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森林開拓日誌  作者: tanuki
猫目石
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七日目・完成、ユナハウス⑦

 リリティアさんの指示に従いながら、食器棚の魔法陣を描いた。指示は魔法陣の大きさに関することだ。ログハウスの大きさに加えて、その周囲3メートル程が更地になるように広めの魔法陣を描く。そしていつも通りに、その円周上のつる草が絡まないように取り外した。

 魔法陣を起動させると、眩しい光の後に木製の食器棚が姿を現した。森の中にぽかんと空いた空間に、木材や草花と一緒に食器棚が立っている。中々にシュールな光景だ。

 「ここに今度は家の魔法陣を描いたら、家の作成は完了だ。しかし、このままでは木材が足りないだろう」

 「じゃあ木材を集めないといけないですね。後どれくらい必要ですか?」

 ユナさんもリリティアさんもいるし、神の門もある。木材集めはそれほど大変ではないだろう。

 「そうだな。ここにはこれだけの量があるのか。それと、確かまだ小屋にも残っていたな。それだけでは足りないだろうが、まずは小屋の木材を運んでこよう」

 小屋は泉の反対側だ。リリティアさんは人形モードに変身して、一直線に小屋まで飛んでいってしまった。ユナさんはわざわざ、俺と一緒に迂回してくれたのに。自分だけ横着してずるい。そうボヤくのを聞くと、ユナさんはクスクスと笑っていた。

 俺たちが小屋に到着すると、人間モードに戻っていたリリティアさんが俺に木材の端を手渡した。シャツの裾やニーソックスの乱れも、既に直っていた。

 木材の端を掴んで、リリティアさんと一緒に木材を小屋の外に運び出す。一人で持てない重さでもないのだが、泉の周囲を回って家を作る場所までは結構な距離があるからだろう。

 「お二方とも、木材はこちらに運んで下さい」

 そう声をかけてきたユナさんは、泉の中にいた。言われるままに、木材を泉の中に入れる。

 木材が水の上を、すーっと滑っていった。反対側まで滑っていき、地面に到達した。これならば、泉を迂回して運ぶ必要はない。ユナさんのおかげで随分楽ができそうだ。

 「これなら、私は反対側で受け取った方が良さそうだな。こちらは任せた。確か、木材はお前だけでも持てたよな?」

 「リリティアさんこそ、大丈夫ですか?」

 「・・・お前に心配されるほど非力じゃない」

 呆れるようにそう言うと、リリティアさんは人形モードで泉を飛んでいった。

 ・・・どう見ても小柄で華奢な女の子にしか見えないのだから、心配しない方がおかしいと思うのだが。

 リリティアさんに対する心配はひとまず置いておいて、自分の仕事を片付けよう。心配しておいて自分が足を引っ張ってしまうのはマズい。

 こうして、木材を運び出す流れができあがった。俺が小屋から泉まで木材を運び、ユナさんが水を操って対岸まで送る。そしてそれをリリティアさんが受け取って、泉の付近に並べておく。小屋にある木材を全て運び出すまで、この作業を繰り返した。リリティアさんも全く問題なく木材を持っている。あの細い腕のどこにそんな力があるのだろうか。

 「これでラストです」

 疑問に思いながらも、俺は最後の1つを泉に浮かべた。

 「わかりました。では、その木材に乗ってもらえますか?木材と一緒に、守くんも向こう側までお連れしますから」

 「はい?わかりました」

 俺は木材の上に馬乗りになった。靴と靴下は水に浸からないように脱いで脇に抱えた。こんな感じでいいんだろうか。

 「では、進めますね」

 ユナさんがそう言うと、ゆっくりと対岸に向かって進んだ。振動も加減速もなく、滑らかに進んでいく。足先に感じるひんやりとした水の感触が心地よい。俺が上に乗っているからだろうか、速度は木材だけの時よりも遅いように感じる。

 対岸の水際にたどり着くと、木材がゆっくりと止まった。水底に足が着いたので立ち上がり、木材を持って泉から出た。木材にも俺の足にも水が一滴も着いていないのは、ユナさんがそうなるように水を操作してくれたんだろう。靴と靴下を脱ぐ必要なかったかな。

 ユナさんにお礼を言って、すぐに次の作業に移る。並べておいた木材を、ログハウスを作る予定の場所まで運ぶ作業だ。リリティアさんが既に一人で進めているため、俺とユナさんは急いで木材を運び始めた。

 密生した木々の間を、2メートル強ある木材を運ぶのは、俺には難しかった。木々にぶつけながらも、強引に運んだ。それに対してリリティアさんは器用に木々を避けながら進んでいく。ぶつけたり、こすったりは全くしていなかった。運び終えた木材を見比べると、どちらが運んだのか一目瞭然の違いがある。

 そして、ユナさんはというと、水を操作しながら木材を運んでいた。水を緩衝材代わりにすることで、木々にぶつけたりひっかけたりすることを、上手に避けていた。傷一つ付けずに、スピードも俺よりずっと速かった。

 こうして作業を進めて、全ての木材をログハウスの予定地まで運び終えた。

 「改めて見ると、やっぱり俺が運んだのだけ傷だらけですね」

 「傷はどれだけ付けても気にしなくてしていい。必要な量があれば、傷ついていても変形していても問題ないからな。他にも、欠き込みや穴などがある場合でも、関係なく処理してくれる。とは言え、無駄に木々を傷つけることもない。今後はもう少し丁寧に運ぶように気をつけてくれ」

 「はい、わかりました」

 2メートルの木材を、生い茂る木々にぶつけないように運ぶ。そんな芸当ができるのはそうそういないと思うが、傷一つないきれいな木材を見せられては頷くしかなかった。

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