1-6 孤児院での友好
ミッシェルが呼び掛けると同時に孤児院の裏庭で爆発音が聞こえる。何者かの襲撃があったのだろうか?
「何か事故でも起きたのですか?」
「あれはいつもの事ですよ。子供たちが水の出ない井戸に魔法を撃ちこんで遊んでいるんです」
「そんなことして何か問題は起きないんですか?」
「ええ、井戸自体は物凄く頑丈に作られているんですよ。それも水が出なければ無用の長物、子供たちに遊んでもらえるだけありがたいんです」
「お姉さん、僕も裏庭に行ってきてもいいかな」
「どうぞ、行ってらっしゃい。子供たちに誘われても敷地内からは出ないようにね」
僕は石造りの古びた建物を抜け、木がたくさん植えられた中庭に到達する。確かにそこの井戸を囲むように子供たちが集まって魔法を撃ちあっている様だ。
「そんなに近づいたら、危険だよ。井戸に落ちてしまったら、大変だよ」
「生意気、お前誰?新入り?良いんだよ、落ちないし、楽しいんだから…」
「新入りならやってみろよ。どれだけ爆発するか見ててやるよ」
「え、僕はちょっと…遠慮しておくよ…井戸を壊してしまうだろうから」
「壊れるわけないだろ!冗談の上手い奴だな」
「ほんと、大人が魔法を撃ってもこの井戸だけは壊れなかったんだから!」
「何と言われようと井戸に魔法を撃つ気はないからね!君たちはいつもこの中庭で遊んでいるの?」
「そうだぜ…街の外は危ないからここで遊ぶしかないんだ…俺達はここで植物や薬草を育てて細々と生活しているんだ」
「君たちって妙にガリガリだけど、毎日きちんと食べてる?」
「まさか。毎日がぎりぎりの生活だよ。憂さ晴らしにこうして井戸に魔法を撃つくらいしか楽しみがないのさ」
「薬草を育てるのって、そんなに人数がいるの?」
「いや、全然。毎日暇してるんだ」
「そっか…ここは辺境だもんね。仕事が見つからないのも仕方ないよ…本当に困ったら、誰にも見つからないように領主の館まで来て?そうしたら、何とかしてあげるから…」
「お前、領主んところの子供か?おまえに何とかできるのか?俺より年下じゃないか。母に頼る算段だろ…あめぇんだよ」
「ううん。僕が君たちの力になるよ…約束する」
「お前が?ははっ。分かった。もしどうしようも行かなくなったら、お前のところに相談に行ってやる。俺はここを纏めているカージュだ。覚えておいてくれよなっ」
「カージュ、覚えた」
僕は子供達に混ざって石蹴りをして遊んだ。ルールは簡単、石を蹴って相手の陣地に多く蹴り入れたほうの勝ちだ。魔法を使ってもよいので、勝負は結構エキサイティングした。
一方姉は部屋の中でお菓子を食べて寛いでいた。
「ここの経営は苦しいの?このままでやっていけるの?」
「子供はそういう事考えなくていいの。でも経営難なのは事実よ。何処だってそうじゃないかしら。生きていくのに精いっぱいなのよ」
「私達も少なからず寄付を行っている筈ですが、それでもですか?」
「食べ盛りの子供たちを全員養っていくにはぎりぎりですね。色々、子供たちに買ってあげたいものもあるんですよ」
「ここの領地は貧乏ですから…充分な寄付ができなくて申し訳ありません」
「いいんです。生きていけるだけまだましです。寧ろお礼を言いたいくらいです。誠実な領主で助かっていますよ」
「何とかならないものかしりゃねー」
紅茶を飲みながら、男どもの遊んでいる姿を見ている。女性達は優雅に室内でお茶会をしている。
「薬草と水は無料だからティーパーティを開くのは無料なのよ。貴方、領主の娘なんだって」
「シーチェルはシーチェルという名前があるでちゅ、領主の娘ではありません」
「シーチェルね。貴方を『月桂樹のお茶会』のメンバーとして認めてあげます。光栄に思いなさい。私はベィネット、ただのベィネットよ」
「経営難ですって?何とかなりゃないのですか」
「男たちの無駄に有り余ったエネルギーの捌け口が見つかれば、いいんですけど…何処も人手は足りてるんですって…儘ならない世の中ですわよねー」
「全くでしゅ。それもこれもここが戦争中の辺境地だからいけないんでしゅ」
「次の戦争で私達は敵に占領されてしまうと専らの噂ですのよ…それなのに真面目に働こうという人の方が珍しいですわ。皆頽廃的なんですの」
徒然なることをベィネットと話し、男たちがドロドロになって帰って来たのでお茶会はお開きとなった。
「貴方達、部屋に入る前に体を綺麗にしなさい」
「私の強烈たる【水魔法】の餌食になりゅのです。そこに横位置れちゅに並びなさい」
シーチェルの【散水】が炸裂する。子供たちは気持ちよさそうに浴びている。坊はいつもの事で慣れっこになっている。
「日も落ちてきましたし帰りましょうか」
三人は手を繋ぎ、屋敷に帰っていく。
今日も無事に帰る事ができた。けれど辺境の終焉の時は刻一刻と近づいてきている。5年もすれば戦争の準備は再び整い、満を持して敵国は攻めて来るだろう。父が死んでもう3年は過ぎている。残された時間は少ない。
治安維持部隊が存在して、戦争の為の兵士たちが領地を守っている。警備隊も健在で領館を守っている。その為、暴動は起きてはいなかった。希望すれば外の街へと逃げることもできる。その為、この街に思い入れのない者たちはいち早くこの地を去っていった。この街で生まれた子供たちは逃げることができずに孤児院の中に留まり終わりの時を待っている。この街に住んでいる老人たちは逃げることはできないので、日々の生活を何も起こらない事を祈りながら生きている。実質この街には金で雇われた兵士たちを除けば、老人と子供しか残っていない。
戦争の為に武器を作ることができれば、少しは変わったのかもしれない。だが、ここの兵士たちの士気は低い。負け戦の為にいる『捨て駒』だと自分自身で認識しているのだ。
「ティミィ、戦争直前になったらここに残っている最後の良心警備隊、治安維持部隊、雇われ傭兵たちは逃げ出すだろうか?もし逃げ出してしまったら、この街はどうなってしまうんだろう」
「彼らには彼らなりのこの街に残っている意味があるのかもしれませんよ。ここが故郷で守りたいだとか…逃げてしまったなら、治安は崩壊するでしょうね」
「盗賊に襲われる?」
「唯々滅びを待つ廃墟になるでしょうね…治安が守られない街なんて、無法地帯と同じですから」
「じゃ、傭兵たちを説得しに行かなきゃ」
「その為には何が必要なのかおわかりですか?彼らが最も欲しがっている者が何かタークスには分かりますか?それを用意することができれば彼らも残ってくれるでしょう」
僕は一人で考えても全く答えが出なかったので、ママの意見を聞きに行くことにした。二階執務室でいつも作業しているので、メイドに話を通さないとこの時間は会えないんだ。
「タークス様ですね、母様にお取次ぎ願いたいというのは。少々お待ちください。今書類整理中なのです。二三時間後にまたお越しください。その頃には母様もお寛ぎなさっていますので」
何だか子供らしくお昼寝がしたくなったので、庭の物置小屋秘密基地の中で仮眠を取り時間を潰す。
日が傾きかけた頃、僕は慌てて目を覚ます。言われていた時間だ。急いで行かなければ。
「タークス、私に会いに来てくれるなんて。物恋しくなったのかしら」
「いいえ、警備隊と治安維持部隊と雇われ傭兵の心を掴むにはどうすればいいのか」
「難しいことをいうのね…簡単よ、実際に会って話をすれば良いの。このままでは彼らはこの領地から去ってしまうと考えているのね。でもそうはならないわ。皆私の為に最後を共にしてくれると約束してくれた、素晴らしい兵士たちばかりよ」
母は既に僕に言われるでもなく終末に向けての準備を進めている様なのであった。
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