七日目・完成、ユナハウス⑤
「確かに話が逸れてしまっているな。ユナには何を言っているのかわからない話をしてしまったようだ」
「ユナさんすいません。勝手に話を進めちゃって。神様たちの世界の話だったのでつい・・・」
遥かに進んだ文明を持つ彼女たちが作る社会がどんなものなのか、それには非常に興味がある。ずっと未来の人間社会を見ているように感じるから。そんなもっともらしい理由よりも、知らないことへの好奇心の方がずっと大きいけれど。
「いえ、お気遣いなく。確かに理解はあまりできませんでしたが、知り得ることのなかっただろう貴重なお話だったと思います。特に、神様たちの世界があるということには驚きました。神様は一柱だけではなく、幾柱かいらっしゃるとは思っておりましたが、実際に神様たちの世界があるとまでは思っておりませんでした。ですが、よくよく考えてみたら当たり前のことでしたね」
神様がいると思っていても、では普段どこで何しているかなんて考える人は少ないだろう。むしろ、超常的な存在に対して、自分と同じような生活をしていると考える方が少数派だろう。
「我々にも住む世界があって、そこで生活をしている。私も職務でこちらに来ているだけで、住む家もそちらにある」
「結構会社っぽいですよね。俺も契約書を交わしてこの仕事に就きましたし。まあ正社員じゃなくてバイトに近いような立ち位置らしいですけど」
「守くんの言い方だと、森の守護者というお役目が職業のようですね」
「ええ。まあ職業というか、就職先の役職名って感じでしょうか。営業や店舗運営職みたいな」
辞めた会社での役職が、店舗運営・一般だった。カッコいい書き方だが、やっていたことは普通のホールスタッフだ。
「就職先・・・神に選ばれし者が一生を捧げる地位や身分だと思っていたのですが、想像していたよりずっと・・・」
「軽いですよね。まあでも、そんなに大層なものではないですよ。試用期間はないですけど解雇規定はありますし、退職する際の決まりなんかもちゃんとあります。一生を捧げるとかそんな重たいものではないです」
契約解除、要は退職を希望した場合にもルールがある。退職希望が受理されてから20日以内に正式な契約解除を行うというものだ。日本のルールに似ているが、加護の喪失など所定の処置を取るのに必要な期間だ。
「便宜上種族のような言い方をしているが、神や精霊も職業の1つだからな。その神が任命する以上、決して永続かつ不変のものにはならない。神にも退職や異動で、担当区域を離れる場合がある。任命した本人が辞めても、任命された側が辞められないというのはさすがに可哀想だからな」
「本当の意味で、職業や仕事なんですね。神様や精霊様、そして森の守護者も」
「そういうことだ。だから、別の仕事をしている者たちもいる。ちなみに、神の門もそういった者たちが作っている」
「そう言えばリリティアさん、神の門だけは製品と呼んでますよね。総エネ社、でしたっけ?」
これは略称だったはずだけど、正式名称は覚えていない。
「そのグループ企業の1つ、ラスティリア開発という会社だ。十数名の小さな会社だったが、神の門を製造・販売するために総エネ社の傘下に入ったと聞いている。燃えろノコギリやバールのようなものは我々の開発部が作っている」
「毒のやつもですか?」
「ああ、あれもそうだな」
名前の付け方でなんとなくそう思った。絶対この3つは同じ神様が考えた名前だと思う。
「余談だが、こいつの役職である森の守護者だが、この役職は今回のためだけに新設されたものだ」
「そうだったんですか?それは知りませんでした」
「守護者という肩書を持った方がいるという話を、わたくしは何度か聞いておりますが」
「外部協力者に関する規定第3条に基づく第一種協力者。正確にはこれが役職名になるが、役割がわかりにくいため個別に名称を付けるんだ。過去の似た事例を参照に、今回は森の守護者という名称にした。守護者という名前で特定の地域に定住してもらうケースは、他の世界も含めて何例か存在する。この世界だと、確か446年前だったと記憶しているが、ファンライ島で外部協力者を任命したという記録が残っている」
「ファンライですと、島の守護者を讃える英雄譚を聞いたことがあります。確か、島の危機を救った剣士の伝説でした」
「ユナが言う島の守護者が、神が任命した外部協力者かどうかはわからない。任命した後の記録は調べていないのでな」
「調べてないんですか。俺としては、どんな人がどんな経緯でやってきて何をしたのか、詳しく知りたかったんですが」
与えられた状況も問題も違う以上、参考にはならないだろうけれど、似た立場の人間のことは知っておきたい。
「任命手続きをするに当たって、そこまで調べる必要はなかったからな。そもそも、外部協力者に関する申請書と守護者の報告書や日報は保管場所が違うんだ。申請書は支部の中央倉庫で一括管理なので、きちんと整理整頓されている。対して報告書などは各担当区域用の執務室で保管されているんだ。つまり、報告書や日報は他の神に頼んで資料を借りる必要がある。更に、整理されていなければ、該当書類を探し出してもらうことから頼まなければならない」
そこまでの面倒は頼みにくいということか。確かに、必要かどうかわからないものを、労力をかけて探してもらう理由もないだろう。
ん?待てよ。過去に提出された申請書を調べたけれど、報告書や日報は資料自体手に入っていないということだよな。
「つまり、日報は難しくても、申請書は調べやすいということですよね?」
「まあそういうことになるな」
「だったら、ドリアードの件は過去の申請書を調べてもらえばすぐに分かるんじゃないんですか?」
リリティアさんの表情が目に見えて変わった。
2020.4.26 途中の会話文が切れていたので、後の文章も含めて訂正。