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森林開拓日誌  作者: tanuki
森を守るお仕事
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五日目・月下の精霊④

 「包まれてる感がすごい!これがホントのウォーターベッドだな」

 「ああ、これは快適だな」

 「喜んでいただけているようで嬉しいです」

 泉で風呂の話をしたところ、ユナさんが協力してくれるということになった。それで早速、泉の水を家まで運んでくれるというのでお願いした。

 そして今、家に向かっている途中だ。ユナさんは水の上に座りながら、大量の水を操り移動している。イメージ的には巨大なスライムが、森の木々をかわしながら進んでいるという感じだ。ついでに、俺とリリティアさんも乗せてもらっている。水を汲むために持ってきたタルも、水中を漂っている。

 水の中に体のほとんどを沈めているのに、全く濡れないのが不思議だ。水を手で押すと、適度に沈み適度に押し返してくる。昔、寝具店で試しに横にならせてもらった最高級品の低反発マットレスと同じ感触だ。あの時は、結局一番安いマットレスを購入したことを思い出す。だが、マットレスとは違い、上下左右から体全体を包み込んでくれるため、心地よさはこちらのほうが上だ。

 そう、感じるのは宇宙。さながら無重力空間だ。

 ・・・いや、違うな。無重力ではあるけれど、宇宙ではない。虚無の空間に放り出されたわけではなく、包み込まれる温かさがある。ひんやりと心地よい水に、優しいぬくもりを感じる。いや、守り包む水に抱かれているのだ。例えるならば子宮。言うならば今の俺は、ユナさんの胎内にいるのと同じ状態なのだ。

 「お前、表情が気持ち悪いぞ?何か変なことを考えているんじゃないか?」

 リリティアさんが言う。そんなゴミを見るような目はしないでほしい。

 「いや、何でもないですよ。水が気持ちいいなって思ってただけです」

 それだけではないが、全くの嘘でもない。

 「疑わしいが、まあいい。確かにこれは気持ちがいいな。首と肩がとても楽だ」

 そう言ってリリティアさんは仰向けに寝転がった。見た目は二頭身の人形だからなぁ。大きな頭を支えているのは細い首と小さな肩だ。負担が集中するのだろう。マッサージでもしてほぐしてあげられたらいいが、素人が下手に触るのもよくないだろう。

 寝ているリリティアさんから目を離し、座っているユナさんを見た。体育座りに近い格好で、両手だけは小刻みに動かしている。馬車を操る御者みたいだ。もっとも、実際に見たことはないので、アニメや漫画のイメージだけれど。

 白いワンピースの裾が、ふくらはぎの辺りで絞られている。ワンピースがまくれないように、水の力で抑えているのだろう。気にしなくてもいいのに。

 靴下も靴も履いていないため、足首から先だけは顕になっている。

 足の指が細くて長いな、そう思っていたら、視線に気づいたユナさんに話しかけられた。

 「今更言うのも遅いですが、こんなに少なくて足りますか?」

 「こんなに沢山あれば大丈夫ですよ」

 「ああ、十分すぎるだろう」

 最初、運ぶ水の量を聞かれた時は、ユナさんが大変じゃない程度で、とお願いした。タルいっぱいになるだけを運んでくれれば、俺もタルいっぱいに汲んで持っていけばタル2つ分の水を家まで運べるだろうと思ったからだ。以前にタル1つ分を運んでいたから、それくらいの量だと思ったのだ。

 しかし、これがいけなかった。ユナさんが泉の水を操作し始めると、見る見る間に泉の水嵩が減ったのだ。慌ててユナさんを止めて、半分以上泉の中に戻してもらった。そうしてできたのが、この巨大スライムだ。風呂に必要な分に加えて、明日の分もあるだろう。タル、足りるかな?

 「水の量が十分ならよいのですが・・・ところで、守くんの世界では、お風呂に浸かる風習があるのですか?」

 「俺の国ではそうですね。他所の国では入浴する文化がないところもありますが」

 「それで、今回お風呂を作ろうとしてるんですね」

 「今まで濡れタオルで体を拭くだけでしたからね。できればお風呂に浸かりたいと思いまして。ユナさんはどうなんですか?」

 「わたくしは入らないですね。ウンディーネにはお風呂という習慣がないんです。一日中水の中にいるので、わざわざお湯を沸かして入浴することはあまりありません。娯楽として楽しむ者はいますが、少数派だと思います。あまり火を使うこと自体が少ないですから」

 確かに、常時水の中にいるんだから、わざわざ風呂に入る必要性はないかもしれないな。だが、どうせならお風呂の良さを体感していって欲しい。特に、今回作った浴槽は寝転んでゆったりと入れるものだ。

 「じゃあ、折角なら入ってみますか?温かいお湯に浸かるのも結構いいものですよ」

 「よろしいんですか?」

 「勿論ですよ」

 「では、よろしくお願いします。お風呂には興味があったので楽しみです」

 ユナさんも喜んでくれているようで、こちらも嬉しい。

 「そうなると、やはり必要だな」

 リリティアさんが言った。一体何が必要なんだろう。

 「ユナもお風呂に入るというのだ。きちんとした目隠しを作らないとな。よこしまな思いを抱くものが、思い余って不埒な真似をせんようにな」

 リリティアさんがこちらを見ながら言う。振り返ると、ユナさんも俺の方を見ていた。

 「・・・・・・の、覗いたりなんかしませんよ!」

20.01.03 微修正。ユナの一人称が間違っていたので訂正

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