五日目・シャールの町③
紙問屋に売却した結果、50枚の紙は銀貨5枚になった。
・・・銀貨の価値ってどれくらいなんだろう。それがわからないまま、リリティアさんから売却の指示が出たため、紙問屋が提示した銀貨5枚で売却した。紙問屋に対しては、別の町で出会った行商人から仕入れたので、生産元などの詳細は不明だということにした。だから、また手に入れるのは難しいと伝えた。行商人がそんなことでいいのか、と言いたそうな目で見られたがスルーした。いいのかどうかわからないし、事実と異なる説明をしているのだ。ボロが出ないように適当に話を切り上げて紙問屋を退出した。
紙問屋を出て、建物と建物の間のスペースに入り込む。建物の多くは木造で、壁は土壁か板壁がほとんどだ。異世界と言えば石畳にレンガ造りの町並みだが、そんなイメージとはかなり違っている。木材が手に入りやすい森に面した町だから、木造の建物が多くて当たり前か。
背負い籠の中を整理するフリをしながら、リリティアさんが革袋から出てくるのを待った。紙問屋がある区画は人通りそれなりにある。こうして死角に入り込むことで、人々の視線を避けているのだ。こうしないと、人形に話しかけるヤバい男として、この町の人々に認識されてしまうだろう。
「言われた通りに売りましたけど、銀貨の価値ってどれくらいなんですか?」
「銀貨の交換比率は今だと確か・・・銅貨100枚で銀貨1枚だな」
となると、銀貨5枚で銅貨500枚か。一日分の食料が銅貨10枚だから・・・50枚の紙で50日分の食料になるわけだ。しかも、紙の方は問屋の買取価格である。これに利益を乗っけて売るのだから、実際にはもっと高額になるのだろう。
「こんな書きにくい粗悪な紙1枚で、1日分の食べ物が買えちゃうのか・・・」
メモ用紙としてポケットに入れておいた紙を眺める。メモを取っていても、時々ペンが紙に引っかかって字が乱れてしまうような紙質だ。日本でこんなものが売られていたら、俺だったら買わないだろう。
「お前は粗悪というが、店主は紙質も絶賛していただろう?」
「はい。正直びっくりしました」
紙を一目見て驚いていたのが、とても印象的だった。こんな真っ白な紙は滅多にお目にかかれない、と言われた。俺からしたら、緑がかっているので買取拒否をされるかと思ったくらいだったが。そして、手触りまで確かめてから提示した価格が、銀貨5枚だった。
「そうか。なら、実感できたな?この世界の紙事情が」
「はい・・・あんな品質の紙が、あの扱いをされるとは思いませんでした」
「一般庶民では中々手が出ない品だからな。実際紙問屋の客層は貴族や商人がほとんどだ。あとは役所が使うくらいだろう」
「それにしても、これだけ高価だと気軽には使えませんね。町の人たちは普段紙を使わないんですか?あ、そもそも字を読める人はどれくらいいるんですか?」
そもそも、字が読めなければ紙があっても使いみちが限られてしまうだろう。
「一部、読み書きのできないものもいるが・・・識字率は8割くらいだな。紙が高価なため、ほとんどが木簡を使用する。木の板を削って文字を書いて、そこに墨を流し込むんだ。森に近い町や村では、木簡製造が一つの産業になっている。シャールの町ではあまり作られてはいないが、東隣のポックル村がこの辺りでは一大産地になっている」
「識字率80%って、いくらなんでも高すぎませんか?この町で、ですよね?」
「ああ、シャールの町での数字だ。・・・ところで、お前から見て、この町の識字率はどれくらいが妥当だと思う?推測でいいから言ってみろ」
唐突なクイズだった。さて、一体どれくらいだろうか。




