五日目・シャールの町⑦
「開いてませんね」
「む、閉まっているな」
リリティアさんが革袋の中から顔を出した。
指示されるままにシャールの町を10分ほど歩き、目的地にたどり着いた。しかし、目的の店は開いていなかった。折り紙を売る予定だった小物の店である。
「何かあったのか?いや、まだ開店していないだけか?」
革袋から顔を出したまま、リリティアさんが考え込んでいる。誰かに見られたら、と心配に思うが、この辺りの人通りは少ない。リリティアさんによると、商業区画の外れにあり、ここまで足を伸ばす人はあまりいないらしい。
「ともかく閉まっているのだから、諦めるか時間を置いて出直すかしかないな」
「できれば今日売ってしまいたいですね。どれだけの金額になるのか気になりますし、お金はあるに越したことはありませんから」
「ああ、言い忘れていたが、この店の仕組みは他所と違っていてな、この店が買い取るわけじゃないんだ」
「そうなんですか?では、この折り紙はどうやって売ることになるんですか?」
「まずは棚に置かせてもらうだけだな。そして、店に来た客が折り紙を購入して、初めてお金を受け取ることができる仕組みだ。その際、店には一定の手数料を支払うことになっている」
「置く時点ではお金を払う必要はないんですか?」
「ないと聞いている」
「おお、それはすごいですね。売り場スペースの利用料がないなんて。・・・あ、売れずに引き上げる時には必要なんですか?」
「さすがにそこまでは聞いていない。気になることは、本人に直接聞いてみればいいんじゃないか?店を開けるなら、もうそろそろだろう」
それもそうだな。売る時に店の人に聞けばいいか。今日すぐにお金になることはないにしても、店に置くならば早いほうがいいだろう。今日、買いたいという客が来るかもしれないし。
「さて、そうなるとどこかで時間を潰さないといけないが、必要なものはまだあるか?」
「そうですね。お金もまだ少し残っているので、服を買いたいですね。それと、靴もあれば欲しいです」
どちらもすぐに必要というわけではないので、後回しにしていた。しかし、靴はともかく服は早めに購入しておきたい。
「服屋か・・・どこにあったかな。大通りに面した所にはあるが、あれは高級店だからな・・・」
「できるだけ安いものがいいです。その上で破れにくければ理想ですが・・・」
リリティアさんも店の場所がわからないということなので、適当に歩き回ることにした。そして、数分後に見つけた。小物の店から住宅区画側に、通りを2本越えたところにあった。
服のマークが描かれた看板がある。一見して服屋とわかる看板はありがたい。
「いらっしゃいませー」
元気よく出迎えてくれたのは、若い女性だった。16、7くらいだろうか。身長は俺より少し低いくらいだ。小豆色の髪を肩の高さで切り揃えられ、前髪に付けられた黄色のアクセサリーが印象的だった。
「んーお客さん、旅の人?」
「そうです。わかりますか?」
「わかりますよー。見たことのない服装してるもん。この国の人ではないでしょ」
まあこの国どころか、この世界の人間じゃないけどね。
「それにしても珍しい服だなー。シャツは綿かなー。縫製がしっかりしてるいいものだね。でも、それよりもこっちだ」
そう言って彼女が指したのは俺が履いているジーパンだった。
「こんなの見たことない。どこで作られてるの?何を使っているの?ねえねえ、教えて?」
・・・テンション高いなぁこの人。
服を買いたかったのは、これが理由だった。この町の人たちとは着ているものが違う。そのためか、ジロジロと見られていることがあった。行商人として通すにしても、こちらの服装にしていたほうが目立たないだろう。
「えっと、売ってるところはここからはかなり遠いところで、作り方や材料は俺も知らない。君の疑問に答えられそうになくてごめんね。それと、服が欲しいんだけど。できるだけ安いのがいいな」
嘘は言っていないし、余計なことを言って怪しまれても困る。先に謝っておいて話を打ち切ってしまおう。
「そんなにいいものを着てるのに、安い服がいいの?ふーん」
3枚2000円のTシャツに1980円のジーパンなのだが、こちらではいいものに見えるらしい。少々怪しまれたようだが、それ以上の追及はされなかった。客のプライベートにズカズカ踏み込んでくる店員ではなくてよかった。
彼女はカウンターの後ろにある棚にある服を探し始めた。ハンガーに掛けられたものなど、店内の見やすい位置に並んでいるものは完全にスルーしている。やっぱり、安いものの扱いはそれなりになってしまうのだろう。