五日目・シャールの町④
シャールの町の発展具合から考えれば、80%という識字率は異様に高く感じる。電気も水道も整備されていないようだ。服装や建物などから考えても、おそらく古代から中世程度の文化レベルじゃないだろうか。となると・・・どれくらいの識字率だったんだろう?古代史や中世史について、知識があまりないのでよくわからない。日本の識字率は割と高かったらしいけれど、それでも民衆の大半は読み書きができなかっただろうから、地球全体で考えると・・・。
「辺境の町ですしね・・・よくて25%くらいでしょうか。いや、もっと低いかも・・・」
歴史学の講義をもっとちゃんと受けていればよかったかな。レポートだけで楽に単位が取れる講義だったからと、いい加減に受けていたことが悔やまれる。まあ、さすがに異世界に来ることも、そこで歴史学の知識が役に立つことも、想像なんてできなかったから仕方ないけれど。
「ふむ・・・それくらいか。今から320年前のことだが、文明の発展に介入したことがある」
「文明の発展に介入、ですか?」
「ああ。当時は王侯貴族などの指導者たちに対して、民衆への教育に力を入れるように誘導するという方法が取られた。地域によって期間は異なるが、数十年感続けられた。私が勤める前の話だがな」
「そんなこともするんですね。・・・いや、ひょっとすると日本でもあったのか?」
「教育の普及のような間接的介入は基本的な手段だ。25%というお前の返答から推測するに、おそらくお前の世界では何もしていないのだろう。元々、人間に対する介入自体、実施されることは多くないんだ。この世界もモデルケースとして実施されたらしい。人間に対する介入に関しては、まだまだ手探りでな。発展のスピードを上げてもらいたいが、人間独自の工夫と判断を奪ってしまうのは絶対にダメだからな。その2つのバランスについては、様々な意見がある」
「うーん、俺の立場が微妙というのは、そういう理由もあるんですね」
以前にも、人間ながら神の部下であることが、微妙な立場だと言われていた。人間である俺を、神が直接雇用する。当然、それに対する懸念もあるのだろう。
「お前は何も心配しなくていい。人間であるお前が判断して、自主的に行動するのならば文句は言われないだろう。それにアイリアの担当区域の中ならば、他の神々もわざわざ口出しはしてこないだろうしな。我々の世界のことは気にせず、この世界と住む森のことだけを考えてもらえればいい」
「心配するなと言われると、逆に心配になるのですが」
「アイリア以外の神と、直接話すことはほぼないだろう。私もアイリアも、お前のサポートはできるだけするつもりだ。何を気にすることがある?」
俺の雇用主はアイリアさんらしいが、アイリアさんが属する組織と無関係とはいかないだろう。それについて気にするな、というほうが無理だと思うのだが。
「そもそも、お前が最初に気にするべきことは、自分の生活の安定だろう。紙を大量に売却したことで、今日はかなりの利益が出たが、この手は当分使えないからな。ホージュの実と山菜だけの生活が嫌だというのなら、紙以外のもので資金調達をしなくてはな」
「確かにそうですね」
生活基盤がなければ、管理人としての仕事はできない。森で生活資金を稼ぐ必要がある。賃金がないという点は、雇用条件においての重大な問題だ。だが、森にあるものを自由に採取していい上に、便利な道具まで貸し出してもらっている。それらを利用して稼いだお金は、全部自分のものだ。ある意味、頑張りが報われることが確約されている仕事ともいえる。
「では、次に行きましょうか。次は石像を売るんでしたよね」
豊かな暮らしをするために、食べ物に困らない生活をするために、商売も頑張ろう。
長いので分割しました。ミスで訂正前のが上がっていたので、それを読んでしまった方、すいません。