様だ。
「タークス、俺たちの仕事は今日で終わりなのか?」
「僕はもう眠い。明日、皆にどうすべきか発表するよ…僕から直接。だから、起きるころには集めといて、お願いジェイドー」
僕は地下の城の中の一室にまでメイドに連れて行ってもらい、眠りにつくことにした。
次の日の朝は爽快に目を覚ました。全ての事柄に片が付いたのでぐっすりと眠ることができたからだ。
裏路地奥の住人達が勢揃いして、タークスの声明を待っていた。
「昨日は僕らの街の為に命を張ってくれてありがとう!君たちは僕の期待に応え充分な働きをしてくれた。だからできる事なら僕も君たちの働きに報いたい。君たちはこれからどうして欲しい?」
「報いてくれるというのなら、俺たちに生きていける働き口をくれ」
「俺たちに住むことのできる場所を作ってくれー」
「毎日、只で水を飲ませてくれ」
「うおー俺をもてもてにしてくれー!」
「皆色々聞きたいようだけどよ、これまでと同じ条件で雇うことはできんのか?どうなんだ?こんだけの惨状だが」
「君たちがそう望むなら…」
「今まで俺たちは住むところがなくとも何とかやって来れた。仕事がなくとも、綺麗な水がなくとも。だから、こんな惨状になってもあんま変わんねーんだわ同じ条件で雇い続けて貰えんなら、それだけで不満はねーよ」
「分かった。じゃあ、そうしよう…ただ望みや要望があればできる限り聞くから…」
広場に集まった裏路地の住人は、その一声と共に盛り上がりを見せた。泥を啜らなくていい、それだけで彼らにとっては喜ぶべき出来事なのだ。
逆に、領民たちは彼らの喜ぶ様を見ながら静まり返っていた。これから自分たちはどうなるのかという不安が一度に襲い掛かって来たからだ。
「貴方達が不安がりゅことは無いわ!母さんが何とかしてくれりゅわ!世界で一番の領主なんでしゅから」
母は昨日の戦闘で疲れてまだ目を覚まさない。だがそれなりに限られた資産の中で十分に領地を経営してきた。至らないところも在っただろうが、悪徳領主ではないこと(領地の為に努力を尽くしていること)は僕が一番よく知っている。
姉の声は不思議と領民に響き渡り、その主張を信じさせるものがあったのだ。
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