〇〇クス、爛れた生活 1-1 始まり
朝目が覚めると、僕は赤ん坊になっていた。どういう理由かは分からないが、視界はぼやけていて辺りがぼんやりとしか見えない。だが音は良く聞こえる。周りの人たちが何を言っているのか、意味はさっぱりだがよく聞こえる。何か交通機関が往来している音も聞こえる。それがどんな乗り物かもわからないが。
僕は少し起き、長く眠ってしまった様だ。意識を保つことはできない。今のうちに考えを纏めておこう。僕は確かフォークリフトの運転をして荷物を運んでいた。きちんとマニュアルに沿って運転士業務を終える平常運転の繰り返しだったのだが、どうやら何かのピタゴラスイッチを押してしまったようで物凄い奇跡的な確率で荷物が落ちて圧迫させられて死んだ筈だ。
「(どうして僕はまだ生きているのだろう。病院の最先端技術で意識を取り戻したのだろうか)」
銀色のカーテンがゆっくりと開かれる。何を言っているのか分からないが、外から差し込む太陽が僕の体を包み込む。さっきまでは全く見えなかった目の焦点が少しだけ合い始める。今まで見たこともない生物が乗客を運んで道路を闊歩している。
視界を部屋の中身に戻すと、何か得体のしれない怪獣の人形が目の前を回っている。相変わらず何を言っているか分からないが、僕にミルクを飲ませてくれるお姉さんの様だ。いつの間にか、又相当眠くなっている。僕はお姉さんの腕に軽々と抱き上げられ為すが儘に振り回されている。物凄く怖くてどうしようもない。
「(なぜかは分からないが僕は赤ん坊として再び生を受けたみたい…まずは言葉を覚えないと何もできそうにないや。むにゃ)」
次に僕が目覚めた時、姉が放った爆発魔法らしき物が僕の部屋に直撃して揺り籠以外の殆どが爆風に飲み込まれて木っ端みじんに吹き飛んだ。僕は何が起こったかもわからずただいつも通り辺りを観察していると、母が物凄い勢いでやって来て姉を叱りつけている様だ。言葉は一切分からないが、そんな状況なのは確かだ。
姉は怒られているのにもかかわらず、視線は常に僕の方を向いている。目配せして何かの合図を送ってきている様だ。一体何を期待しているのか、僕にはさっぱり分からない。そっと揺り籠から出していた顔を隠し、寝ているふりをする。姉が全く反省していない風を見て更に母の怒りは加速する。もう一度揺り籠から顔を出して様子を窺うと、姉が指をさしてこちらに何か叫んでいる。これは不味いと感じたので、急いで中に戻り眠っているふりをする。
母はこちらにやって来て、僕の安否を確かめに来たようだ。だが僕がぐっすり眠っているのを見て、安心したようだ。姉への叱咤は一旦終了し、僕は別の部屋へと移されることになった。
「(どうやら、魔法がある世界らしい。異世界転生という奴なのかもしれない)」
僕は部屋の作りが頑丈な書斎へと移された。目を覚ますと相変わらず怪獣人形が回っている。起きていられる時間が少ないことは分かっている。折角の書斎なんだ…何としても本を読んでみたい。
揺り籠から顔を出し乗り越える。慎重に地に足を付け本棚の下までハイハイしていく。一番下の段に置かれている本はどれも辞典のように大きくびっしりと棚に詰められていて取り出せるものではなかった。一冊だけ背の高い本を見つける。その本を引っ張ると軽く手前に倒れてきて、中の頁が開かれる。
「(動物図鑑のようだ…この世界の沢山の動物の絵が描かれている。ベッドメリーに付いている怪獣の絵もここに記載されている…まだ文字は読めないけれど…何となく形は覚えた)」
動物図鑑を元の場所に戻し、元居た位置に何とか戻る。初めて歩いたせいか酷く眠気が襲ってきた。僕は小さく丸くなって布団を深く被り眠りにつくことに。
次に僕が目を覚ましたのは、姉が誰にも気づかれずに部屋の扉を開けた時だった。姉は書斎にある引き出しから何かを取り戻しに来た様だ。姉は引き出しが開かない(鍵がかかっている)ことに気付き諦めて出て行こうとする時に、僕の存在に気が付く。近づいてきて、僕に丸い飴のような物を食べさせようとする。
「『シャブ』ですよー、美味しい美味しい『シャブ』ですよー。さあお食べ」
何だか碌でもないことを言っているのは理解できたが、正直美味しそうだったので飴のような『シャブ』は口に入れてみることにした。甘くておいしいけれど、赤ん坊に雨を食べさせたことが母親に知られれば姉は叱られるだろうなぁ…通常の赤ん坊なら喉に詰まらせて死んでしまうだろうから。だが、僕は生きてきた年季が違う。雨を口の中でコロコロして十二分に味わう理性は既に整っていた。
それからは秘かに本を読み姉から飴を貰う日々が続いた。目を覚ましていられる時間も少しずつ伸び、力やスピードもほんの少しずつだが上昇している。
そのお陰か、言葉を話せるようになる前に図鑑に書いてある文字の形は全て覚えてしまった。又日々の繰り返しの御陰で腕力が鍛えられ、今まで取り出せなかった図鑑のような本を取り出すことが可能になった。
「(文字ばかりの本だ。文字の並びから恐らくこの本はどうやら国語辞典の類の様だ。他の本を調べてみよう)」
いくつかの本を調べていくと、図形と文字が書かれている本を何冊か発見する。目的の本はこれだ。書かれている図形を頼りに文字がどういう意味を持つのか類推していく。
「(算数の本はどの世界でも共通だな。書いてあることが手に取るようにわかる…)」
僕は数式を全て覚えて、頭の中で整理してから分厚い本を元の場所へと戻した。揺り籠に戻り、数式のどれが『0-9』の数字なのか類推する。相変わらずどういう発音なのか分からないが本の文字を覚えている内に気付いたことがある。
「(最もよく使われている文字と、殆ど使われていない文字がある…そういうことを考えていくとこの5つの文字が母音であり残りの文字が子音であることに間違いはない。後は日常会話に使われる子音の割合とを参照させれば、全ての文字の読み方が誰にも教わらずに推測できる)」
僕はそれから母親と姉の会話を注意深く聞き、色々と覚えていった。言葉の意味を理解できるようになり、本に書かれていることが完璧に読めるようになった。
「(魔術書があれば、読んでみたいな。算術書はもう大抵読んでしまったんだ。ここの書斎の下段にあるだろうか?)」
今日も眠っているふりをしていると、姉がベビーベッドの近くにやって来て餌付けをしに来る。
「あまーいあまーい『シャブ』ですよー。早く大きく育つのですよー(早く大きく育って、お姉ちゃんの面倒を見てくれるようになるのですよー)」
姉が食べさせてくれているものは、正真正銘の『飴』だ。違法薬物が含まれている様な危険なものではない。
ここだけ見れば姉は大変優しいいい人だと思うかもしれないが、実際は違う。姉はよく玩具で遊びすぎて行動が暴走してしまい色々なものを破壊してしまう。結果、玩具は取り上げられ僕が寝ている書斎の鍵付きの引き出しに入れられる。それを取り出しに姉がここに来るのだが、毎度のことながら引き出しが開かない。そこで他の引き出しを開け閉めして鍵を探すのだが見当たらない。その腹いせに抽斗に入っている飴を取り出して僕に与えてくれているだけなのだ。
魔術の書は中段にある。それを取りだそうと背伸びして頑張っていると、予期せず本が倒れてきた。ものすごい轟音が辺りに響き僕は本に埋もれ意識を失ったのだ。
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