五日目・シャールの町⑤
意気込んで向かった雑貨屋だったが、結果は芳しいものではなかった。石像を5体持ってきたのだが、どれも大した金額にならなかった。最初の提示金額に納得がいかず、交渉に交渉を重ねたが、結果は5体で銅貨12枚にしかならなかった。帰りの荷物を減らすために、仕方なくそこで妥結した。
先程のように建物と建物の間に入り込み、リリティアさんと話をする。
「あまり値が付きませんでしたね」
「石像はサイズがそのまま金額に反映される。小型の石像ならばあの程度になっても仕方ないだろう」
「出来はいいんですけどねぇ。クマが鮭を咥えているやつなんかは躍動感がありましたし、イノシシは毛並みまで再現されていました」
この2つは、森の近くにある町には身近な生物だろうと思って用意した。
「動物の石像は、人間の世界に住む動物たちを精巧に模して作られている。神々や精霊たちにとって、見たことのない動物たちだからな。その姿が見られるからと人気になり、シリーズ化された。今では数十の世界の動物が石像化されている」
それで地球の動物も石像になっているのか。・・・ん?石像は実物そっくりに作られているんだよな。
「じゃあ、三葉虫もトリケラトプスも、あの姿・形をしてたってことですか?」
「商品化する際、細部まで拘って作られているはずだ。私は本物を見たことがないから断定はできないが、おそらくあの姿で実際に生きていたのだろう」
身近な生物だけでは面白くないと思い、残りの3つはこの町の近くにはいなさそうなものにしたのだ。しかし、トリケラトプスはあんな姿をしていたのか。他の恐竜や古代生物もあったから、暇な時に作ってみよう。恐竜は太古のロマンだ。
「まあ、雑貨屋の主人には笑われて終わりでしたけどね。こんな生き物がいたら見せてほしいって。見れるものなら俺が見たいってのに・・・もう一つ、ユニコーンもダメでしたね。馬に角をつけただけの陳腐な創作だって、散々な言われ方でした」
「そう言っていたな・・・だが、居るぞ?あれ」
「え?」
「居るぞ?森に」
1つくらいは想像上の生き物でもいいだろうと思って、最後の1つはユニコーンにしたのだ。サラブレッドに似た体躯と額からまっすぐ伸びる角。長いたてがみがたなびかせ悠然と佇むその姿に、俺は胸を高鳴らせた。製品カタログの写真を一目見て気に入り、即決したのだ。そんなユニコーンが、実際に存在する?
「森にいるんですか?」
「ああ。人里近い所には生息していないため、この町の住人が知らないのも無理はないがな。警戒心が強いため滅多にお目にかかれないが、北の山脈の麓が主な生息域だ」
「ホントですか!?いるなら是非会ってみたいなぁ」
「それならば尚更、管理の仕事を頑張ってもらわないとな。生息域で仕事をしていれば、目にする機会もあるだろう」
「はい。頑張ります」
この仕事を続けていれば、ユニコーンに会えるかもしれない。それに、未知の生物はユニコーンだけではないだろう。それを考えるとやる気が出る。食事の不安がなくなったこと、それが何より大きい。銀貨や銅貨の入った革袋に手を入れ、その感触を確かめる。固くひんやりとした、金属特有の手触りがした。
「そうだ、これから鉱物商の所へ行こうか。転移装置製作に必要な金属が売っているかもしれない。おそらく今購入できる金額ではないだろうが、あるのかを確認するだけでもしておこう」
「そうですね。いくらで買えるのか、わかっていれば目標になりますからね。必要な金属は確か・・・鉄とプラチナと・・・あと何でしたっけ?」
神の門の取扱説明書に付いている、製品カタログには必要な材料も書いてあった。それを読んだのだが、忘れてしまった。数字と元素に関しては頭が勝手に拒否してしまう。文系の俺には仕方のないことだろう。
「スズと水銀、タングステンだ。スズと鉄は買えるだろうが、プラチナはないだろうな。あっても銀貨では到底足りないだろうが」
プラチナだもんな。銀と比べたら、日本でもかなり高価だろう。
「タングステンは、この世界ではまだ発見すらされていないし、水銀はオストーンでは一般の販売は規制がかかっている。毒薬として利用された事件があってな。全国的に販売も所持も許可制になった」
タングステン・・・漫画で出てきたなぁ、という程度の知識しかない。水銀は、中国では不老長寿の秘薬とされていたんだっけ。でも、人間にとって有害だから、実際には寿命を縮めるだけだったらしい。
「規制されているなら、そもそも俺が持ってはいけないんじゃないんですか?」
「どうしてだ?オストーンでは許可が必要だ。だが、森はオストーン領ではない。お前の水銀所有について、何も問題もないぞ?オストーンがどう考えているのかはわからないが、実効支配をしているわけではないからな」
森はどの国にも属していない、そんな説明をされた気がする。だが、いずれにしても水銀の入手方法については考えないといけない。それ以上に希少そうなタングステンもだけれど。
「わかりました。まあ、ここで考えても仕方ないですね。鉱物商の所へ向かいましょうか」